18 / 48
18話
しおりを挟む
「おはようございます」
シルヴィオ様の姿を見つけた。
急いで走って殿下のそばに。
「アイシャ、おはよう」
「今日は王宮へ行く日なんです。シルヴィオ様、帰りは一緒に行けますか?」
今日は先生に特別授業を受けることになっている。来月、ソラリア帝国から王族である公爵一家が視察で来られる。
そのためソラリア語を今習っているところ。
簡単な言葉なら正確に話せるけど発音が難しい言葉もたくさんあるし言い回しが難しくまだまだ相手に失礼な言葉を言ってしまう可能性があるため、必死で覚えているところだ。
学校から直接行く時はシルヴィオ様と一緒に帰れるので、勉強は大変だけど楽しみ。
「大丈夫だよ、放課後いつもの場所で待ってるよ」
「はい」
シルヴィオ様の周りには側近候補の子息の方や、同級生の友人達が常にそばにいる。
わたしは皆さんに「おはようございます。お邪魔いたしました」と頭を下げた。
婚約者ではあるけど、シルヴィオ様達はわたしより3歳年上。それにいずれはシルヴィオ様と結婚すれば公爵家に婿入りされて、彼らはシルヴィオ様のもとで働く方達だ。
わたしも彼らとは敵対はしたくない。できるだけ友好的な関係を築きたい。
一人一人と少しずつ会話をするように心がけている。令嬢達はわたしのそんな姿を少し冷ややかな目で見ていることにも気がついてはいるけど、気にしない。
令嬢達にも挨拶を交わしながら、少しの嫌味も笑ってながす。
でも……何故かそれができない人がいる。
「アイシャ様はお人形のように可愛らしいお方ですね?」
顔は笑っていないのに毎回そう言ってくるミラーネ様。
ミラーネ様は庶民だった。
それが聖女の力を発現されたからと神官長様の養女となり学園に編入してきた。
とても明るくて誰とでも仲良くなれるお方で、すぐにシルヴィオ様達とも親しくなった。
わたしとは正反対の人だと思う。
わたしは人見知りが激しく慣れた人としかうまく話せない。みんなに話しかけるのも本当はドキドキしてしまう。
そんなわたしの心を見透かしているかのようにわたしをじっと見つめる。
「わたし………」
ーーお人形……
それはわたしを揶揄する言葉。それがわかっていても言い返せない。
先生方から習ったことしかできない。
必死でシルヴィオ様に相応しくなろうと頑張っていても、まだまだ足りなくて。
ミラーネ様のように誰とでも仲良く話ができて、すぐにシルヴィオ様に信頼されておそばに当たり前のようにいることができて……羨ましい……
わたしにないものを持っているミラーネ様に憧れ、そして……惨めになってしまう。
俯き何も言えないわたしをそのまま無視するかのようにシルヴィオ様に甘えるようにミラーネ様が言った。
「シルヴィオ!わたしも今日陛下のご様子を診に行くことになっているの。いつものようにわたしも馬車に乗せてね?」
「ああ、大丈夫だよ。三人乗れるからね」
『シルヴィオ』と呼んだ。
わたしは最近やっと『殿下』から『シルヴィオ様』になったばかりなのに。
シルヴィオ様もミラーネ様に名を呼ばれても眉ひとつ動かさなかった。周りもみんな何も感じていない。
誇らしげにわたしの顔を見たミラーネ様は、一瞬だけ…ニヤッと笑った気がした。
でもすぐにいつもの明るい笑顔で「アイシャ様よろしくね?」と声をかけられた。
「こちらこそよろしくお願いいたします」
わたしはその後、急いでみんなの前から立ち去った。
どんな顔をしていただろう。
惨めな顔?
とても恥ずかしい。いい気になってたわたし。
『婚約者』という立場なだけでそこに『愛』はない。わたしがお慕いしているだけ。
シルヴィオ様はとても優しく接してくださるけど、それだけ。
ミラーネ様がシルヴィオ様と親しくなってからわたしの心はいつも嫉妬と惨めな気持ちで揺れ動いていた。
シルヴィオ様の姿を見つけた。
急いで走って殿下のそばに。
「アイシャ、おはよう」
「今日は王宮へ行く日なんです。シルヴィオ様、帰りは一緒に行けますか?」
今日は先生に特別授業を受けることになっている。来月、ソラリア帝国から王族である公爵一家が視察で来られる。
そのためソラリア語を今習っているところ。
簡単な言葉なら正確に話せるけど発音が難しい言葉もたくさんあるし言い回しが難しくまだまだ相手に失礼な言葉を言ってしまう可能性があるため、必死で覚えているところだ。
学校から直接行く時はシルヴィオ様と一緒に帰れるので、勉強は大変だけど楽しみ。
「大丈夫だよ、放課後いつもの場所で待ってるよ」
「はい」
シルヴィオ様の周りには側近候補の子息の方や、同級生の友人達が常にそばにいる。
わたしは皆さんに「おはようございます。お邪魔いたしました」と頭を下げた。
婚約者ではあるけど、シルヴィオ様達はわたしより3歳年上。それにいずれはシルヴィオ様と結婚すれば公爵家に婿入りされて、彼らはシルヴィオ様のもとで働く方達だ。
わたしも彼らとは敵対はしたくない。できるだけ友好的な関係を築きたい。
一人一人と少しずつ会話をするように心がけている。令嬢達はわたしのそんな姿を少し冷ややかな目で見ていることにも気がついてはいるけど、気にしない。
令嬢達にも挨拶を交わしながら、少しの嫌味も笑ってながす。
でも……何故かそれができない人がいる。
「アイシャ様はお人形のように可愛らしいお方ですね?」
顔は笑っていないのに毎回そう言ってくるミラーネ様。
ミラーネ様は庶民だった。
それが聖女の力を発現されたからと神官長様の養女となり学園に編入してきた。
とても明るくて誰とでも仲良くなれるお方で、すぐにシルヴィオ様達とも親しくなった。
わたしとは正反対の人だと思う。
わたしは人見知りが激しく慣れた人としかうまく話せない。みんなに話しかけるのも本当はドキドキしてしまう。
そんなわたしの心を見透かしているかのようにわたしをじっと見つめる。
「わたし………」
ーーお人形……
それはわたしを揶揄する言葉。それがわかっていても言い返せない。
先生方から習ったことしかできない。
必死でシルヴィオ様に相応しくなろうと頑張っていても、まだまだ足りなくて。
ミラーネ様のように誰とでも仲良く話ができて、すぐにシルヴィオ様に信頼されておそばに当たり前のようにいることができて……羨ましい……
わたしにないものを持っているミラーネ様に憧れ、そして……惨めになってしまう。
俯き何も言えないわたしをそのまま無視するかのようにシルヴィオ様に甘えるようにミラーネ様が言った。
「シルヴィオ!わたしも今日陛下のご様子を診に行くことになっているの。いつものようにわたしも馬車に乗せてね?」
「ああ、大丈夫だよ。三人乗れるからね」
『シルヴィオ』と呼んだ。
わたしは最近やっと『殿下』から『シルヴィオ様』になったばかりなのに。
シルヴィオ様もミラーネ様に名を呼ばれても眉ひとつ動かさなかった。周りもみんな何も感じていない。
誇らしげにわたしの顔を見たミラーネ様は、一瞬だけ…ニヤッと笑った気がした。
でもすぐにいつもの明るい笑顔で「アイシャ様よろしくね?」と声をかけられた。
「こちらこそよろしくお願いいたします」
わたしはその後、急いでみんなの前から立ち去った。
どんな顔をしていただろう。
惨めな顔?
とても恥ずかしい。いい気になってたわたし。
『婚約者』という立場なだけでそこに『愛』はない。わたしがお慕いしているだけ。
シルヴィオ様はとても優しく接してくださるけど、それだけ。
ミラーネ様がシルヴィオ様と親しくなってからわたしの心はいつも嫉妬と惨めな気持ちで揺れ動いていた。
1,177
あなたにおすすめの小説
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…
アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。
婚約者には役目がある。
例え、私との時間が取れなくても、
例え、一人で夜会に行く事になっても、
例え、貴方が彼女を愛していても、
私は貴方を愛してる。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 女性視点、男性視点があります。
❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
ご安心を、2度とその手を求める事はありません
ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・
それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
たとえ番でないとしても
豆狸
恋愛
「ディアナ王女、私が君を愛することはない。私の番は彼女、サギニなのだから」
「違います!」
私は叫ばずにはいられませんでした。
「その方ではありません! 竜王ニコラオス陛下の番は私です!」
──番だと叫ぶ言葉を聞いてもらえなかった花嫁の話です。
※1/4、短編→長編に変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる