裏切られ殺されたわたし。生まれ変わったわたしは今度こそ幸せになりたい。

たろ

文字の大きさ
42 / 45

一年後。

しおりを挟む
「ソフィ!ここの書類を先に終わらせて!」
「はい!」


 わたしは他国へと流れ着いていた。

 一年前、ルドーの屋敷から出て、たまたま仕入れで隣国へ向かう行商の集団と合流できた。

「女の子が一人で旅をしている?危ないだろう?」

 商会長のブルックさんは小太りで気さくなおじさまだった。

 ルドルフと川の近くで休憩していると、おじさん達も休憩のためなのかわたしの近くに寄ってきた。

 思わず懐に隠した短剣を握りしめた。

「おっと、俺たちは怪しい者じゃない。ほら、ここに身分証明書があるだろう?」

 そう言ってわたしに身分がわかるように証明書を見せてくれた。

「わたしは……」

 身分証明書……そんなものがあるんだ。

「とりあえず一人で旅をするのは危ない。ルドネル伯爵に頼まれたんだ」

 ふっと笑って私の頭を優しくポンと軽く触れた


「隣国まで一緒に旅をしないか?」

 他の人に聞こえるように大きな声でブルックと名乗ったおじさんが言った。

 少し離れたところにいる他の人たちは何気なくわたし達の方を見たけど、すぐに視線を戻してしまった。

「ルドー……ルドネル伯爵様に?」

 小さな声で囁くようにブルックは早口で告げた。

「今ここにいるのは私と貴方だけです。姫様、ここに新しい身分証明書があります。これがあればこの国を問題なく出ていくことができます。
 私達はこれから仕入れのため数カ国周る予定です。その間どうぞ私の使用人として着いて来ていただけないでしょうか?そうすれば怪しまれずに貴方を遠くに逃すことができます」

「でも……ルドルフがいるわ」

 ルドルフは城で飼われている馬。

「ははは、大丈夫です。うちの馬達を見てください。ルドルフほどではありませんが皆立派な馬です。紛れてしまえばごまかせます」

 チラリと馬達へ目を向けた。

 確かに立派な馬も何頭かいた。

「えっ?ブライアン?」

「ブライアンとは?もしかしてあそこにいる馬ですか?」

「ええ、あれはブライアンだわ」

 わたしの言葉が聞こえたのか水を飲んでのんびりと草を食べていたブライアンがこちらにゆっくり向かって来た。

 ブライアンはわたしが立ち上がると擦り寄って甘える仕草を見せた。

「やっぱりブライアンね?もしかして、あの騒動で逃げ出したの?お城へ帰らないと……」

「この馬は私たちの集団について来たのです。そうか……私達がソフィア様を追いかけていたから付いてきたのか」

「ブライアン、駄目でしょう?ネルヴァン様が心配しているわよ。帰りなさい」

 少しきつめの言葉でブライアンを叱った。

 だけどブライアンはわたしの言葉など聞いていないかのようにルドルフを見つけると、嬉しそうにルドルフのところへ駆け出した。

「ブライアン!」

「ソフィア姫……いや、ソフィさん。あの馬は自らの意思で貴方達を選んだんです。無理やり帰れと言っても帰らないと思います。それにブライアンを探していると言う話は耳にしていません。
 もし探しているなら私達行商人の耳にすぐに入ってきます。一番早く情報が入るのですから」

「でも……このままブライアンまで連れて行くのは……」

「流されるまま逆らわず行くのが一番です」

「そんな……もし何か問題が起きればブルックさん達が困るのでは?」

「なあに、ただ、迷い馬を保護しただけです。特に問題はございません。そして貴方も、若い女の子が一人旅をしていて困っているのだから少し手助けしたまでです。それに問題でも?」

「………ご一緒してもよろしいのですか?」

「もちろんですよ」



 こうしてわたしはルドーの心遣いで、ブルックさん一行と旅をすることになった。

 そして流れ着いたのはリシャ国ともルワナ王国とも親交があまりないシャトナー国だった。

 少し昔ながらの気質が強く、伝統的で社会的なルールやマナーが堅苦しい国として知れ渡っているが、他国からの移民に対して差別的な目で見ることは少なく、ここならわたしが安心して暮らしていけるだろうとブルックさんがお勧めしてくれた。

 ブルックさんが保証人となり家を借りてくれて仕事場も与えてくれた。

 文字が読め計算もできるおかげで町役場で事務をしている。

 姫として生きてきたおかげで、数カ国語が話せる。
 そんなわたしに「本当はずっと一緒に旅をしてもらえれば助かるのだが」とブルックさんが残念がってくれた。

 わたしもみんなと仲良くなれて別れるのはとても辛かった。だけど彼らはリシャ国へと帰る人達だ。

 わたしがもう二度と足を踏み入れることはない場所へ。

 わたしが住む家は街から少し離れた森の近くを選んでもらった。

 女の子一人では何かと危険だからと、近所にはお年寄り夫婦や小さな子供がいる家族など、安心して暮らせる場所を選んでくれた。

 でも最近知ったのだけど、この家も周囲に住む人達も全てシャトナー国のある貴族が用意してくれていたらしい。

 その貴族は、王妃の友人で、わたしの人生は彼女の掌の上で全て決まっていたのだった。

 それを知った時、逃げ出そうとした。

 でもその貴族の方に言われた。

「これ以上逃げて生きるよりも、この国で自由に生きてはどうですか?貴方が姫だったことを知るのは、わたしとこの国の王だけです。だからと言って、無理に貴方に手を差し伸べることはしません。遠くから見守るだけです。どうか貴方の好きなように暮らしてください。もちろん貴方が貴族として生きたいと言うのならわたしの養女として引き取ることになっても構いません」

 その人は少し寂しそうに遠くを見つめた。


「わたしは……大切な娘がこの国から出て行ってしまい失いました……親は娘のことを大切に思ってはいるのですが、なかなか伝わらないものです。
 貴族として家名の存続や地位、責任が先になります。親であっても娘の幸せを先に選ぶわけにはいきません。その結果、娘はわたしを信用することなく、この国から逃げ出しました。今はある国で夢だった騎士になり幸せに暮らしております」

「わたしも……選ばれず親に捨てられました」

「捨てたわけではない、苦渋の決断だったのだと思います……それでも貴方の心は傷つけられてしまったのでしょうね」

「わたしはこの国でソフィとして生きて行きたいです」

 最近は休みの日はご近所さんとお茶をしたり、友人達と街へ買い物に行ったりと楽しんでいる。

 ルドルフもブライアンもこの国が気に入ったらしい。二頭は今その貴族のお屋敷で飼われている。

 わたしが二頭を飼うのは難しかった。あまりにも立派な馬だったので悪目立ちした。
 ブルックさんが紹介してくれた貴族だったので安心して預けた。たまに会いに行くことも許可してもらった。

 そこでその当主と偶然会ってしまった。

 幼い頃、会ったことがある顔だった。

「まさか、お会いするとは思いませんでした」

 とても広いお屋敷の敷地で、公爵家の当主と平民でしかないわたしが偶然会うことなど稀だった。

「あなたが、バーグル公爵様?」

 そして、すぐに事情を察してしまった。

 これは全て用意されていたものだと。

 でも、わたしは受け入れた。

 だって、やっと何のしがらみもなく自由に生きていける場所だったから。





しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った

Mimi
恋愛
 声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。  わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。    今日まで身近だったふたりは。  今日から一番遠いふたりになった。    *****  伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。  徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。  シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。  お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……  * 無自覚の上から目線  * 幼馴染みという特別感  * 失くしてからの後悔   幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。 中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。 本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。 ご了承下さいませ。 他サイトにも公開中です

貴方にはもう何も期待しません〜夫は唯の同居人〜

きんのたまご
恋愛
夫に何かを期待するから裏切られた気持ちになるの。 もう期待しなければ裏切られる事も無い。

【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。

西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。 私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。 それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」 と宣言されるなんて・・・

彼女が望むなら

mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。 リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

夫は家族を捨てたのです。

クロユキ
恋愛
私達家族は幸せだった…夫が出稼ぎに行かなければ…行くのを止めなかった私の後悔……今何処で何をしているのかも生きているのかも分からない…… 夫の帰りを待っ家族の話しです。 誤字脱字があります。更新が不定期ですがよろしくお願いします。

「10歳の頃の想いなど熱病と同じ」と婚約者は言いました──さようなら【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王太子フリードリヒの婚約者として、幼い頃から王妃教育を受けてきたアメリア・エレファウント公爵令嬢。 誰もが羨む未来を約束された彼女の世界は、ある日突然1人の少女の登場によって揺らぎ始める。 無邪気な笑顔で距離を(意図的に)間違える編入生ベルティーユは、男爵の庶子で平民出身。 ベルティーユに出会ってから、悪い方へ変わっていくフリードリヒ。 「ベルが可哀想だろ」「たかがダンスくらい」と話が通じない。 アメリアの積み上げてきた7年の努力と誇りが崩れていく。 そしてフリードリヒを見限り、婚約解消を口にするが話は進まず、学園の卒業パーティーで断罪されてしまう……?! ⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています

処理中です...