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ルバート伯爵家へ。②
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ルドルフが餌を食べたことを確認してからルバート伯爵家の屋敷へ歩いて向かった。
宿屋の店主のおじちゃんは元騎士さん。
彼はルドルフを見てすぐにどこかの貴族の馬だろうと気付いたと思う。
でも馬は賢い。盗んだ馬がわたしに懐くわけがない。だからあの馬がわたしに飼われていることは理解している。
そしてわたしを見た瞬間の店主のおじちゃんは、多分気付いていた。そしてあえて何も聞かないでくれた。
わたしがこの国の『姫様』だったことを。
歩いているとふと後ろから人の気配がする。
悪い感じはしない。
わたしが歩いているのを見守っていてくれる温かみのある感じ。
伯爵家?宿屋のおじちゃん?
やはり大きな町に来ると『姫様』を忘れていない人もいるのだろうな。
記憶が戻り姫様としての性格も戻ったけど、前世の現代に生きた記憶もあるため、昔のままの『姫様』はもうどこにもいない。
この国のために生きることも、両陛下のためにご機嫌取りをすることもしない。
だって捨てられたんだもん。わたしからも捨てればいい。
ルワナ王国からもし圧力がかかれば王女殿下であるオリビア様がネルヴァン様と結婚すればいいと思う。
わたしの時のようにバカみたいに彼に少しでも好かれようと、国の民たちに好かれようと、必死で働くなんてことしないだろうから、適当に側妃であるリリア様と二人で夫を共有すればいい。
ふと思い出した。
現代で暮らしたあの頃。
田所有紗。
彼女はなぜかオリビア様とリリア様に似ていると感じた。
二人に?
………なぜなんだろう。
思い出しただけで既視感を感じ背中がゾクッとした。
『あんたなんかまた死ねばいいのよ』
あの声は田所有紗。
わたしがルワナ王国で死んだことを知っているのはリリア様とオリビア様。
どちらかが田所有紗の生まれ変わり?
あの頃、どちらもわたしのことをよく思ってはいなかった。
でもだからといってホームからわたしを突き落とす?
首を横に振った。
この世界なら死は近くにある。
でも現代社会で殺人は簡単にできることではない。
それも田所有紗はわたしから恋人を奪ったし、仕事でもわたしに対して嫌がらせばかりしてきた。
十分ではないのかしら?
歩きながらいろいろと考え込んでしまった。
「危ない!」
男性の声に反応した。
後ろから羽交い締めにされそうになった。
思わず体が動き、男の腕を掴むと思いっきり背負い投げ。
「ぐわっ」
地面に転がる男とわたしを護ろうとしていた護衛らしき男が驚いた顔でこちらを見つめた。
柔道を習っていたわたし。
うん!平民として暮らしたおかげでこの体もしっかり体力と筋力がついているので、ちゃんと体が反応してくれた。
「大丈夫……でしたね」
苦笑しながらもわたしが無事か確かめて地面に転がる男を捕らえた。
「この男の取り調べをしろ」
部下らしき別の護衛二人が男を連れて行った。
「護衛ありがとうございます」
微笑んでそのまま彼らに何も問わず歩き出した。
「お待ちください!ルーバート伯爵家まで馬車にお乗りください」
「結構です。貴方達が何者かわからないのにどうして乗らなければならないのかしら?」
「申し遅れました。私達は、貴女を護るようにと主に命を受けております」
「主?それは誰?」
「名は申し上げられませんが貴女様を護るためであって危害を加えることはございません」
「そう……名も名乗れない人から守っていただかなくて結構よ。帰って」
冷たく言い放ち一人でルバート伯爵家へ向かう。
なんだかイライラする。
わたしが欲しいのは自由。そして、ルドルフとの幸せな生活。
誰かに縛られるのも無いものとして扱われるのも嫌。
『姫様』ではなくソフィとして生きていきたい。
放っておいて欲しい。
宿屋の店主のおじちゃんは元騎士さん。
彼はルドルフを見てすぐにどこかの貴族の馬だろうと気付いたと思う。
でも馬は賢い。盗んだ馬がわたしに懐くわけがない。だからあの馬がわたしに飼われていることは理解している。
そしてわたしを見た瞬間の店主のおじちゃんは、多分気付いていた。そしてあえて何も聞かないでくれた。
わたしがこの国の『姫様』だったことを。
歩いているとふと後ろから人の気配がする。
悪い感じはしない。
わたしが歩いているのを見守っていてくれる温かみのある感じ。
伯爵家?宿屋のおじちゃん?
やはり大きな町に来ると『姫様』を忘れていない人もいるのだろうな。
記憶が戻り姫様としての性格も戻ったけど、前世の現代に生きた記憶もあるため、昔のままの『姫様』はもうどこにもいない。
この国のために生きることも、両陛下のためにご機嫌取りをすることもしない。
だって捨てられたんだもん。わたしからも捨てればいい。
ルワナ王国からもし圧力がかかれば王女殿下であるオリビア様がネルヴァン様と結婚すればいいと思う。
わたしの時のようにバカみたいに彼に少しでも好かれようと、国の民たちに好かれようと、必死で働くなんてことしないだろうから、適当に側妃であるリリア様と二人で夫を共有すればいい。
ふと思い出した。
現代で暮らしたあの頃。
田所有紗。
彼女はなぜかオリビア様とリリア様に似ていると感じた。
二人に?
………なぜなんだろう。
思い出しただけで既視感を感じ背中がゾクッとした。
『あんたなんかまた死ねばいいのよ』
あの声は田所有紗。
わたしがルワナ王国で死んだことを知っているのはリリア様とオリビア様。
どちらかが田所有紗の生まれ変わり?
あの頃、どちらもわたしのことをよく思ってはいなかった。
でもだからといってホームからわたしを突き落とす?
首を横に振った。
この世界なら死は近くにある。
でも現代社会で殺人は簡単にできることではない。
それも田所有紗はわたしから恋人を奪ったし、仕事でもわたしに対して嫌がらせばかりしてきた。
十分ではないのかしら?
歩きながらいろいろと考え込んでしまった。
「危ない!」
男性の声に反応した。
後ろから羽交い締めにされそうになった。
思わず体が動き、男の腕を掴むと思いっきり背負い投げ。
「ぐわっ」
地面に転がる男とわたしを護ろうとしていた護衛らしき男が驚いた顔でこちらを見つめた。
柔道を習っていたわたし。
うん!平民として暮らしたおかげでこの体もしっかり体力と筋力がついているので、ちゃんと体が反応してくれた。
「大丈夫……でしたね」
苦笑しながらもわたしが無事か確かめて地面に転がる男を捕らえた。
「この男の取り調べをしろ」
部下らしき別の護衛二人が男を連れて行った。
「護衛ありがとうございます」
微笑んでそのまま彼らに何も問わず歩き出した。
「お待ちください!ルーバート伯爵家まで馬車にお乗りください」
「結構です。貴方達が何者かわからないのにどうして乗らなければならないのかしら?」
「申し遅れました。私達は、貴女を護るようにと主に命を受けております」
「主?それは誰?」
「名は申し上げられませんが貴女様を護るためであって危害を加えることはございません」
「そう……名も名乗れない人から守っていただかなくて結構よ。帰って」
冷たく言い放ち一人でルバート伯爵家へ向かう。
なんだかイライラする。
わたしが欲しいのは自由。そして、ルドルフとの幸せな生活。
誰かに縛られるのも無いものとして扱われるのも嫌。
『姫様』ではなくソフィとして生きていきたい。
放っておいて欲しい。
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