裏切られ殺されたわたし。生まれ変わったわたしは今度こそ幸せになりたい。

たろ

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姫。⑦

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「もう!やめて」

 髪の毛をルドルフが本気で食べようとする。

「わははは、ソフィ、早く逃げないと髪が短くなるぞ」

「ソフィちゃんが大好きなんだろうな」

 みんな大笑いして助けてくれない。

 ルドルフは日に日にわたしに懐き、甘えてくるし、最近はイタズラも増えた。

「ルドルフ!もう!嫌いになるからね」

 流石に本気で怒っているのに気がついたのかルドルフも髪を食べるのをやめた。

 でもわたしの髪の毛はルドルフの涎でぐっしょりと濡れて気持ちが悪い。

「お水で髪を洗ってきます」

「ルドルフはそこに居て!ついてきてはダメよ!」

 ルドルフがついてこようとするので振り向き少し怒った口調で言うと諦めてルドルフはこちらをじっと見つめた。

 あの黒い可愛らしい瞳で見られるとつい甘やかしてしまう。

「おいで」

 わたしの言葉に反応して静かにわたしの横に来ると、わたしの歩調に合わせてルドルフも歩き出した。

 外にある手押しポンプの井戸から水を汲み髪を洗い流した。

 横でルドルフも静かに桶に入った水を飲んでいた。

 持ってきたタオルで髪を拭いているとオリビア様の話し声が聞こえてきた。

 近くにいるのかしら?
 辺りを見回すと少し離れたところでわたしよりも少し年上の青年と話していた。
 多分17~19歳くらいだろうか。
 金髪に青い瞳、とても顔立ちが整っている。

 これぞ美青年!少年にも見えるが纏う雰囲気は少しだけ大人に近く感じた。

 今まで何度か見た彼女の姿とは打って変わって、少し頬を赤らめ穏やかな笑顔を絶やさないで彼の横顔をチラチラと窺っているのがわかった。

 うん、聖女様は王子様みたいな人が好きなのね。
 恋人かしら?婚約者?
 でもそんな噂は聞いていない。

 わたしはこんなところで会って何を言われるかわからないと思い目を逸らし隠れようとした。

 でもわたしの横には……隠れようのないでっかいルドルフがフンフンと興奮しながらわたしの横にいた。

 そう、さっきまで静かに水を飲んでいたはずのルドルフがなぜか気が立って興奮していたのだ。

「どうしたの?ドルルフ?落ち着いてちょうだい」

 ルドルフの体を優しく撫でながら耳元でゆっくり話しかけた。

「ルドルフ、いい子ね、よしよし」

 わたしの声がなんとかルドルフに届いたようだ。

 ホッとして「行きましょう」とルドルフの手綱を持ってあるきだそうとした。

「あら?どうしてお姫様である貴女がこんなところで馬のお世話をしているのかしら?」

 オリビア様が面白いものでも見つけたように嗤い、わたしの体を上から下へとジロジロと視線を向けてから、頬に手を置いた。

 「はああ」とため息をつき困った顔をしていた。

「この国の姫がそんな格好で城の中をウロウロするなんて醜聞になりかねないわ、ねぇ?」

 ねぇ?とわたしに言われてもわたし自身記憶がないし『姫様』としての自覚もない。

 誰も何も言わないもの。

「ルドルフはわたしの馬です。大切な友人なんです。友人のお世話をして何が悪いのですか?」

 わたしが馬鹿にされるのは別に平気。でもルドルフを汚いもののように見つめる目がとても嫌だ。

「友人?」
 クスクス馬鹿にして笑うオリビア様。

「はいそうです。とても大切なんです。貴女もその隣にいる方が大切だと思われるならご自分の性格の悪さはお隠しになったほうがよろしいかと思います」

「な、なんて言ったの?」

 オリビア様は隣にいる人のことを忘れたかのように声を荒げてわたしを睨みつけた。

「え?頭も悪いのに耳も悪くなったんですか?もう一度言ったほうがいいですか?」

 スーッと息を吸い込んで、息を吐きながら満面の笑みを作り出した。

「オリビア様は頭も悪いけど性格も悪いと本当のことを言っただけです」

 横にいる青年は眉をビクッと一瞬動かしたが声を出そうとしない。

 ただ、わたしとオリビア様の会話を黙って聞いていた。

 わたしも自分の口からこんなキツイ発言が出るとは思ってもみなかった。
 多分『姫様』はこんな強気なこと言う人ではなかったのだろう。


 この国の『聖女様』を敵に回して、これから平穏無事に生きていけるかしら?
 自業自得だけど。








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