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王妃様。
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突然目の前に現れたのはわたしによく似た、でも全く違う気品溢れた年上のとても美しい女性だった。
ハッと我に返り慌てて挨拶をした。
「……王妃様……にご挨拶申し上げます」
何も言われないので頭を下げたままでいる。
今のわたしの格好はもちろん作業服。
ドレスも着ていないし、貴族令嬢としての挨拶をするにはふさわしくはない。
だから、平民としてただ頭を下げればよかったのでは?
そう思い、頭を上げた。
目の前にはわたしを黙って見つめる王妃様の瞳があった。
その瞳には全く愛情を感じない。わたしを産んだ人なのに、まるで赤の他人で、ただわたしを見下ろしているように見える。
「…………」
「…………」
ん……わたしから話すことはない。
目の前にいる王妃様も話すことがないようだ。
互いに交わす言葉はない。
だったら仕事に戻ろう。
ぺこりともう一度頭を下げて、仕事場へ戻ろうとした。
まだ餌やりの途中だし、ルドルフ達がお腹を空かせて不機嫌に待っているだろう。
立ち去ろうとした時。
「お待ちなさい」
ああ、久しぶりにこの声を耳にした。
この前お二人に会いにいった時も考えてみたら陛下としか話していなかった。
王妃様は、青い顔をしてただ黙ってわたしを見ていた。
あの時の王妃様は、なんて失礼な娘だと思ったのかしら?ほんの少しでも、わたしのことを娘だと思っていてくれたのかしら?
思い出すのは幼い頃のこと。
生まれてすぐから両親とは離れて暮らした。二人はこの国の国王両陛下。政務で忙しく子供のことに構っている暇などなかった。
乳母や侍女達に預け、たまに会いに来るだけだった。
その、たまに会える日を楽しみに、良い子でいなければと、必死で習い事を頑張り、わがままを言わずに過ごした。
大雨の夜はとても怖かった。熱が出た日はお母様にそばにいて欲しかった。
勉強ができた時は褒めて欲しかった。
なのにオリビア様に居場所を奪われ、二人の愛情はオリビア様に向けられた。
わたしには滅多に会うことなどなかったのに、二人はオリビア様とは楽しい時間を過ごしていた。
思い出すと胸がギュッと苦しくなる。
でも、もう思い出す必要もない。
だって今のわたしはソフィなんだもの。
わたしは振り返ることもなく、歩みも止めない。
「ソフィア、待てと言ったのよ」
仕方なくピタリと足の動きを止めた。
頭だけを動かしてチラリと王妃を見て、ため息をついた。
「ハァー、何か御用でしょうか?何も仰らないので、もう仕事に戻っていいのかと判断しました」
不敬だと罵ればいい。
牢屋に入れたければ入れればいい。
周りにいる護衛達のわたしを見る目が嫌悪を浮かべ、鋭い目で睨んできていた。
いつわたしを取り押さえようかと待ち構えているようだ。
「貴女ももう16歳になったと言うのに、その態度は成人した女性とは思えないわね?」
「あら?よくご存知ですね?」
王妃様に向かって冷笑した。
「王妃様は、わたしのことを覚えてすらいないと思っておりました」
わたしの言葉に一瞬だが、ほんの僅かだけ表情が動いた気がした。
よく見れば気のせいだったのかもしれない。
顔だけ向けているのも首が疲れて、仕方なく振り返った。
王妃様との距離は離れていたが、これが今のわたしと王妃様の距離を表しているのだと思った。
ただ、血が繋がっているだけの他人。
「………王妃様……」
ほとんど聞こえないくらいの小さな声。
その声はわたしの耳には届かない。
「何が仰いました?」
聞き直そうと訊ねた。
「………なんでもないわ」
「そうですか?では仕事が立て込んでおりますので失礼します」
話す気もしないので、今度こそ立ち去ろうとした。
「お待ちなさい……この城から貴女には出ていってもらいたいの」
「………喜んで出て行きます。ただ、この城に引き止めているのは、わたしではなく陛下です。その言葉は陛下に伝えてください」
「わたくしが、貴女をここから出すわ」
「本当ですか?」
思わず信じられなくて疑いの目で王妃様を見た。
ここに連れて来たのは陛下だ。そんな簡単に王妃様の一存でわたしを追い払うことが出来るのだろうか?
「わたくしの大切なオリビアが、貴女がいることで心を痛めているの。あの子の平穏のためにも貴女は邪魔でしかないわ」
「わたしも、ここにいることが苦痛で仕方がありません。もちろん、ここにいるおじちゃん達は大好きですが、それ以外の人たちに対して、何も思うことはありません。出してくれるというなら、喜んで出て行きます」
ただし、ルドルフも一緒に。
「じゃあ、お互いの意見は同じなのね?今夜、わたくしの下の者が貴女を城から出られるように手配するから寝ずに待っていなさい。貴女の馬も、煩わしいから一緒に連れていきなさい。
あんな見窄らしい馬など、この城には相応しくないもの」
カチンときたので言い返したかった。だけど、せっかく城からルドルフと共に出してくれると言うのだから、それに従わないなんて馬鹿らしい。
「王妃様、ありがとうございます。今夜にはこの城を喜んで出て行きます」
王妃様はわたしを見ることもなくその場から立ち去った。
◆ ◆ ◆
更新お待たせいたしました。
読んでいただきありがとうございます。
ハッと我に返り慌てて挨拶をした。
「……王妃様……にご挨拶申し上げます」
何も言われないので頭を下げたままでいる。
今のわたしの格好はもちろん作業服。
ドレスも着ていないし、貴族令嬢としての挨拶をするにはふさわしくはない。
だから、平民としてただ頭を下げればよかったのでは?
そう思い、頭を上げた。
目の前にはわたしを黙って見つめる王妃様の瞳があった。
その瞳には全く愛情を感じない。わたしを産んだ人なのに、まるで赤の他人で、ただわたしを見下ろしているように見える。
「…………」
「…………」
ん……わたしから話すことはない。
目の前にいる王妃様も話すことがないようだ。
互いに交わす言葉はない。
だったら仕事に戻ろう。
ぺこりともう一度頭を下げて、仕事場へ戻ろうとした。
まだ餌やりの途中だし、ルドルフ達がお腹を空かせて不機嫌に待っているだろう。
立ち去ろうとした時。
「お待ちなさい」
ああ、久しぶりにこの声を耳にした。
この前お二人に会いにいった時も考えてみたら陛下としか話していなかった。
王妃様は、青い顔をしてただ黙ってわたしを見ていた。
あの時の王妃様は、なんて失礼な娘だと思ったのかしら?ほんの少しでも、わたしのことを娘だと思っていてくれたのかしら?
思い出すのは幼い頃のこと。
生まれてすぐから両親とは離れて暮らした。二人はこの国の国王両陛下。政務で忙しく子供のことに構っている暇などなかった。
乳母や侍女達に預け、たまに会いに来るだけだった。
その、たまに会える日を楽しみに、良い子でいなければと、必死で習い事を頑張り、わがままを言わずに過ごした。
大雨の夜はとても怖かった。熱が出た日はお母様にそばにいて欲しかった。
勉強ができた時は褒めて欲しかった。
なのにオリビア様に居場所を奪われ、二人の愛情はオリビア様に向けられた。
わたしには滅多に会うことなどなかったのに、二人はオリビア様とは楽しい時間を過ごしていた。
思い出すと胸がギュッと苦しくなる。
でも、もう思い出す必要もない。
だって今のわたしはソフィなんだもの。
わたしは振り返ることもなく、歩みも止めない。
「ソフィア、待てと言ったのよ」
仕方なくピタリと足の動きを止めた。
頭だけを動かしてチラリと王妃を見て、ため息をついた。
「ハァー、何か御用でしょうか?何も仰らないので、もう仕事に戻っていいのかと判断しました」
不敬だと罵ればいい。
牢屋に入れたければ入れればいい。
周りにいる護衛達のわたしを見る目が嫌悪を浮かべ、鋭い目で睨んできていた。
いつわたしを取り押さえようかと待ち構えているようだ。
「貴女ももう16歳になったと言うのに、その態度は成人した女性とは思えないわね?」
「あら?よくご存知ですね?」
王妃様に向かって冷笑した。
「王妃様は、わたしのことを覚えてすらいないと思っておりました」
わたしの言葉に一瞬だが、ほんの僅かだけ表情が動いた気がした。
よく見れば気のせいだったのかもしれない。
顔だけ向けているのも首が疲れて、仕方なく振り返った。
王妃様との距離は離れていたが、これが今のわたしと王妃様の距離を表しているのだと思った。
ただ、血が繋がっているだけの他人。
「………王妃様……」
ほとんど聞こえないくらいの小さな声。
その声はわたしの耳には届かない。
「何が仰いました?」
聞き直そうと訊ねた。
「………なんでもないわ」
「そうですか?では仕事が立て込んでおりますので失礼します」
話す気もしないので、今度こそ立ち去ろうとした。
「お待ちなさい……この城から貴女には出ていってもらいたいの」
「………喜んで出て行きます。ただ、この城に引き止めているのは、わたしではなく陛下です。その言葉は陛下に伝えてください」
「わたくしが、貴女をここから出すわ」
「本当ですか?」
思わず信じられなくて疑いの目で王妃様を見た。
ここに連れて来たのは陛下だ。そんな簡単に王妃様の一存でわたしを追い払うことが出来るのだろうか?
「わたくしの大切なオリビアが、貴女がいることで心を痛めているの。あの子の平穏のためにも貴女は邪魔でしかないわ」
「わたしも、ここにいることが苦痛で仕方がありません。もちろん、ここにいるおじちゃん達は大好きですが、それ以外の人たちに対して、何も思うことはありません。出してくれるというなら、喜んで出て行きます」
ただし、ルドルフも一緒に。
「じゃあ、お互いの意見は同じなのね?今夜、わたくしの下の者が貴女を城から出られるように手配するから寝ずに待っていなさい。貴女の馬も、煩わしいから一緒に連れていきなさい。
あんな見窄らしい馬など、この城には相応しくないもの」
カチンときたので言い返したかった。だけど、せっかく城からルドルフと共に出してくれると言うのだから、それに従わないなんて馬鹿らしい。
「王妃様、ありがとうございます。今夜にはこの城を喜んで出て行きます」
王妃様はわたしを見ることもなくその場から立ち去った。
◆ ◆ ◆
更新お待たせいたしました。
読んでいただきありがとうございます。
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