王弟が愛した娘 —音に響く運命—

Aster22

文字の大きさ
18 / 181

涙が告げた願い

しおりを挟む
「これ、見てみてもいいですか?」
セラがそう言って指さしたのは賊が持っていた剣だった。
「ああ、構わない。」
しばらく剣や鞘をじっと眺めたセラが尋ねる。
「武器を流した商家に目星はついているんですか?」
「いや、まだだ。」
そう言うとセラはまた無言になった。戦の後からセラの様子がおかしい。探らないなど、今から考えれば不利極まりないことを言ったものだ。セラが隠していることは、レオが思っている以上に多いようだった。
「殿下、賊が目を覚ましました。」
「分かった。すぐ行く。」
頭であった男はなんてことない、元軍人らしき男だった。
「単刀直入に聞く。お前たちを集めた貴族と商人の名は?」
「何も話すわけないだろ。」
「その貴族はお前たちを助けてくれたか?」
「それは.....」
「指を一本ずつ落としていっても構わないが。どうする?」
「わ、分かった!だが俺は本当に何も知らないんだ!」
情けない男だ。そうやって言われるがまま頭になったのだろう。
「知っていることは全て話せ。話していないと判断すれば即座に指を切る。」
「話せることは話す!だが誓って言うが俺はその貴族の顔すら知らないんだ!」
「なら最初から話せ。俺の気が変わる前に。」
「.....俺たちはブルータル辺境伯の敗残兵で、傭兵団をしていた。だが近頃は戦争も減っている。食い繋ぐために賊の真似事をしていた。その貴族も同じように襲ったんだ。しかし俺たちは逆に捕えられた。
面を被った貴族の男は言った。
『力が欲しくないか?』
『力は要らないから食い物が欲しい。』
『なるほど。もし私の手伝いをしてくれるなら必要な物は全て用意してやろう。』
『.....何をすればいいんだ?』
『なに、簡単なことだ。集まる賊軍の頭をしてくれればいいんだ。』
『俺にそんな力はないぞ。』
『別に必要ない。だが誰かがやらねばならない....君は元軍人のようだ。軍には詳しいだろう?』
『まあそれなりには....あんた一体何を考えてるんだ』
『近頃、王は我々を蔑ろにしていてね....。君たちのように路頭に迷う者も多いだろう?もっと良い王が必要だと思わないか?』
男の言っている意味は分かったけど分からなかった。俺たちが路頭に迷っていたのは単に戦に負けたからだ。そんなのどの王になったって変わらない。
答えらずにいる俺たちに男は言った。
『1日やろう。よく考えるんだ。どちらが自分たちにとっていいのかを。』
留守番をしていた薬師の小僧のところに戻った俺たちは話し合った。
どうせ従わなければ殺される。皆賛成した。薬師の小僧を除いて。
反対した薬師の小僧を俺たちは殴り倒して道に放り出した。」
そこまで話した頭は息を吐いた。隣のセラの肩がぴくりと震えた。
頭は続けて話した。
「男のところに戻った俺たちは城を与えられた。あの城だ。男は言った通り必要な物は全て与えてくれた。軍は増え続けた。気の荒い奴らばかりだ。諍いを諌めるのが俺の役目みたいなもんだった。
「貴族の名前すら知らないのか?」
「ライベルト卿と呼べとやつは言った。だがどうせ偽名だろうよ。」
反逆者という意か。ふざけた名前だ。
「他に何か知っていることはないのか?」
「ない。俺は本当にただの飾りの頭だった。そんなの分かっててやってたんだ。」
男が嘘をついているようには見えなかった。これ以上聞いても無駄だろう。
「殿下、この男に質問してもよろしいでしょうか?」
いつになく張り詰めた顔をしたセラが進み出た。
「ん?ああ、構わないが。」
「では.....。その薬師の男、名前は?」
「あ?そいつは関係ねえだろ。」
「いいから答えて。」
冷たいセラの声。
凍りついた空気を頭も感じたのだろう。大人しく答える。
「なんなんだよ.....ライ。ライナーだ。」
「何故一緒に傭兵団を?」
「......敗戦で負傷していたところを手当てしてもらったよしみだ。身体は弱いが腕は良かったからな。」
「助けられた相手を殴り倒して放り出したの?」
「あいつが悪いんだよ。この世界、綺麗事だけじゃ生きていけない。だから....うっ!!」
男の喉元から僅かな血が流れ出た。思い止まった切先は静止したまま動かない。
「セラ」
「..........申し訳ありません。聞きたいことは聞き終わりました。失礼します。」
剣を納め、背を向けてセラは奥に去っていった。
「クシェル、こいつにこれ以上聞くことはない。逃げないように見張っておけ。」
「分かりました。」
察したらしいクシェルはそれ以上何も言わなかった。
セラが入って行った森に入る。薄暗い木々の影の中にうずくまっている人影を見つけた。
音に反応したセラが顔を上げる。泣いていたのは明らかだった。
「セラ」
「何故ここに....」
「あんな顔をして出て行かれたら心配に決まってる.....泣いていたんだろう。」
「咎めないのですか。捕虜に剣を向けたのに。」
「お前は思い止まった。頭を捕まえたのはお前の手柄だ。あれくらいで咎めはしない。」
「......ルディに顔向けできません。あんなことを言っておいて。」
「お前は強い。そんなお前が剣を抜いたんだ。それほど大事な人だったのだろう。」
「.......鞘の内側。」
「鞘?」
「賊が持っていた剣の鞘です。内側にごく小さな3本線の印がありました。印を持つ鍛冶屋を辿れば商家に辿り着くかと。」
「それは.....ありがたい情報だが。知っていたのか?」
「父が、教えてくれました。」
セラが親のことを口にしたのは初めてだった。それくらい動揺しているのだろう。
「.....薬師は探していた弟か?」
「.....はい。......教会の前に書状を置いたのは私なのです。」
「まさかとは思っていたが....。知られたくなかったんじゃないのか?」
「....村を、治療院を巡り、賊を捕えては尋問しました。何の手がかりもなかったのです。それが数週間前、あの城の近くで賊と交戦した時、西へ逃げた。王都か西部のどこかに辿り着いているはずだと賊が言いました。でもまさか....傭兵団になって、その上殴られ放り出されたなんて....生きているはずがないではないですか....」
震えるセラは泣くのを堪えていた。いつも強く立つセラが弱々しく、今にも消え入りそうに見え、思わず項垂れる頭を撫でた。
「セラ、泣くのを我慢するな。今は俺しかいない。」
恐らく意に反したであろう涙がセラの目からこぼれ落ちた。声も上げずに泣く姿は逆にその痛みと過去を感じさせた。
「また.....逆戻りです....やっと見つかるかもしれないと思ったのに生きてるかも分からない....もし生きていたって、私に会いたいかどうかも分からないのに....」
震える声で途切れ途切れに紡がれる言葉はレオに向けているつもりでもないのかもしれない。
「なあセラ」
泣き顔を隠すようにチラリとこちらを見る。そんな顔が可愛いなどと、言える状況ではなかったが。
「....少し休め。これ以上動けばお前が壊れる。弟だって、ボロボロになったお前を見たくはないだろう。」
「落ち着かないのです。探していないとおかしくなってしまいそうで。」
「なら俺が探す。」
「何を言って....」
「お前1人で探せる範囲などたかが知れている。ましてや王都圏など入り込むのは至難だ。俺が探したほうが早い。」
「私個人の事情に巻き込むわけにはいきません。」
「残念ながらもうお前は俺にとって他人じゃないんだ。それに今回頭を捕えただろ?」
「それが何か....?」
「軍にいれば昇格ものの手柄だ。頼みを何でも聞こうと思っていた。」
「私にとってはいただいたものの恩返しです。」
「それでは示しがつかん。だからセラ。望め。俺を使えばいい。」
「王族を使うなど....」
「手柄を立てた者は知恵を働かせていかに大きな利を得るかを考える。それは悪いことじゃない。お前はその機会を得た。そう思えばいい。.....さあ、言え。お前の望む褒美は何だ?」
涙の跡を残した顔が迷いから覚悟に変わる。
「.......では、弟を探す手助けを、望みます。」
「それでいい。」
「.....もう一つだけ、いいでしょうか?」
「何だ?なんでも言え。」
「ゲルプナーシュを、いただけませんか?」
困ったように笑うセラを、愛しいと思った。
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

愛とオルゴール

夜宮
恋愛
 ジェシカは怒っていた。  父親が、同腹の弟ではなく妾の子を跡継ぎにしようとしていることを知ったからだ。  それに、ジェシカの恋人に横恋慕する伯爵令嬢が現れて……。  絡み合った過去と現在。  ジェシカは無事、弟を跡継ぎの座につけ、愛する人との未来を手にすることができるのだろうか。

好感度0になるまで終われません。

チョコパイ
恋愛
土屋千鶴子(享年98歳) 子供や孫、ひ孫に囲まれての大往生。 愛され続けて4度目の転生。 そろそろ……愛されるのに疲れたのですが… 登場人物の好感度0にならない限り終わらない溺愛の日々。 5度目の転生先は娘が遊んでいた乙女ゲームの世界。 いつもと違う展開に今度こそ永久の眠りにつける。 そう信じ、好きなことを、好きなようにやりたい放題… 自覚なし愛され公女と執着一途皇太子のすれ違いラブロマンス。

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

隠された第四皇女

山田ランチ
恋愛
 ギルベアト帝国。  帝国では忌み嫌われる魔女達が集う娼館で働くウィノラは、魔女の中でも稀有な癒やしの力を持っていた。ある時、皇宮から内密に呼び出しがかかり、赴いた先に居たのは三度目の出産で今にも命尽きそうな第二側妃のリナだった。しかし癒やしの力を使って助けたリナからは何故か拒絶されてしまう。逃げるように皇宮を出る途中、ライナーという貴族男性に助けてもらう。それから3年後、とある命令を受けてウィノラは再び皇宮に赴く事になる。  皇帝の命令で魔女を捕らえる動きが活発になっていく中、エミル王国との戦争が勃発。そしてウィノラが娼館に隠された秘密が明らかとなっていく。 ヒュー娼館の人々 ウィノラ(娼館で育った第四皇女) アデリータ(女将、ウィノラの育ての親) マイノ(アデリータの弟で護衛長) ディアンヌ、ロラ(娼婦) デルマ、イリーゼ(高級娼婦) 皇宮の人々 ライナー・フックス(公爵家嫡男) バラード・クラウゼ(伯爵、ライナーの友人、デルマの恋人) ルシャード・ツーファール(ギルベアト皇帝) ガリオン・ツーファール(第一皇子、アイテル軍団の第一師団団長) リーヴィス・ツーファール(第三皇子、騎士団所属) オーティス・ツーファール(第四皇子、幻の皇女の弟) エデル・ツーファール(第五皇子、幻の皇女の弟) セリア・エミル(第二皇女、現エミル王国王妃) ローデリカ・ツーファール(第三皇女、ガリオンの妹、死亡) 幻の皇女(第四皇女、死産?) アナイス・ツーファール(第五皇女、ライナーの婚約者候補) ロタリオ(ライナーの従者) ウィリアム(伯爵家三男、アイテル軍団の第一師団副団長) レナード・ハーン(子爵令息) リナ(第二側妃、幻の皇女の母。魔女) ローザ(リナの侍女、魔女) ※フェッチ   力ある魔女の力が具現化したもの。その形は様々で魔女の性格や能力によって変化する。生き物のように視えていても力が形を成したもの。魔女が死亡、もしくは能力を失った時点で消滅する。  ある程度の力がある者達にしかフェッチは視えず、それ以外では気配や感覚でのみ感じる者もいる。

大迷惑です!勝手に巻き戻さないで!?

ハートリオ
恋愛
イブはメイド。 ある日主人であるブルーベル様の記憶が2つある事に気付き、時間が巻き戻されていると確信する。 しかも巻き戻り前は美しく優秀だったブルーベル様。 今はオジサン体型でぐうたらで。 もうすぐ16才になろうというのに婚約者が見つからない! 巻き戻された副作用か何か? 何にしろ大迷惑! とは言え巻き戻り前は勉強に鍛錬に厳しい生活をしていた彼。 今回の方が幸せ? そして自分の彼への気持ちは恋? カップルは男性が年上が当たり前の世界で7才も年上の自分は恋愛対象外… あれこれ悩む間もなくイブはメイドをクビになってしまい…

天才魔術師の仮面令嬢は王弟に執着されてます

白羽 雪乃
恋愛
姉の悪意で顔半分に大火傷をしてしまった主人公、大火傷をしてから顔が隠れる仮面をするようになった。 たけど仮面の下には大きい秘密があり、それを知ってるのは主人公が信頼してる人だけ 仮面の下の秘密とは?

借りてきたカレ

しじましろ
恋愛
都合の良い存在であるはずのレンタル彼氏に振り回されて…… あらすじ システムエンジニアの萩野みさをは、仕事中毒でゾンビのような見た目になるほど働いている。 人の良さにつけ込まれ、面倒な仕事を押しつけられたり、必要のない物を買わされたり、損ばかりしているが、本人は好きでやっていることとあまり気にしていない。 人並みに結婚願望はあるものの、三十歳過ぎても男性経験はゼロ。 しかし、レンタル彼氏・キキとの出会いが、そんな色の無いみさをの日常を大きく変えていく。 基本的にはカラッと明るいラブコメですが、生き馬の目を抜くIT企業のお仕事ものでもあるので、癖のあるサブキャラや意外な展開もお楽しみください!

【完結】捨てられた皇子の探し人 ~偽物公女は「大嫌い」と言われても殿下の幸せを願います~

ゆきのひ
恋愛
二度目の人生は、前世で慕われていた皇子から、憎悪される運命でした…。 騎士の家系に生まれたリュシー。実家の没落により、生きるために皇宮のメイドとなる。そんなリュシーが命じられたのは、廃屋同然の離宮でひっそりと暮らすセレスティアン皇子の世話係。 母を亡くして後ろ盾もなく、皇帝に冷遇されている幼い皇子に心を寄せたリュシーは、皇子が少しでも快適に暮らしていけるよう奮闘し、その姿に皇子はしだいに心開いていく。 そんな皇子との穏やかな日々に幸せを感じていたリュシーだが、ある日、毒を盛られて命を落とした……はずが、目を開けると、公爵令嬢として公爵家のベッドに横たわっていた。けれどその令嬢は、リュシーの死に因縁のある公爵の一人娘……。 望まぬ形で二度目の生を享けたリュシーと、その死に復讐を誓った皇子が、本当に望んでいた幸せを手に入れるまでのお話。 ※本作は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さんにも投稿しています。 ※表紙画像はAIで作成したものです

処理中です...