裏切られ殺されたわたし。生まれ変わったわたしは今度こそ幸せになりたい。

たろ

文字の大きさ
16 / 24

姫。⑧

しおりを挟む
 わたしの頬は……真っ赤に腫れ上がった。

 流石に口が悪すぎたかしら?

 オリビア様に思いっきり頬をバチンっと叩かれた。

「いくらなんでも酷いわ!」

 そう言って「わぁーー」っと顔を覆って泣き出した。

 隣にいた青年はオリビア様の肩を優しく抱き「泣かないで」と慰めていた。

 オリビア様にキッと睨まれて、彼女は青年に寄り添いながら去って行った。

 もう少し手加減してもいいんじゃないかしら?かなり痛かったのだけど。

 周囲にはたくさんの護衛が隠れて控えていたようだった。
 興奮していたのか足早に去るオリビア様に、慌てて護衛達が後ろからついて行った。

 護衛達がわたしの横を通り過ぎる時、冷たい視線と敵意を向けてきた。

 この国の姫であるわたしは、やはり敬われていないようだ。

 まあ、それはそうだよね。

 以前の姫様は多分大人しくてあまり自己主張がなさそうだったもの。
 ーー夢の中での記憶だけど。

 今のわたしは記憶がない姫様で、国王達に見捨てられて誰からも振り向いてもらえないのだもの。

 おかげで自由だけど。

 ルドルフが心配そうにわたしの頬をベロンと舐めた。

「大丈夫だよ?記憶がないおかげで傷つくことすらないんだもの」

 持っていたタオルを湿らせて赤くなった頬を冷やした。

 つい『姫様』が可哀そうになりオリビア様にキツイことを言ってしまった。

 向こうが絡んできたとはいえやり過ぎたかな?
 国王陛下が何か言ってきてお咎めを受けるかもしれないな。


「ルドルフ、帰ろう」

 厩舎に戻るとおじちゃん達が驚いた顔をしていた。

「どうしたんだ?ソフィちゃん」
「頬が腫れてるぞ?」

「……うん、転びました」

 「転んで恥ずかしかったの」と笑って誤魔化した。



 ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎


 久しぶりに隠し通路のある場所へと向かった。

 最近は軟禁状態ではないので扉から好きに外を行き来できる。

 でもこの場所は何かあったら逃げ道として確保しておきたい。

 そう……逃げ道として。

 ここに来てから、この城の中だけでしかまだ過ごしていない。
 あの城門を出て町へ行ったことがないし、どんな家があるのか、この国はどんな国なのか、村や町がどれくらいあるのかもよくわからない。

 『姫様』をやめて一人で生き抜くことができるのか不安だけど、この国では16歳になれば成人するらしい。

 なのでわたしの場合はあと1年と数ヶ月すれば大人になれる。

 元の世界では一人暮らしをしていたんだもの。

 それまでに生きていくための知識をたくさん増やして、ついでに小銭を稼いで、この城から抜け出してなんとか生きていくつもり。

 なんとなく散歩をしていると「君、大丈夫だった?」
 知らない男の人の声が背中に話しかけてきた。

 思わずビクッとして肩が震えた。

 だれ?
 この場所は人気があまりない場所なのに。

 恐々と振り向くとあの青年が立っていた。

「貴方は………」

 誰かしら?

「ああ、俺はネルヴァン・ルワナだ」

 ルワナ…………ルワナ………

 忘れたくても忘れられない。何度も夢で見た………あの城………

 冷たい視線、冷たい態度………毎日が苦しかった………


「あ…………ああああっ………こ、こないで……向こうへ行って……」

 首を横に何度も振った。

 体が震えて動けない。

 忘れていたはずなのに、夢のはずなのに……思い出した…………




 ボロボロのドレスを着ていた……長く美しかっただろう髪はボサボサ、肌もガサついていた。
 体は痩せこけて誰が見ても見るに忍びない姿だった。

 そして城壁の上に立たされた。

 それも体と手を縄で縛られ、いつ落ちてしまうかわからない状態で。

 下を見るとたくさんの人々が石を投げてくる。

 聞こえてくるのは怒声。
「死ね!」
「この悪女!」
「さっさと落ちてしまえ!」

 悪意しか感じない、罵声の中、心の中が凍りつき、表情は暗く、体が震えていた。

 石が当たる。痛みでうっと声が出た。

 突然後ろから剣で刺された。
 痛みが全身を貫いた。

 血が滴る。

 その後城壁の上から落とされた。

 ドスンッ。


 もう………痛みすら感じない。

 やっと……やっと……解放された。この苦しみから、嘲りから、そして彼の裏切りから……


 彼の手がわたしの方へと向かってくる。


「いやあああああ」

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?

きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。 しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……

この幻が消えるまで

豆狸
恋愛
「君は自分が周りにどう見られているのかわかっているのかい? 幻に悋気を妬く頭のおかしい公爵令嬢だよ?」 なろう様でも公開中です。

手放してみたら、けっこう平気でした。

朝山みどり
恋愛
エリザ・シスレーは伯爵家の後継として、勉強、父の手伝いと努力していた。父の親戚の婚約者との仲も良好で、結婚する日を楽しみしていた。 そんなある日、父が急死してしまう。エリザは学院をやめて、領主の仕事に専念した。 だが、領主として努力するエリザを家族は理解してくれない。彼女は家族のなかで孤立していく。

【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」 そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。 彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・ 産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。 ---- 初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。 終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。 お読みいただきありがとうございます。

私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください

迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。 アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。 断るに断れない状況での婚姻の申し込み。 仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。 優しい人。 貞節と名高い人。 一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。 細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。 私も愛しております。 そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。 「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」 そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。 優しかったアナタは幻ですか? どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

婚約者様への逆襲です。

有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。 理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。 だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。 ――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」 すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。 そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。 これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。 断罪は終わりではなく、始まりだった。 “信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。

処理中です...