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姫。⑥
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陛下に会ってから軟禁状態から解放された。
唇を噛み悔しそうに侍女長が「どうぞお好きに」と言って廊下側の扉の鍵を開けてくれた。
これで自由だ。
でも逆に自由に使用人になれない。
うーん、どうしよう。せっかくみんなと仲良くなれたのに。
それに侍女長達の態度にも少し違和感がある。
わたしが目覚めたばかりの時、とても心配そうにしていたはずなのに、記憶喪失だと知り、わたしが以前の『姫様』らしい態度でなくなった途端冷遇するようになった。
あからさまに『姫様』として扱われなくなった。
おかげで放っておかれて好き勝手に外に出られるようになったけど。
でもふと思う。
別に誰もわたしに関心がないのだからこれまで通りでいいのかもしれない。
今まで通り暇な時間は、隠し通路ではなく扉を開けて廊下を通り堂々と外へと出ることにした。
そしてソラさんを見つけ仕事をもらう。
ソラさんは何か言いたそうな顔をしていたけどわたしはいつも通りに接していたら諦めたのか「ソフィはソフィだものね」と苦笑いして仕事をくれた。
今日の仕事は厩舎で馬のお世話だった。
わたしがいた世界ではもちろん馬はいたけどなかなかお目にかかるものではない。
動物園に行くか乗馬クラブにでも入らない限り。
なので初めは怖かった。
だけどおじちゃん達が丁寧にお世話の仕方を教えてくれた。
主に餌やり、水やり、手入れ、厩舎の清掃 が仕事だけど、女の子で経験がないわたしができるのは水やりと清掃くらいだった。
大変だしなかなかの重労働だけど、馬と接するのも怖くなってきた。
多分わたしの体は乗馬の経験があるのだろう。わたしは怖がっても体は平気なようだ。
一頭の馬がわたしに異常に懐いてきた。
「この馬はこの一年以上人を乗せていないんだ」
「ああ、自分が気に入った人間しか乗せたがらないからな」
「馬にもそんな感情があるんですか?」
わたしは驚いて聞き返した。
「もちろんさ、この馬は特に頑固だし気が強い」
おじちゃんはそう言いながら馬の体を優しく撫でた。
「だが仔馬のころは体が弱くてな、それを必死でなんとか元気にしようと餌を与えに毎日通った少女がいたんだ。その少女が大好きで、こいつはその少女しか背中に乗せたがらないんだ」
「あなたはその少女が来るのを待っているのね?」
それは『姫様』のことなのね?
おじちゃん達はわたしがその姫様だとは思っていないみたい。
綺麗に着飾ってもいないし化粧もしていない。髪だってひとつにきゅっと結んでいるだけ。
特に今日は作業服を着ていて女の子らしさもない。
どこからみても『姫様』には見えない。でもこの馬はわたしだとわかっているようだ。
「ルドルフ……」
周りには聞こえない小さな声で馬の名前を呼んだ。
するとわたしの体に顔を擦り寄せてきた。
自分でも驚いた。自然と名前が口から出てきた。
「ソフィのことが好きなんだな」
「俺たちがどんなに可愛がってもこんなに嬉しそうにひっついてくることはなかったのに」
「わたしもルドルフと仲良くなれて嬉しいです」
「おや?ルドルフと名前を呼んだが、俺たちは名前を教えたことはないはずじゃ」
「え?さっき呼んでいましたよ?」
とりあえずすっとぼけて誤魔化すことにした。
「あ?つい呼んでしまったのか?」
「それはやばいやばい」と困った顔をしたおじちゃん達。
ここにきて思う。
なぜ名前を呼びたがらないのかしら?わたしのことはソフィとみんな呼んでくれるのに。
姫様のことになると多くを語らなくなる。
唇を噛み悔しそうに侍女長が「どうぞお好きに」と言って廊下側の扉の鍵を開けてくれた。
これで自由だ。
でも逆に自由に使用人になれない。
うーん、どうしよう。せっかくみんなと仲良くなれたのに。
それに侍女長達の態度にも少し違和感がある。
わたしが目覚めたばかりの時、とても心配そうにしていたはずなのに、記憶喪失だと知り、わたしが以前の『姫様』らしい態度でなくなった途端冷遇するようになった。
あからさまに『姫様』として扱われなくなった。
おかげで放っておかれて好き勝手に外に出られるようになったけど。
でもふと思う。
別に誰もわたしに関心がないのだからこれまで通りでいいのかもしれない。
今まで通り暇な時間は、隠し通路ではなく扉を開けて廊下を通り堂々と外へと出ることにした。
そしてソラさんを見つけ仕事をもらう。
ソラさんは何か言いたそうな顔をしていたけどわたしはいつも通りに接していたら諦めたのか「ソフィはソフィだものね」と苦笑いして仕事をくれた。
今日の仕事は厩舎で馬のお世話だった。
わたしがいた世界ではもちろん馬はいたけどなかなかお目にかかるものではない。
動物園に行くか乗馬クラブにでも入らない限り。
なので初めは怖かった。
だけどおじちゃん達が丁寧にお世話の仕方を教えてくれた。
主に餌やり、水やり、手入れ、厩舎の清掃 が仕事だけど、女の子で経験がないわたしができるのは水やりと清掃くらいだった。
大変だしなかなかの重労働だけど、馬と接するのも怖くなってきた。
多分わたしの体は乗馬の経験があるのだろう。わたしは怖がっても体は平気なようだ。
一頭の馬がわたしに異常に懐いてきた。
「この馬はこの一年以上人を乗せていないんだ」
「ああ、自分が気に入った人間しか乗せたがらないからな」
「馬にもそんな感情があるんですか?」
わたしは驚いて聞き返した。
「もちろんさ、この馬は特に頑固だし気が強い」
おじちゃんはそう言いながら馬の体を優しく撫でた。
「だが仔馬のころは体が弱くてな、それを必死でなんとか元気にしようと餌を与えに毎日通った少女がいたんだ。その少女が大好きで、こいつはその少女しか背中に乗せたがらないんだ」
「あなたはその少女が来るのを待っているのね?」
それは『姫様』のことなのね?
おじちゃん達はわたしがその姫様だとは思っていないみたい。
綺麗に着飾ってもいないし化粧もしていない。髪だってひとつにきゅっと結んでいるだけ。
特に今日は作業服を着ていて女の子らしさもない。
どこからみても『姫様』には見えない。でもこの馬はわたしだとわかっているようだ。
「ルドルフ……」
周りには聞こえない小さな声で馬の名前を呼んだ。
するとわたしの体に顔を擦り寄せてきた。
自分でも驚いた。自然と名前が口から出てきた。
「ソフィのことが好きなんだな」
「俺たちがどんなに可愛がってもこんなに嬉しそうにひっついてくることはなかったのに」
「わたしもルドルフと仲良くなれて嬉しいです」
「おや?ルドルフと名前を呼んだが、俺たちは名前を教えたことはないはずじゃ」
「え?さっき呼んでいましたよ?」
とりあえずすっとぼけて誤魔化すことにした。
「あ?つい呼んでしまったのか?」
「それはやばいやばい」と困った顔をしたおじちゃん達。
ここにきて思う。
なぜ名前を呼びたがらないのかしら?わたしのことはソフィとみんな呼んでくれるのに。
姫様のことになると多くを語らなくなる。
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