4 / 25
第4話「エルフの涙と契約」
しおりを挟む
妹のミナが完全に意識を取り戻すまで、そう時間はかからなかった。 死の淵にいたのが嘘のように、彼女はベッドの上で体を起こし、姉の手を握り返している。
「本当にお姉ちゃんが治してくれたの? あの伝説の薬で?」
「私じゃないわ。あそこにいる、カズヤさんが持ってきてくれたのよ」
リーナが俺の方を指差す。 ミナの視線が俺に向く。大きな瞳には、感謝よりも先に畏敬の色が浮かんでいた。
「あ、ありがとうございます……! なんとお礼を言えばいいか……」
「礼なら姉から貰うことになっている。気にするな」
俺は簡潔に返す。 ミナはまだ病み上がりだ。長話をするつもりはない。 俺はリーナに目配せをして、小屋の外に出た。
しばらくして、リーナも出てくる。 その目は赤く腫れていたが、表情は憑き物が落ちたように晴れやかだった。 彼女は俺の前に立つと、その場に膝をつき、深く頭を垂れた。
「カズヤさん。改めて、お礼を言わせてください」
彼女の声は震えていた。
「ミナは、私の全てでした。両親を早くに亡くして、二人だけで生きてきて……ミナを失ったら、私も後を追うつもりでした」
「……そうか」
「貴方は、私の命そのものを救ってくれたんです。それも、本来なら国一つ買えるような秘薬を、惜しげもなく使って……」
彼女が顔を上げる。 その瞳には、崇拝に近い感情が宿っていた。
「この命、貴方に捧げます。私の弓も、体も、これからの時間の全てを、貴方のために使わせてください」
大袈裟な言葉だが、彼女の本心だろう。 エルフは一度誓った契約を絶対の掟とする種族だと聞いたことがある。 俺は彼女を見下ろし、冷徹に計算する。 彼女の腕は確かだ。 『無限の矢筒』を持たせたことで、継続戦闘能力も飛躍的に向上している。 何より、俺の秘密――『確定ドロップ』という異常性を見ても、恐怖するどころか恩恵として受け入れ、秘密を守れる共犯者になり得る。
「勘違いするなよ、リーナ」
「はい?」
「俺はお前を慈善事業で助けたわけじゃない。俺は効率よく強くなりたい。そのためには、背中を任せられる優秀な射手が必要だった。それだけだ」
俺はあえて突き放すように言う。 だが、リーナは嬉しそうに微笑んだ。
「はい。存じています。貴方が合理的で、そして誰よりも強い方だということは」
「なら、条件は一つだ」
「なんでしょうか」
「俺の邪魔をするな。そして、俺が狙った獲物は絶対に逃がすな」
俺が求めているのは、足手まといではなく戦力だ。 リーナは背筋を伸ばし、凛とした声で応える。
「誓います。私の矢は、貴方の意志のままに」
契約は成立した。 俺は手を差し出し、彼女の手を取って立たせる。 その手はもう震えていなかった。
「行くぞ。まずは人間の街へ向かう」
「はい! ……あ、少しだけ待っていただけますか? ミナに別れを告げてきます」
「急げよ」
リーナは小屋に戻っていった。 俺はその間、次の行動指針を整理する。 まずは冒険者ギルドへの登録。そして、手に入れた素材の換金だ。 『剛力の腕輪』や『石化の魔眼』は装備するが、オークの牙やバジリスクの余った素材は金になる。装備を整える資金が必要だ。
数分後、旅支度を整えたリーナが戻ってきた。 背中には使い古した弓ではなく、里の倉庫から持ち出したという予備の長弓が背負われている。
「お待たせしました、マスター」
「マスター?」
「はい。貴方は私の主ですから」
呼び方が変わっていた。 訂正するのも面倒だ。好きに呼ばせればいい。
「出発だ」
俺たちは歩き出す。 森の出口へ向かう道中、俺の視界には相変わらず魔物の赤い点がちらついていた。 だが、今は無視だ。 雑魚を狩るよりも、まずは拠点を確保する。
隣を歩くリーナが、時折俺の顔を盗み見ては、頬を染めてにやけているのが視界に入った。 妹が助かった安心感と、俺への忠誠心で頭がいっぱいなのだろう。 扱いやすい手駒が手に入ったことに、俺は満足感を覚える。
森を抜けると、街道の向こうに城壁に囲まれた街が見えてきた。
「本当にお姉ちゃんが治してくれたの? あの伝説の薬で?」
「私じゃないわ。あそこにいる、カズヤさんが持ってきてくれたのよ」
リーナが俺の方を指差す。 ミナの視線が俺に向く。大きな瞳には、感謝よりも先に畏敬の色が浮かんでいた。
「あ、ありがとうございます……! なんとお礼を言えばいいか……」
「礼なら姉から貰うことになっている。気にするな」
俺は簡潔に返す。 ミナはまだ病み上がりだ。長話をするつもりはない。 俺はリーナに目配せをして、小屋の外に出た。
しばらくして、リーナも出てくる。 その目は赤く腫れていたが、表情は憑き物が落ちたように晴れやかだった。 彼女は俺の前に立つと、その場に膝をつき、深く頭を垂れた。
「カズヤさん。改めて、お礼を言わせてください」
彼女の声は震えていた。
「ミナは、私の全てでした。両親を早くに亡くして、二人だけで生きてきて……ミナを失ったら、私も後を追うつもりでした」
「……そうか」
「貴方は、私の命そのものを救ってくれたんです。それも、本来なら国一つ買えるような秘薬を、惜しげもなく使って……」
彼女が顔を上げる。 その瞳には、崇拝に近い感情が宿っていた。
「この命、貴方に捧げます。私の弓も、体も、これからの時間の全てを、貴方のために使わせてください」
大袈裟な言葉だが、彼女の本心だろう。 エルフは一度誓った契約を絶対の掟とする種族だと聞いたことがある。 俺は彼女を見下ろし、冷徹に計算する。 彼女の腕は確かだ。 『無限の矢筒』を持たせたことで、継続戦闘能力も飛躍的に向上している。 何より、俺の秘密――『確定ドロップ』という異常性を見ても、恐怖するどころか恩恵として受け入れ、秘密を守れる共犯者になり得る。
「勘違いするなよ、リーナ」
「はい?」
「俺はお前を慈善事業で助けたわけじゃない。俺は効率よく強くなりたい。そのためには、背中を任せられる優秀な射手が必要だった。それだけだ」
俺はあえて突き放すように言う。 だが、リーナは嬉しそうに微笑んだ。
「はい。存じています。貴方が合理的で、そして誰よりも強い方だということは」
「なら、条件は一つだ」
「なんでしょうか」
「俺の邪魔をするな。そして、俺が狙った獲物は絶対に逃がすな」
俺が求めているのは、足手まといではなく戦力だ。 リーナは背筋を伸ばし、凛とした声で応える。
「誓います。私の矢は、貴方の意志のままに」
契約は成立した。 俺は手を差し出し、彼女の手を取って立たせる。 その手はもう震えていなかった。
「行くぞ。まずは人間の街へ向かう」
「はい! ……あ、少しだけ待っていただけますか? ミナに別れを告げてきます」
「急げよ」
リーナは小屋に戻っていった。 俺はその間、次の行動指針を整理する。 まずは冒険者ギルドへの登録。そして、手に入れた素材の換金だ。 『剛力の腕輪』や『石化の魔眼』は装備するが、オークの牙やバジリスクの余った素材は金になる。装備を整える資金が必要だ。
数分後、旅支度を整えたリーナが戻ってきた。 背中には使い古した弓ではなく、里の倉庫から持ち出したという予備の長弓が背負われている。
「お待たせしました、マスター」
「マスター?」
「はい。貴方は私の主ですから」
呼び方が変わっていた。 訂正するのも面倒だ。好きに呼ばせればいい。
「出発だ」
俺たちは歩き出す。 森の出口へ向かう道中、俺の視界には相変わらず魔物の赤い点がちらついていた。 だが、今は無視だ。 雑魚を狩るよりも、まずは拠点を確保する。
隣を歩くリーナが、時折俺の顔を盗み見ては、頬を染めてにやけているのが視界に入った。 妹が助かった安心感と、俺への忠誠心で頭がいっぱいなのだろう。 扱いやすい手駒が手に入ったことに、俺は満足感を覚える。
森を抜けると、街道の向こうに城壁に囲まれた街が見えてきた。
423
あなたにおすすめの小説
俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
異世界に召喚されたら職業がストレンジャー(異邦”神”)だった件【改訂版】
ぽて
ファンタジー
異世界にクラスごと召喚された龍司だったが、職業はただの『旅人』?
案の定、異世界の王族貴族たちに疎まれて冷遇されていたのだが、本当の職業は神様!? でも一般人より弱いぞ、どゆこと?
そんな折に暗殺されかけた挙句、どさくさに紛れてダンジョンマスターのシータにプロポーズされる。彼女とともに国を出奔した龍司は、元の世界に戻る方法を探すための旅をはじめた。……草刈りに精を出しながら。
「小説家になろう」と「ノベルバ」にも改定前版を掲載中です。
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
【完結】魔術師なのはヒミツで薬師になりました
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
ティモシーは、魔術師の少年だった。人には知られてはいけないヒミツを隠し、薬師(くすし)の国と名高いエクランド国で薬師になる試験を受けるも、それは年に一度の王宮専属薬師になる試験だった。本当は普通の試験でよかったのだが、見事に合格を果たす。見た目が美少女のティモシーは、トラブルに合うもまだ平穏な方だった。魔術師の組織の影がちらつき、彼は次第に大きな運命に飲み込まれていく……。
冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます
里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。
だが実は、誰にも言えない理由があり…。
※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。
全28話で完結。
【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる