魔力ゼロの俺だけが、呪いの装備を『代償なし』で使い放題 ~命を削る魔剣も、俺が持てば『ただのよく切れる剣』~

仙道

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第2話 コストゼロの斬撃

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 女騎士――エレナの傷は深かったが、致命傷には至っていなかった。  ハンカチと、彼女が腰にぶら下げていたポーションらしき液体を併用したところ、傷口は見る見るうちに塞がっていった。この世界の回復アイテムの効果は、現代医学の常識を軽く超えているらしい。

「ありがとう、ございます……」

 エレナは壁に背を預け、荒い息を整えながら礼を言った。  だが、その目は俺を直視できずに泳いでいる。俺が手に持ったままの黒い剣――魔剣グラムに怯えているのだ。

「立てるか?」 
「はい。なんとか……。でも、その剣は……」 
「これか? 置いていくわけにはいかないだろう」

 俺は剣を軽く振ってみせた。  エレナがひっ、と小さく悲鳴を上げる。

「お願いします、鞘に……鞘に収めてください。その剣は、抜身であるだけで周囲の魔力を汚染するんです」

 汚染?  俺は周囲を見渡すが、空気の色が変わったようには見えない。俺には感じられない「魔力」への影響があるということか。  俺はエレナの腰にある、豪奢な装飾の鞘を指差した。

「これに入れればいいのか?」 
「は、はい。ですが、気をつけてください。鞘に収める瞬間、剣が抵抗して膨大な魔力を要求するはずです」 
「ふうん」

 俺は剣を鞘に差し込んだ。  カチャン。  小気味よい音を立てて、剣はすんなりと収まった。何の抵抗も、要求も感じない。

「……」

 エレナが口を開けたまま固まっている。

「収まったぞ」 
「な、なぜ……? グラムが、大人しく……?」

 彼女の中の常識がまた一つ崩壊したようだ。  俺にとっては、車のキーを差し込むより簡単な作業だったのだが。  やはり、この剣の「自我」や「呪い」といったシステムは、魔力を持つ相手にしか発動しないらしい。俺という存在は、この剣にとって透明人間のようなものなのだろう。

「行くぞ。出口はどっちだ?」 
「あ、あちらです。ですが、途中にまだ『番人』がいるかもしれません」

 エレナが指差した通路の奥は、暗闇に包まれている。  俺は彼女に肩を貸し、歩き出した。  彼女の鎧は重いが、鍛えられた身体は引き締まっていて、予想よりは歩きやすい。

 数分ほど進んだところで、再び異音がした。  石畳を擦る、ジャリ、ジャリという音。  角を曲がった先の広間に、それはいた。  石像だ。ガーゴイルと呼ばれる種類の魔物だろうか。翼を持った石の怪物が三体、赤い目を光らせてこちらを睨んでいる。

「ガーゴイル……! 物理攻撃がほとんど効かない相手です。魔法で核を破壊しないと……!」

 エレナが焦ったように叫ぶ。  彼女は腰の剣(予備のショートソードだろうか)に手を伸ばそうとするが、怪我が痛むのか顔を歪める。

「俺がやる。下がってろ」
「無理です! グラムを使えば、今度こそあなたの命が……!」 
「問題ない」

 俺は鞘から魔剣を抜き放った。  黒い刃が松明の光を鈍く反射する。  ガーゴイルたちが一斉に飛びかかってきた。石の爪が空気を引き裂く。  物理攻撃が効かない、と言ったか。  それは「普通の剣」の話だ。

 俺は先頭のガーゴイルに対し、真っ向から剣を振り下ろした。  硬い石の質感を感じたのは一瞬。  次の瞬間には、ガーゴイルは頭頂部から股下まで真っ二つに割れていた。  断面は鏡のように滑らかだ。

「ギャッ……!?」

 残りの二体が空中で制動をかけようとするが、遅い。  俺は手首を返し、横薙ぎに一閃する。  魔剣の刃が、二体の胴体を同時に捉えた。  抵抗がない。まるで空気を斬っているようだ。  上半身と下半身が泣き別れになり、石塊となって地面に転がる。  戦闘時間、わずか数秒。

「ふう」

 俺は剣を振って石の粉を落とし、再び鞘に収めた。  疲労感はない。  やはり、この剣を使うコストはゼロだ。本来なら一振りで寿命が縮むような代物を、俺はただの棒切れのように振り回せる。  振り返ると、エレナが壁に手をついて震えていた。

「魔法障壁ごと……石の守護者を、一撃で……」

 彼女の目には、俺がどう映っているのだろうか。  命を削る素振りもなく、顔色一つ変えずに禁忌の武器を連発する男。  彼女の常識では、俺はすでに死んでいるか、あるいは人間ではない化け物のはずだ。

「行くぞ、エレナ」

 俺が声をかけると、彼女はハッとして姿勢を正した。  その瞳に宿っているのは、もはや単なる感謝ではない。  絶対的な強者に対する、信仰にも似た崇拝の色が見え隠れしていた。

「……はい、我が主(あるじ)」
「主じゃない。相模だ」 
「失礼しました、サガミ様」

 様付けは訂正されなかった。  まあいい。今はここを出ることが最優先だ。  俺たちは迷宮の出口を目指して、再び歩き出した。  俺の右手には、この世界で最も危険で、俺にとってだけ最も安全な剣が握られていた。
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