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33話
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久しぶりに街へ出かけることにした。
屋敷に軟禁状態にされていたわたしが?
わたしはお父様への反抗もやめて素直に全てを受け入れた。
「お父様、我儘ばかり言って申し訳ありませんでした。婚約解消も受け入れますし、ソラリア帝国への留学もいたします」
「アイシャやっと理解してくれたか?」
お父様は多分ミラーネ様の魔法にかかっているのだろう。よく見れば表情がぼんやりとしている。
それに異常にわたしよりもミラーネ様のことを気にかけているのがわかる。
「お前がこの国にいれば邪魔にしかならない。陛下に大切な聖女であるミラーネ様の意にそぐわないお前をこの国に置いておくのは非常に困ると言われたんだ。殿下もソラリア帝国へ行くことを望んでいる。
お前は向こうで暮らすことが周りにとってもいちばん良いことなんだよ」
お父様は貴族らしい貴族の考え方を(家族より侯爵家を優先)する人ではあるけどわたしを愛してくれた。
ここまでひとが変わるのは、やはりミラーネ様のせいだろう。そうわかっていても『これがお父様の本音なのかもしれない』と感じた。
それでも反抗せずに素直にお父様の言うことを聞いていれば軟禁状態は少し緩くなっていた。
もちろん逃げ出さないように監視はされているけど、わたしが受け入れ穏やかになったこともあり、お父様に「久しぶりに街へ出かけたい」とお願いしたところ護衛騎士と数人のお供をつけることで許可された。
わたしの隣にはミズナがいてくれた。他の者たちは少しだけ距離をあけて見守ってくれている。
「ミズナ、あそこのお店に行きたいわ」
いつも街に来ると立ち寄る雑貨屋さん。
綺麗な宝石箱や小物入れ、ランプや花瓶、外国から輸入されたグラスや食器、リボンやハンカチ、高級な物ではなく普段使いできる女の子が喜びそうな品物がたくさん売られているお店は平民貴族関係なく人気のお店。
ミズナとお店の中で気に入った物を手に取って二人で『これ可愛い』『あれも素敵ね』と感想を言い合って見て回った。
その中から気に入った自分用のリボンを数本と、筆記用具を入れる箱を買った。
ソラリア帝国に行けば向こうで珍しい物を買うこともできる。
今回買ったのはお父様へのプレゼントの筆箱だった。
机の上に置いてもおかしくないように無垢の木でできた丁寧な仕上がりの筆箱は、お店に入ってすぐ目にとまったもの。
「お父様の机に置いたら良いと思わない?」
「ええ、お喜びになると思います」
ーー不思議よね?
あんなにお父様のことは諦めよう、もう捨ててやる、そう思っているのに、まずはお父様の物に目がいくなんて。
お母様が亡くなってからずっと寂しくないように泣かないようにとわたしをいちばんに考えてくれていたお父様。
酷い言葉を言われてもやっぱりお父様のことは嫌いにはなれない。
最後のプレゼントにこれをあげよう。
その後みんなでオープンカフェでお茶をしてのんびり街を散策していた。
「そろそろ帰りましょう」
ミズナに言われて「そうね」と返事をした時、突然何かが当たって背中に何か痛みが走った。
「……………」
わたしはあまりの痛みと驚きで声が出なかった。
「きやーーー!ア、アイシャ様!」
ミズナの叫び声が聞こえた。
そしてミズナがわたしの背中に手をやる。
ーー何をしているの?
そう聞きたいのに声が出ない。
「アイシャ様、だ、大丈夫ですから!誰か!お医者様を呼んで」
ふと足元を見ると男の子が真っ青な顔をして震えていた。我が家の護衛騎士が男の子を取り押さえていたのだ。
そばでもっと小さな女の子が泣きじゃくっていた。
「にいちゃん!にいちゃん!や、やだ!はなして!」
男の子は「ぼ、ぼく、なにもしらない、どうしてこんなこと……」
ガタガタ震える男の子。
護衛騎士たちも子供が二人走ってきたのには気がついてはいたみたいだけど、まさかナイフでわたしの背中を刺すなんて思ってもいなかったみたい。
わたしは背中を刺され痛いのに不思議に冷静に周りを見ていた。まるで劇場で見ている観客の気分で。
そしてわたしは立っていることができなくて崩れるように道端に倒れ込んだ。
屋敷に軟禁状態にされていたわたしが?
わたしはお父様への反抗もやめて素直に全てを受け入れた。
「お父様、我儘ばかり言って申し訳ありませんでした。婚約解消も受け入れますし、ソラリア帝国への留学もいたします」
「アイシャやっと理解してくれたか?」
お父様は多分ミラーネ様の魔法にかかっているのだろう。よく見れば表情がぼんやりとしている。
それに異常にわたしよりもミラーネ様のことを気にかけているのがわかる。
「お前がこの国にいれば邪魔にしかならない。陛下に大切な聖女であるミラーネ様の意にそぐわないお前をこの国に置いておくのは非常に困ると言われたんだ。殿下もソラリア帝国へ行くことを望んでいる。
お前は向こうで暮らすことが周りにとってもいちばん良いことなんだよ」
お父様は貴族らしい貴族の考え方を(家族より侯爵家を優先)する人ではあるけどわたしを愛してくれた。
ここまでひとが変わるのは、やはりミラーネ様のせいだろう。そうわかっていても『これがお父様の本音なのかもしれない』と感じた。
それでも反抗せずに素直にお父様の言うことを聞いていれば軟禁状態は少し緩くなっていた。
もちろん逃げ出さないように監視はされているけど、わたしが受け入れ穏やかになったこともあり、お父様に「久しぶりに街へ出かけたい」とお願いしたところ護衛騎士と数人のお供をつけることで許可された。
わたしの隣にはミズナがいてくれた。他の者たちは少しだけ距離をあけて見守ってくれている。
「ミズナ、あそこのお店に行きたいわ」
いつも街に来ると立ち寄る雑貨屋さん。
綺麗な宝石箱や小物入れ、ランプや花瓶、外国から輸入されたグラスや食器、リボンやハンカチ、高級な物ではなく普段使いできる女の子が喜びそうな品物がたくさん売られているお店は平民貴族関係なく人気のお店。
ミズナとお店の中で気に入った物を手に取って二人で『これ可愛い』『あれも素敵ね』と感想を言い合って見て回った。
その中から気に入った自分用のリボンを数本と、筆記用具を入れる箱を買った。
ソラリア帝国に行けば向こうで珍しい物を買うこともできる。
今回買ったのはお父様へのプレゼントの筆箱だった。
机の上に置いてもおかしくないように無垢の木でできた丁寧な仕上がりの筆箱は、お店に入ってすぐ目にとまったもの。
「お父様の机に置いたら良いと思わない?」
「ええ、お喜びになると思います」
ーー不思議よね?
あんなにお父様のことは諦めよう、もう捨ててやる、そう思っているのに、まずはお父様の物に目がいくなんて。
お母様が亡くなってからずっと寂しくないように泣かないようにとわたしをいちばんに考えてくれていたお父様。
酷い言葉を言われてもやっぱりお父様のことは嫌いにはなれない。
最後のプレゼントにこれをあげよう。
その後みんなでオープンカフェでお茶をしてのんびり街を散策していた。
「そろそろ帰りましょう」
ミズナに言われて「そうね」と返事をした時、突然何かが当たって背中に何か痛みが走った。
「……………」
わたしはあまりの痛みと驚きで声が出なかった。
「きやーーー!ア、アイシャ様!」
ミズナの叫び声が聞こえた。
そしてミズナがわたしの背中に手をやる。
ーー何をしているの?
そう聞きたいのに声が出ない。
「アイシャ様、だ、大丈夫ですから!誰か!お医者様を呼んで」
ふと足元を見ると男の子が真っ青な顔をして震えていた。我が家の護衛騎士が男の子を取り押さえていたのだ。
そばでもっと小さな女の子が泣きじゃくっていた。
「にいちゃん!にいちゃん!や、やだ!はなして!」
男の子は「ぼ、ぼく、なにもしらない、どうしてこんなこと……」
ガタガタ震える男の子。
護衛騎士たちも子供が二人走ってきたのには気がついてはいたみたいだけど、まさかナイフでわたしの背中を刺すなんて思ってもいなかったみたい。
わたしは背中を刺され痛いのに不思議に冷静に周りを見ていた。まるで劇場で見ている観客の気分で。
そしてわたしは立っていることができなくて崩れるように道端に倒れ込んだ。
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