「真白」〜〜雪と蛇の女〜〜

まへまへ

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エピローグ 18年後の夏 第2話

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真白は信じられない思いで、手の中の写真集を見つめ続けていた。

胸の奥がざわつく。息を整えようとしても、うまくできない。

「……まさか、そんなはず……」

震える指先でポケットからスマホを取り出した。

画面に「ミキ モデル」と入力し、検索ボタンを押す。

わずか数秒で、無数の記事や画像が溢れるように表示された。

――“伝説のモデル・MIKI”
――“20年前に社会現象を巻き起こした存在”
――“写真集『White Mirage』は初版50万部突破”
――“事故により下半身麻痺、芸能界を惜しまれつつ引退”

スクロールする指が止まらない。

どの記事にも、同じ女性が写っていた。

雪原、都会の夜景、スタジオの白い壁――どの写真も、自分の“母”と同じ顔がこちらを見ていた。

「……20年前……?」

「写真集の発売と同時に……事故……?」

真白は目を見開く。

表示された一文が、心の奥で鮮烈に響いた。

“写真集『White Mirage』は爆発的ヒットと記録的な売上を記録するも、発売イベント中に発生した不幸な事件によりモデルMIKIは重傷。

下半身麻痺の後遺症を負い、芸能界を引退。その後は公の場から姿を消す。現在の所在は不明。”

スマホの光に照らされた母の名前――陽子(旧芸名:MIKI)

その文字を見つめた瞬間、真白の喉がぎゅっと締まった。

「……やっぱり……母さん……」

写真集をそっと抱きしめる。

ページの中の母は、今よりずっと若く、輝いていて、眩しいほどに強かった。

けれど、どこか寂しそうな笑顔でもあった。

真白はその表情を見て、胸の奥がじんわり熱くなる。

「……すごいじゃん、母さん……」

声に出すと、少しだけ涙が滲んだ。

「私、全然知らなかったよ……母さんが、こんなにすごい人だったなんて」

窓の外では、夕陽が山の端に沈みかけていた。

そのオレンジの光が物置の中に差し込み、手にした写真集の表紙をやわらかく照らす。

ページの中の“ミキ”が、まるで時を超えて笑いかけてくるようだった。

真白は息を呑みながら、ページをめくる手を止めた。

指先がわずかに震える。

写真集のページには、深い雪に覆われた山の斜面――

見覚えのある木々、遠くに見えるロッジの屋根、そして空気の冷たさまで伝わってくるような静謐な景色。

「……え? これ……ここじゃん……」

思わず声が漏れた。

小さい頃から雪遊びをしてきた、あの山。

冬になると父と母と三人でスノーランタンを作った場所だ。

どの角度から見ても間違いない。

胸の奥にぽっと温かいものが灯る。

――母さん、この場所で撮影してたんだ。

そう思うと嬉しくて、誇らしくて、自然と頬が緩んだ。

ページを進めていく。

母の笑顔。

白銀の世界に映える黒いラバー。

ポーズを取るその姿は、堂々としていて、美しく、強かった。

そして――最後のページ。

「……え?」

真白はページをめくったまま、目を見開いた。

そこにはラバースーツ姿の二人の女性が並んで立っていた。

ひとりは母。

間違いなく、母・陽子の若い頃の姿。

もうひとりは――

黒髪のショートヘアの女性だった。

その髪は雪の白さにくっきりと映え、凛とした横顔にはどこかあどけなさが残っている。

真白は息をのんだ。

「……わ、私?」

ページの中の女性は、どう見ても自分にそっくりだった。





輪郭も、目の形も、少し困ったように笑う口元も――鏡で見慣れた自分の顔と、まるで同じ。

だが、母の隣で微笑むその“もうひとりの自分”は、どこか現実の真白よりも落ち着いていて、優しさと強さを同時に宿しているように見えた。

「なに……これ……どういうこと……?」

思わず写真を指先でなぞる。

ラバーの質感が光を反射して、母とその黒髪の女性の姿をより鮮明に浮かび上がらせた。

母の横で笑っているその人の表情――それは、まるで母を守るように寄り添っているようにも見えた。

胸の奥がざわめく。

懐かしいような、不思議な安心感。

見たことがないはずなのに、まるで“再会”したような感覚が、真白の心を包んだ。

「……母さん……この人、だれ……?」

真白の小さな声が、静かな物置に吸い込まれていった。

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