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第21話 山積みの書類と、タグ付け
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「うわあああん! 終わらないぃぃ!」
ギルドの裏口に近い資料室から、マリーの悲鳴が聞こえてきた。
ホールは騒然としている。
近隣の鉱山で大規模な落盤事故が発生し、魔物が溢れ出したとの急報が入ったのだ。
緊急クエストの発注、冒険者の招集、避難民の誘導、物資の手配。
それらの処理が一気にギルドに押し寄せ、カウンターは麻痺状態になっていた。
「おい、どうなってるんだ! 俺たちの報酬はまだか!」
「こっちが先だ! ポーションの納品書を通せ!」
冒険者たちが殺気立っている。
俺たち『銀の牙』も、落盤事故の調査依頼を受けるために待機していたが、受付が機能していないため、もう一時間も待たされている。
「チッ、とろくさいな。これじゃ日が暮れちまうぞ」
エルザが苛立ちを隠せない。
俺は仕方なく立ち上がった。
「ちょっと様子を見てくる。このままだと埒が明かない」
俺は混乱に乗じて、職員専用通路へと入り込んだ。
悲鳴の主であるマリーがいるデスクへと向かう。
そこは、地獄絵図だった。
マリーの姿が見えない。
いや、いるのだが、書類の山に埋もれてしまっているのだ。
「これじゃない……あれ、さっきの許可証はどこ? ああっ、崩れるぅ!」
彼女のデスクの上には、未処理の書類がタワーのように積み上げられ、今にも雪崩を起こしそうだ。
緊急時の混乱で、あらゆる種類の書類がごちゃ混ぜに放り込まれてしまったらしい。
重要度Sの「騎士団要請書」と、重要度Eの「スライム退治完了報告」が同じ山にある。
これでは、必要な書類を探すだけで日が暮れる。
「ギルド長に呼ばれたので行ってきます! ああ、もう何がなんだか!」
マリーは髪を振り乱し、数枚の紙を掴んで部屋を飛び出していった。
残されたのは、絶望的な書類の山。
俺はため息をついた。
これを片付けないと、俺たちの依頼書も発行されない。
俺は道具袋から、『色付きの付箋(紙片に糊をつけたもの)』と『クリップ(針金を曲げたもの)』を大量に取り出した。
やることは単純だ。
「鑑定」を使って、このゴミ山を情報の塊へと再構築する。
俺は高速で手を動かし始めた。
まず、書類を一枚掴む。
【内容:ポーション発注書】【優先度:高】【担当部署:物資課】
俺は赤い付箋(緊急・物資)を貼り、右端の山へ投げる。
次。
【内容:ゴブリン討伐報告】【優先度:低】【担当部署:討伐課】
青い付箋(通常・完了)を貼り、左端の箱へ。
次。
【内容:落盤現場地図】【優先度:特大】【担当部署:ギルド長】
黄色い付箋(最重要・即提出)を貼り、中央の手前へ。
シュッ、シュッ、シュッ。
俺の手は残像が見えるほどの速度で動く。
読む必要はない。鑑定結果の文字列を見て、色分けしていくだけだ。
混ざり合ったカオスが、みるみるうちに整然とした秩序ある山へと変わっていく。
さらに、関連する書類同士(「依頼書」と「地図」と「前払い金申請書」など)はクリップでまとめておく。
これなら、セットで処理できる。
作業時間、十分。
雪崩寸前だった書類タワーは消滅し、デスクの上には色とりどりの付箋がついた、高さの揃った四つの山が並んでいた。
それぞれに『緊急・要決裁』『物資手配』『通常業務(後回し可)』『保管資料』というメモを添えておく。
「……よし」
俺は満足して、何食わぬ顔で通路の陰に隠れた。
直後、マリーが戻ってきた。
「はぁ、はぁ……怒られちゃった……。早くあの書類を見つけないと……」
彼女は涙目でデスクに戻り、そして凍りついた。
「……え?」
そこには、完璧に整理されたデスクがあった。
探していた重要書類には、目立つ黄色い付箋が貼られ、一番手前に置かれている。
「な、なにこれ? 誰が……?」
彼女は恐る恐る、黄色い付箋の書類を手に取った。
まさに今、ギルド長が血眼になって探していた書類だ。
「ある……! それに、こっちはポーションの発注書が全部まとまってる! こっちは後回しでいいやつ!」
マリーは震える手で、次々と山を確認していく。
そこには彼女が喉から手が出るほど欲しかった「秩序」があった。
付箋の色が、彼女に「次に何をすべきか」を無言で指示してくれている。
「すごい……わかりやすい……。これなら、考えなくても手が動くわ!」
彼女は感極まってデスクに突っ伏しそうになったが、すぐに顔を上げた。
「(きっと、伝説の『整理整頓の妖精さん』が来てくれたんだわ! 私があまりに可哀想だから!)」
彼女は本気でそう思い込み、天井に向かって合掌した。
「妖精さん、ありがとう! 私、頑張る!」
そこからの彼女は速かった。
迷いがない。
右の山を処理し、左の山を部下に回し、中央の書類を持ってギルド長室へ走る。
脳のリソースを「探すこと」に使わなくて済むため、処理速度が十倍になっている。
十分後。
ホールに戻ってきたマリーは、的確な指示で冒険者たちを捌き始めた。
「『銀の牙』の皆さん! 依頼書、できてます! 地図とセットにしておきました!」
マリーが笑顔で書類を差し出した。
クリップで留められた完璧なセットだ。
「おお、早いな。助かる」
「へへっ、今日は妖精さんがついてるんです!」
マリーは誇らしげに胸を張った。
その指先には、俺が貼った付箋の糊が少しついていた。
「行くぞ。遅れた分を取り戻す」
エルザが歩き出す。
俺は背後で、マリーが次々と仕事を片付けていく音を聞いた。
付箋とクリップ。
たったそれだけの物理的な仕掛けが、パニックを効率へと変えたのだ。
俺は道具袋の中の付箋の残量を確認し、こっそりと安堵した。
これで今日も、彼女は定時に帰れるかもしれない。
ギルドの裏口に近い資料室から、マリーの悲鳴が聞こえてきた。
ホールは騒然としている。
近隣の鉱山で大規模な落盤事故が発生し、魔物が溢れ出したとの急報が入ったのだ。
緊急クエストの発注、冒険者の招集、避難民の誘導、物資の手配。
それらの処理が一気にギルドに押し寄せ、カウンターは麻痺状態になっていた。
「おい、どうなってるんだ! 俺たちの報酬はまだか!」
「こっちが先だ! ポーションの納品書を通せ!」
冒険者たちが殺気立っている。
俺たち『銀の牙』も、落盤事故の調査依頼を受けるために待機していたが、受付が機能していないため、もう一時間も待たされている。
「チッ、とろくさいな。これじゃ日が暮れちまうぞ」
エルザが苛立ちを隠せない。
俺は仕方なく立ち上がった。
「ちょっと様子を見てくる。このままだと埒が明かない」
俺は混乱に乗じて、職員専用通路へと入り込んだ。
悲鳴の主であるマリーがいるデスクへと向かう。
そこは、地獄絵図だった。
マリーの姿が見えない。
いや、いるのだが、書類の山に埋もれてしまっているのだ。
「これじゃない……あれ、さっきの許可証はどこ? ああっ、崩れるぅ!」
彼女のデスクの上には、未処理の書類がタワーのように積み上げられ、今にも雪崩を起こしそうだ。
緊急時の混乱で、あらゆる種類の書類がごちゃ混ぜに放り込まれてしまったらしい。
重要度Sの「騎士団要請書」と、重要度Eの「スライム退治完了報告」が同じ山にある。
これでは、必要な書類を探すだけで日が暮れる。
「ギルド長に呼ばれたので行ってきます! ああ、もう何がなんだか!」
マリーは髪を振り乱し、数枚の紙を掴んで部屋を飛び出していった。
残されたのは、絶望的な書類の山。
俺はため息をついた。
これを片付けないと、俺たちの依頼書も発行されない。
俺は道具袋から、『色付きの付箋(紙片に糊をつけたもの)』と『クリップ(針金を曲げたもの)』を大量に取り出した。
やることは単純だ。
「鑑定」を使って、このゴミ山を情報の塊へと再構築する。
俺は高速で手を動かし始めた。
まず、書類を一枚掴む。
【内容:ポーション発注書】【優先度:高】【担当部署:物資課】
俺は赤い付箋(緊急・物資)を貼り、右端の山へ投げる。
次。
【内容:ゴブリン討伐報告】【優先度:低】【担当部署:討伐課】
青い付箋(通常・完了)を貼り、左端の箱へ。
次。
【内容:落盤現場地図】【優先度:特大】【担当部署:ギルド長】
黄色い付箋(最重要・即提出)を貼り、中央の手前へ。
シュッ、シュッ、シュッ。
俺の手は残像が見えるほどの速度で動く。
読む必要はない。鑑定結果の文字列を見て、色分けしていくだけだ。
混ざり合ったカオスが、みるみるうちに整然とした秩序ある山へと変わっていく。
さらに、関連する書類同士(「依頼書」と「地図」と「前払い金申請書」など)はクリップでまとめておく。
これなら、セットで処理できる。
作業時間、十分。
雪崩寸前だった書類タワーは消滅し、デスクの上には色とりどりの付箋がついた、高さの揃った四つの山が並んでいた。
それぞれに『緊急・要決裁』『物資手配』『通常業務(後回し可)』『保管資料』というメモを添えておく。
「……よし」
俺は満足して、何食わぬ顔で通路の陰に隠れた。
直後、マリーが戻ってきた。
「はぁ、はぁ……怒られちゃった……。早くあの書類を見つけないと……」
彼女は涙目でデスクに戻り、そして凍りついた。
「……え?」
そこには、完璧に整理されたデスクがあった。
探していた重要書類には、目立つ黄色い付箋が貼られ、一番手前に置かれている。
「な、なにこれ? 誰が……?」
彼女は恐る恐る、黄色い付箋の書類を手に取った。
まさに今、ギルド長が血眼になって探していた書類だ。
「ある……! それに、こっちはポーションの発注書が全部まとまってる! こっちは後回しでいいやつ!」
マリーは震える手で、次々と山を確認していく。
そこには彼女が喉から手が出るほど欲しかった「秩序」があった。
付箋の色が、彼女に「次に何をすべきか」を無言で指示してくれている。
「すごい……わかりやすい……。これなら、考えなくても手が動くわ!」
彼女は感極まってデスクに突っ伏しそうになったが、すぐに顔を上げた。
「(きっと、伝説の『整理整頓の妖精さん』が来てくれたんだわ! 私があまりに可哀想だから!)」
彼女は本気でそう思い込み、天井に向かって合掌した。
「妖精さん、ありがとう! 私、頑張る!」
そこからの彼女は速かった。
迷いがない。
右の山を処理し、左の山を部下に回し、中央の書類を持ってギルド長室へ走る。
脳のリソースを「探すこと」に使わなくて済むため、処理速度が十倍になっている。
十分後。
ホールに戻ってきたマリーは、的確な指示で冒険者たちを捌き始めた。
「『銀の牙』の皆さん! 依頼書、できてます! 地図とセットにしておきました!」
マリーが笑顔で書類を差し出した。
クリップで留められた完璧なセットだ。
「おお、早いな。助かる」
「へへっ、今日は妖精さんがついてるんです!」
マリーは誇らしげに胸を張った。
その指先には、俺が貼った付箋の糊が少しついていた。
「行くぞ。遅れた分を取り戻す」
エルザが歩き出す。
俺は背後で、マリーが次々と仕事を片付けていく音を聞いた。
付箋とクリップ。
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