鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった

仙道

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第8話 杖の亀裂と、魔力漏れ

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「……痛い。頭が割れそうだわ」

 森の中を移動中、ソフィアが立ち止まり、こめかみを押さえて呻いた。
 ここ数日、彼女はずっと不機嫌だ。
 偏頭痛が酷いらしく、そのせいで歩くペースも落ちている。

「おいおい、またか? 宮廷魔術師様は虚弱体質だな」

 先頭を歩くエルザが呆れたように振り返る。
 ソフィアは睨み返すが、その目にはいつもの覇気がない。

「うるさいわね……。この辺りの磁場が悪いのよ。私の高貴な魔力回路が、この森の汚れたマナに反応しているの」
「はいはい。休憩にするか?」
「……ええ、少し休ませて」

 ソフィアは近くの倒木に座り込み、杖を抱くようにして目を閉じた。
 俺は水筒を差し出すが、彼女は手で払いのける。
 相当辛そうだ。
 だが、俺の「鑑定」は、その頭痛の真の原因を捉えていた。

 原因は、彼女が「磁場のせい」だと言っている森の空気ではない。
 彼女が大切に抱きしめている、その杖だ。

 【白銀の賢者杖】
 【品質:A】
 【状態:魔力核の亀裂(微細)、絶縁不良】
 【注記:持ち手部分から純粋な魔力が常時漏出中。所持者の神経に直接干渉し、魔力中毒(頭痛、吐き気)を引き起こしている】

 完全に道具のメンテナンス不足だ。
 強力な魔法を撃ちすぎた反動で、杖の内部にある魔力の通り道(コア)にヒビが入っている。
 そこから漏れ出した魔力が、杖を握る彼女の手を伝って脳に逆流し、頭痛を引き起こしているのだ。
 放射能漏れを起こしている原子炉を抱いて寝ているようなものだ。
 このままでは、いずれ彼女の神経が焼き切れて廃人になるか、最悪の場合は杖が暴発して俺たちごと吹き飛ぶ。

「……荷物番」

 俺はエルザに目配せをした。
 彼女は察して、ソフィアに話しかける。

「おい、ソフィア。少し寝とけ。見張りは私がやる」
「……そうさせてもらうわ」

 ソフィアは横になり、すぐに浅い呼吸を始めた。
 杖は彼女の手から滑り落ち、地面に転がっている。
 俺は音を立てずに近づき、その杖を拾い上げた。

 触れた瞬間、指先がビリビリと痺れる。
 酷い漏電だ。よくこんなものを持って歩けるな。

 俺は道具袋を開く。
 取り出したのは『封魔の樹脂』と『絶縁テープ』だ。
 『封魔の樹脂』は、魔力を遮断する性質を持つ木の樹液を煮詰めたもの。
 『絶縁テープ』は、魔獣の皮を薄く加工して作った、俺の手製だ。

 まずは杖の装飾を慎重に外す。
 持ち手部分の金属カバーをスライドさせると、中のクリスタル製の核が露出した。
 目視ではわからないレベルだが、鑑定を通すと、髪の毛ほどの細い亀裂が走っているのが見える。

 俺はそこに、温めた樹脂を爪楊枝の先で塗り込む。
 樹脂が亀裂に吸い込まれ、青白い光の漏出が止まる。
 さらに、その上から絶縁テープをきつく巻き付ける。
 ただ巻くだけでは見た目が悪いし、握り心地が変わってしまう。
 だから俺は、その上から元通りに革紐を巻き直し、テープの存在を完全に隠蔽した。

 作業時間、五分。
 俺は杖を軽く振ってみる。
 痺れは消えた。
 魔力の流れもスムーズだ。

 【状態:修復済み、絶縁強化】
 【魔力効率:120%(漏出なし)】

 俺は杖を元の場所――ソフィアの手元に戻した。
 彼女の眉間の皺が、心なしか緩んだように見えた。

 一時間後。
 ソフィアが目を覚ました。

「……ん」

 彼女は体を起こし、恐る恐る頭を振った。

「あれ?」

 痛くない。
 彼女の表情がパッと明るくなる。

「頭痛が……消えたわ」
「お、復活したか。顔色いいな」

 エルザが声をかける。
 ソフィアは立ち上がり、杖を握りしめた。

「ええ。嘘みたいに体が軽いわ。やっぱり、少し休息が必要だったのね」
「寝不足だったんじゃねえの?」
「違うわよ。私の自己回復能力が、環境の悪影響を凌駕したのよ」

 彼女は自信満々に胸を張る。
 杖を握っても、もう魔力の逆流はない。
 それどころか、漏れていた魔力が正常に先端へ供給されるようになったため、杖全体のパワーが上がっている。

「見てなさい。今の私なら、山一つ消し飛ばせる気がするわ」

 ソフィアは杖を空に向けた。
 詠唱なしで、軽く魔力を込める。
 それだけで、杖の先から巨大な火球がポンと飛び出し、遥か上空で弾けた。

 ドォォォン!!

 凄まじい爆風が森を揺らす。
 俺とエルザは思わず耳を塞いだ。

「な、なんだ今の威力!?」
「あら……?」

 ソフィア自身も驚いて自分の手を見つめている。

「軽く撃っただけなのに……。そうか、わかったわ」

 彼女は恍惚とした表情で、独りごちた。

「頭痛という試練を乗り越えたことで、私の魔力回路が一段階進化したのね。精神的な成長が、魔力制御を完璧なものにしたんだわ」

 すごい解釈だ。
 実際は、今までダダ漏れだった配管を俺がパテで埋めただけなんだが。

「ふふっ、これなら魔王だって倒せるかもしれないわね」

 彼女は上機嫌で杖を振り回している。
 その杖のグリップの下に、俺が巻いた安物の絶縁テープがあることなど、知る由もない。

「行くわよ! 遅れないでね!」

 ソフィアは軽やかな足取りで先頭を歩き出した。
 頭痛持ちの不機嫌な魔術師がいなくなったのは良いことだ。
 だが、あんな高出力の杖を振り回されたら、今度はこっちが巻き添えを食わないか心配になる。

 俺はため息をつきながら、また一つ秘密を抱えて歩き出した。
 とりあえず、次の街に着いたら樹脂の補充をしておこう。
 彼女の扱い方だと、またすぐにどこかが割れるだろうから。
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