魔力ゼロの俺だけが、呪いの装備を『代償なし』で使い放題 ~命を削る魔剣も、俺が持てば『ただのよく切れる剣』~

仙道

文字の大きさ
1 / 25

第1話 規格外の異物

 目が覚めると、そこは湿った石の床の上だった。

 カビと錆が混ざったような臭いが鼻をつく。視界に入ってくるのは、苔むした石積みの壁と、頼りない松明の灯りだけだ。
 俺はゆっくりと上体を起こした。
 スーツの埃を払う。腕時計は動いている。午前十時。会社で実験データをまとめていたはずの時間だ。
 だが、ここは研究室じゃない。

(夢か?) 

 いや、石の冷たさも、空気の淀みも、五感すべてが現実だと告げている。

 周囲を見渡す。

 状況を把握するより早く、金属がぶつかり合う激しい音が鼓膜を叩いた。

「はぁ、はぁ、うぅ……!」

 女性のうめき声だ。  十メートルほど先。通路の奥で、人が倒れているのが見えた。  金色の長い髪を束ねた女性だ。全身を銀色の甲冑で固めているが、その腹部からは赤黒い血が溢れ出し、地面に水たまりを作っている。  彼女の視線の先には、二メートルはある巨大な人型が立っていた。  中身のない、動くフルプレートアーマー。いわゆる、リビングアーマーというやつか。  ファンタジー映画やゲームでしか見たことのない存在が、質量を伴ってそこにいた。

「逃げ……て……」

 女騎士が、俺に気づいて声を絞り出す。  顔色は紙のように白い。失血死寸前だ。  俺は立ち上がった。逃げろと言われても、背後は行き止まりだ。戦うか、殺されるか。選択肢は二つしかない。 
 だが、丸腰だ。俺の鞄に入っているのはノートPCと論文の資料だけ。あんな鉄塊を殴れば、俺の骨が砕けて終わる。

  ふと、女騎士の足元に転がっている「それ」が目に入った。  黒い剣だ。  刀身が闇のように黒く、禍々しい装飾が施された長剣。見るからに普通の武器ではない。

「それを……触っては、だめ……」

 俺が剣に視線を向けた瞬間、女騎士が血を吐きながら叫んだ。

「それは『魔剣グラム』……。触れた者の魔力と生命を……一瞬で吸い尽くす……呪いの、剣……」

 呪いの剣。  なるほど、彼女が重傷を負っているのに武器を手放している理由はそれか。敵にやられたというより、その剣を使った代償で動けなくなったように見える。  リビングアーマーが、重い足音を響かせてこちらへ向かってくる。錆びついた戦斧を引きずり、床に火花が散る。  俺までの距離、あと五メートル。  俺は迷わず、その黒い剣に手を伸ばした。

「やめ……死ぬわよ!」

 女騎士の悲鳴を無視して、柄を握る。  ずしりとした鉄の重み。  ……それだけだ。  吸い取られる感覚も、痛みもない。ただの、よく手入れされた金属の塊だ。  俺は剣を持ち上げ、重心を確かめるように軽く振った。風を切る音が鋭く響く。

「え……?」

 女騎士が呆然と目を見開いているのが視界の端に見えた。  なぜ平気なのか。理由はなんとなく推測できる。  この世界には「魔力」や「ステータス」といった概念があるのだろう。その剣は、使用者の体内にあるそれらのエネルギーを燃料として稼働するシステムなのだ。
  だが、俺は違う。  俺はこの世界の住人じゃない。魔力回路もなければ、数値化された生命力もない。吸い取るべき「燃料タンク」が存在しないのだ。  システムエラー。あるいは、対象外。  今の俺にとって、これはただの切れ味のいい刃物でしかない。

「グルルゥ……」

 リビングアーマーが戦斧を振り上げた。  動作が遅い。  重量物を振り回すための予備動作が大きすぎる。物理法則に従うなら、あの角度から振り下ろされる斧の軌道は一点に定まる。  俺は半歩、左へ踏み込んだ。  轟音と共に、斧が俺の横の石床を砕く。破片が頬を掠めたが、痛みは思考をクリアにするだけだ。  敵の体勢が崩れている。  狙うべきは装甲の厚い胸板ではない。可動域を確保するために装甲が薄くなっている関節部だ。  右膝の裏。  俺は黒い剣を、力任せではなく、刃の角度だけを意識して叩き込んだ。

 カィン、と硬質な音がすると思った。  だが、手応えは豆腐を切ったように軽かった。  黒い刃は、鋼鉄の関節を抵抗なく切断し、そのまま反対側へと抜け切った。  魔剣の特性か。切れ味だけはデタラメに高いらしい。

 ガクン、とリビングアーマーの巨体が傾く。  片足を失い、バランスを崩して倒れ込むその首元――兜と胴体の隙間が、無防備に晒される。  俺は返す刀で、首の継ぎ目をなぎ払った。  金属が切断される不快な音が響き、兜が宙を舞う。  動力を失ったのか、巨大な鎧は糸が切れた人形のように崩れ落ち、動かなくなった。

 静寂が戻る。  俺は小さく息を吐き、剣についた油のような黒い液体を振って払った。  振り返ると、女騎士が信じられないものを見る目で俺を見上げていた。  恐怖、驚愕、そして畏怖。

「……ありえない」

 彼女は震える唇で呟いた。

「歴代の英雄ですら……命を削って一振りするのが限界だった、呪いの王を……どうして……?」

 どうして、と言われても困る。  俺は剣を逆手に持ち替え、彼女のそばに膝をついた。  腹部の傷は深い。今は、説明よりも止血が先だ。

「じっとしててくれ。傷を見る」

 俺が手を伸ばすと、彼女はビクリと体を強張らせたが、拒絶はしなかった。  まるで、神か悪魔に触れられるのを待つような、強張った表情だ。

「あ……あなたは、一体……」
「相模登。ただの人間だ」

 俺は短く答えて、スーツの内ポケットからハンカチを取り出した。

 ただの人間。この世界で、もっとも異質な「ただの人間」だ。

 俺の言葉に、彼女は力なく首を振った。

「嘘だ……。ただの人間が、グラムを扱えるはずがない……。あなたは、人の姿をした高位の……」

 意識が混濁しているのか、彼女の言葉はそこで途切れた。

 まあいい。誤解させておく方が、今は都合がいいかもしれない。

 俺はハンカチを傷口に当て、強く圧迫した。  まずは、ここから生きて出ることだ。  俺はこの異様な状況を、あくまで冷静に、タスクとして処理することに決めた。
感想 1

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった

仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵
ファンタジー
 日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。  あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。  ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。  しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。

異世界で俺の初級魔法が最強でした。無自覚に絶望から救った美女やエルフたちに溺愛されています

仙道
ファンタジー
やり込んでいたゲームの世界に転移した主人公、渉。この世界では、渉にとっての「初級魔法」が最高峰の威力だった。しかし、他の冒険者たちが雑魚モンスター1匹に苦労しているのを見て、「みんなわざと弱い魔法を使って戦闘を楽しんでいるんだな」と思い込む。 渉は手加減を続けながら、美女たちを無自覚に救い出していく。渉は毎回「余計な手出しをしてしまった」と後悔するが、ヒロインたちはそんな渉の強さと優しさにますます惹かれ、激しく溺愛してくる。なぜこんなに好かれるのか全く理解できないまま、渉は柔らかくていい匂いのする女の子たちに囲まれ、この異世界で生きていく。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

俺のレベルが常人では到達不可の領域にある件について ~全ユーザーレベル上限999の中俺だけレベル100億いった~

仮実谷 望
ファンタジー
ダンジョンが当たり前のようにある世界になって3年の月日が流れてずっとダンジョンに入りたいと願っていた青年が自宅にダンジョンが出現する。自宅の押し入れにダンジョンが出現する中、冷静に青年はダンジョンを攻略する。そして自分だけがレベル上限を突破してレベルが無尽蔵に上がり続けてしまう。そうしていづれは最強への探索者として覚醒する青年なのであった。

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
ファンタジー
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。