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第3話「毒と解毒薬」
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手応えがあった。 俺の剣が赤い点の中心を貫いた瞬間、巨大なバジリスクの動きが凍りついた。 断末魔の叫びはない。 システムが死を判定したかのように、巨体は音もなく光の粒子へと分解されていく。
ザラザラという音と共に、光の中から数点の物体が地面に落ちた。 俺は剣を鞘に戻し、散らばったドロップ品を確認する。
一つ目は、黒く鋭い牙。 二つ目は、紫色のグロテスクな肉塊。 そして三つ目は、妖しく灰色に濁った水晶玉のような球体だ。
俺はまず、球体を拾い上げた。 これが俺の狙いだったUR(ウルトラレア)アイテムだ。
【石化の魔眼(オーブ)】
【レアリティ:UR】
【種別:アクセサリー】
【効果:装備者の視界に入った対象に対し、任意で『石化』の状態異常を付与する。成功率は対象の耐性に依存するが、魔力を込めることで強制力を高めることが可能】
素晴らしい。 アクセサリー枠に装備するだけで、視線による攻撃が可能になる。 俺は腰のベルトにあるホルダーに、そのオーブを吊り下げた。これで装備扱いになるはずだ。試しに意識を向けると、視界の隅に灰色のフィルターがかかるような感覚がある。使い勝手は良さそうだ。
次に、紫色の肉塊を拾う。
【森の主の肝】
【レアリティ:SSR】
【種別:消費アイテム】
【効果:あらゆる病、毒、呪いを解除し、HPを全快させる。失われた四肢の再生さえも可能にする万能薬】
これも凄まじい性能だ。 市場に出せば、国が一つ買えるほどの値がつくだろう。 だが、俺にとっての価値は金ではない。 俺は後ろで腰を抜かしているエルフの少女を振り返った。
「リーナ」
「あ……あ……」
リーナは震えていた。 恐怖ではない。目の前で起きた現実が信じられないといった様子だ。 無理もない。数百年生きるエルフでさえ滅多にお目にかかれない森の主を、人間が一撃で葬り、しかも伝説級のドロップ品を確定で手に入れたのだから。
俺は『森の主の肝』を無造作に彼女へ放り投げた。
「わっ!?」
リーナが慌ててそれを受け止める。 彼女は手の中にある紫色の塊を見て、目を見開いた。
「こ、これ……本物、ですよね……?」
「鑑定済みだ。あらゆる病を治す万能薬。間違いない」
「ど、どうして……。これは、あなたが倒して手に入れたものなのに……。売れば一生遊んで暮らせる額になりますよ!?」
リーナの手が震えている。 俺は肩をすくめた。
「俺たちの契約は、俺がレアアイテムを、お前が肝を持っていくことだったはずだ。それに、俺は健康だ。今のところそれを使う予定はない」
それに、と俺は内心で付け足す。 SSRの消費アイテム一つで、優秀な弓使いの絶対的な忠誠が買えるなら安いものだ。 この世界で生き抜くには、背中を任せられる仲間が必要不可欠だ。それも、俺の利益を最優先に考えてくれる仲間が。 この肝を渡すことで、リーナは俺に一生逆らえなくなる。恩義という名の鎖は、どんな奴隷魔法よりも強固だ。
「妹を助けたいんだろ。案内しろ」
「……はい! ありがとうございます、本当に、ありがとうございます……!」
リーナはボロボロと涙をこぼしながら、肝を大事そうに布に包んで懐にしまった。
俺たちは森の奥にある、エルフの隠れ里へと急いだ。 道中、魔物が数体現れたが、俺が近づく前にリーナの矢が眉間を射抜いた。 彼女の気迫が違っていた。 『無限の矢筒』のおかげで矢の残数を気にする必要がなくなり、彼女本来の弓術がいかんなく発揮されている。
数十分ほど歩くと、巨大な木々の隙間に、樹木と一体化するように作られた住居群が見えてきた。 エルフの里だ。 だが、里の入り口には誰もいない。静まり返っている。
「妹は、一番奥の療養所にいます」
リーナが走る。俺も後に続く。 簡素な木の扉を開けると、そこには粗末なベッドが置かれていた。 ベッドの上には、リーナによく似た、しかし痩せこけて顔色の悪い少女が横たわっていた。
「ミナ!」
リーナが駆け寄る。 妹と呼ばれた少女、ミナは、苦しげに呼吸を繰り返している。肌には黒い痣のようなものが浮かんでいた。
【名前:ミナ】
【状態:致死性の熱病(余命:約3時間)】
ギリギリだったようだ。 俺は入り口に立ち、その様子を見守る。 ここから先は、俺の仕事ではない。
「ミナ、しっかりして! 薬を持ってきたのよ!」
リーナは懐から肝を取り出し、水差しから水を注いで、それをすり潰すようにして妹の口へと運ぶ。 意識のないミナは、最初こそ飲み込むのを拒んでいたが、リーナが必死に流し込むと、喉がごくりと動いた。
強烈な魔力が、小さな体の中で弾けるのが見えた。 効果は劇的だった。 見る見るうちに、ミナの肌から黒い痣が消えていく。苦しげだった呼吸が穏やかになり、青白かった頬に赤みが差した。
数秒後。 ミナの瞼が、ゆっくりと持ち上がった。
「……お姉、ちゃん?」
「ミナ……っ!」
リーナが妹に抱きつく。 俺は静かに壁に寄りかかった。 【鑑定】の結果、状態は【健康】に変わっていた。 目的は達成された。
これで、俺のパーティに最初のメンバーが加わることが確定した。 それも、俺のためなら命さえ投げ出しかねない、強烈な忠誠心を持ったメンバーが。
俺はインベントリの中にある『剛力の腕輪』と『石化の魔眼』の感触を確かめる。 最高のスタートだ。 だが、これはまだ始まりに過ぎない。この世界には、まだまだ俺の知らない強力な装備やスキルが眠っているはずだ。 それらを全て、俺のものにする。
抱き合って泣いている姉妹を見ながら、俺は次の狩場について思考を巡らせていた。
ザラザラという音と共に、光の中から数点の物体が地面に落ちた。 俺は剣を鞘に戻し、散らばったドロップ品を確認する。
一つ目は、黒く鋭い牙。 二つ目は、紫色のグロテスクな肉塊。 そして三つ目は、妖しく灰色に濁った水晶玉のような球体だ。
俺はまず、球体を拾い上げた。 これが俺の狙いだったUR(ウルトラレア)アイテムだ。
【石化の魔眼(オーブ)】
【レアリティ:UR】
【種別:アクセサリー】
【効果:装備者の視界に入った対象に対し、任意で『石化』の状態異常を付与する。成功率は対象の耐性に依存するが、魔力を込めることで強制力を高めることが可能】
素晴らしい。 アクセサリー枠に装備するだけで、視線による攻撃が可能になる。 俺は腰のベルトにあるホルダーに、そのオーブを吊り下げた。これで装備扱いになるはずだ。試しに意識を向けると、視界の隅に灰色のフィルターがかかるような感覚がある。使い勝手は良さそうだ。
次に、紫色の肉塊を拾う。
【森の主の肝】
【レアリティ:SSR】
【種別:消費アイテム】
【効果:あらゆる病、毒、呪いを解除し、HPを全快させる。失われた四肢の再生さえも可能にする万能薬】
これも凄まじい性能だ。 市場に出せば、国が一つ買えるほどの値がつくだろう。 だが、俺にとっての価値は金ではない。 俺は後ろで腰を抜かしているエルフの少女を振り返った。
「リーナ」
「あ……あ……」
リーナは震えていた。 恐怖ではない。目の前で起きた現実が信じられないといった様子だ。 無理もない。数百年生きるエルフでさえ滅多にお目にかかれない森の主を、人間が一撃で葬り、しかも伝説級のドロップ品を確定で手に入れたのだから。
俺は『森の主の肝』を無造作に彼女へ放り投げた。
「わっ!?」
リーナが慌ててそれを受け止める。 彼女は手の中にある紫色の塊を見て、目を見開いた。
「こ、これ……本物、ですよね……?」
「鑑定済みだ。あらゆる病を治す万能薬。間違いない」
「ど、どうして……。これは、あなたが倒して手に入れたものなのに……。売れば一生遊んで暮らせる額になりますよ!?」
リーナの手が震えている。 俺は肩をすくめた。
「俺たちの契約は、俺がレアアイテムを、お前が肝を持っていくことだったはずだ。それに、俺は健康だ。今のところそれを使う予定はない」
それに、と俺は内心で付け足す。 SSRの消費アイテム一つで、優秀な弓使いの絶対的な忠誠が買えるなら安いものだ。 この世界で生き抜くには、背中を任せられる仲間が必要不可欠だ。それも、俺の利益を最優先に考えてくれる仲間が。 この肝を渡すことで、リーナは俺に一生逆らえなくなる。恩義という名の鎖は、どんな奴隷魔法よりも強固だ。
「妹を助けたいんだろ。案内しろ」
「……はい! ありがとうございます、本当に、ありがとうございます……!」
リーナはボロボロと涙をこぼしながら、肝を大事そうに布に包んで懐にしまった。
俺たちは森の奥にある、エルフの隠れ里へと急いだ。 道中、魔物が数体現れたが、俺が近づく前にリーナの矢が眉間を射抜いた。 彼女の気迫が違っていた。 『無限の矢筒』のおかげで矢の残数を気にする必要がなくなり、彼女本来の弓術がいかんなく発揮されている。
数十分ほど歩くと、巨大な木々の隙間に、樹木と一体化するように作られた住居群が見えてきた。 エルフの里だ。 だが、里の入り口には誰もいない。静まり返っている。
「妹は、一番奥の療養所にいます」
リーナが走る。俺も後に続く。 簡素な木の扉を開けると、そこには粗末なベッドが置かれていた。 ベッドの上には、リーナによく似た、しかし痩せこけて顔色の悪い少女が横たわっていた。
「ミナ!」
リーナが駆け寄る。 妹と呼ばれた少女、ミナは、苦しげに呼吸を繰り返している。肌には黒い痣のようなものが浮かんでいた。
【名前:ミナ】
【状態:致死性の熱病(余命:約3時間)】
ギリギリだったようだ。 俺は入り口に立ち、その様子を見守る。 ここから先は、俺の仕事ではない。
「ミナ、しっかりして! 薬を持ってきたのよ!」
リーナは懐から肝を取り出し、水差しから水を注いで、それをすり潰すようにして妹の口へと運ぶ。 意識のないミナは、最初こそ飲み込むのを拒んでいたが、リーナが必死に流し込むと、喉がごくりと動いた。
強烈な魔力が、小さな体の中で弾けるのが見えた。 効果は劇的だった。 見る見るうちに、ミナの肌から黒い痣が消えていく。苦しげだった呼吸が穏やかになり、青白かった頬に赤みが差した。
数秒後。 ミナの瞼が、ゆっくりと持ち上がった。
「……お姉、ちゃん?」
「ミナ……っ!」
リーナが妹に抱きつく。 俺は静かに壁に寄りかかった。 【鑑定】の結果、状態は【健康】に変わっていた。 目的は達成された。
これで、俺のパーティに最初のメンバーが加わることが確定した。 それも、俺のためなら命さえ投げ出しかねない、強烈な忠誠心を持ったメンバーが。
俺はインベントリの中にある『剛力の腕輪』と『石化の魔眼』の感触を確かめる。 最高のスタートだ。 だが、これはまだ始まりに過ぎない。この世界には、まだまだ俺の知らない強力な装備やスキルが眠っているはずだ。 それらを全て、俺のものにする。
抱き合って泣いている姉妹を見ながら、俺は次の狩場について思考を巡らせていた。
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