王弟が愛した娘 —音に響く運命—

Aster22

文字の大きさ
50 / 181

ライの想い

しおりを挟む
ライの想い
王弟殿下が自分を呼んでいると聞いた時、終わりだと思った。浅ましくも生き残ってしまった自分への罰が降る時が来たのだと。
だが待っていたのは予期せぬ姉の報せと所在だった。それに王弟殿下は本気で姉に惚れていると言う。
(セラ姉様.....)
ライにとって、セラは全てと言っても過言ではなかった。幼い時から自分を守り、育て、教えてくれた。だから納得がいかなかった。優しい姉がいつも損することを。
『何故セラ姉様は人に優しくするのですか?誰も返してくれやしないではないですか。』
『そうかもしれないわね。でも後悔するのは自分なのよ。私は、生まれたことを恥じないように生きたい。』
その言葉通り、姉は人を守り、医療で、音で人を癒やし続けた。代わりに銭をもらい、崇める人はいても姉を守ってくれる人はいなかった。
だから、耐えられなかった。姉の身体までが汚い男に汚されることを。気づいた時には矢を射ていた。後悔はない。
(もし、本当に王弟殿下と結ばれてくれるなら....)
『セラ姉様は、泣かないのですね。』
『人前で泣くのはどうも難しいわね。』
『あの人の前でも?』
『そりゃあ.....別にあの人とそんな関係があるわけじゃないわ。』
ライの知っている限り、姉が人前で泣いたことはない。そんな姉が、王弟殿下の前で泣いたと言う。
王弟殿下は自信を失くされていたようだったが姉は恋愛ごとは縁のないものと決めつけてきた人なだけに疎いだけだ。
実際村では愛嬌のあるメアベル姉様とは違い孤独な雰囲気を纏う姉に焦がれる者も多かった。全てライが排除していただけで。
薬草を干しながらそんなことを考えていた。
また来ると言った王弟殿下は本当にやってきた。余程姉に振り回されているようで王族として威厳を纏ってやって来る彼は時に冷静、時に気の弱い男だった。
「ベルシュタイン辺境伯は何故お前たちを迎え入れたんだ?」
「それは....」
あの時の緊張が蘇る。
『今更戻ってきて、何の真似だ?』
血筋としては伯父に当たる当主の声は、絶対零度の冷たさを誇っていた。駆け落ちした妹が、子供を連れて来たのだから当然かもしれないけれど。
『そ、それは....』
しどろもどろになっている母を見ていられなかったセラが前に出た。
『私が、家を出るよう母に言ったのです。』
『お前が?何故?』
『父は母と弟に手を挙げ続けていました。身体の弱い弟はこのまま冬を越すことは難しい。そう判断したためです。』
『ここに来れば私が慈悲をかけるとでも思ったか?』
『いえ。駆け落ちした娘を迎え入れるなどあり得ぬことです。ですが、辺境伯に娘はおられぬと聞きました。』
『....確かにいないな。それがどうした?』
『私を、お使いください。政略結婚の駒にでもすれば多少お役には立ちましょう。』
ライは怖くて何も言えなかった。11歳にして、恐ろしい辺境伯を相手に真っ直ぐ目を見て交渉するセラを、辺境伯は気に入ったようだった。
『......ほう。悪くない。ヴィクトリア、この娘を16歳になった時養子として差し出すなら置いてやらんこともないぞ。』
『わ、私たちはどうなるのですか?』
『使えぬ駒はいらん。離れに住まわせてやるだけ有り難く思え。』
『そんな....』
言い募ろうとする母を、セラが遮った。
『十分です。勿体なき慈悲、感謝いたします。』
『娘の方が余程弁えているな。聡明な娘に感謝することだ。』
人生の中でもあれ程緊張に満ちた空間もそうなかっただろう。レオに呼ばれた時は一瞬似たものを感じたが。
「なるほどな....使えるものは使う。ベルシュタイン辺境伯らしい。」
「母はその待遇に耐えられず始終文句と嫉妬を姉に向けていました。命が助かっただけありがたかったのに。」
「よくそんな親からセラやお前が産まれたな。何かの間違いじゃないのか?」
「それが事実なので仕方ありません。反面教師というものでしょうか。」
「不思議なもんだな。助かった。今日は帰る。」
想像していたよりも気さくで、セラへの強い感情を持つ者同士、王弟という立場のレオにライは不思議な繋がりすら感じ始めていた。
ある時レオは酷く弱った様子でやって来た。
「お前の姉が優しいのは知っている。だが薬で苦しむ男に身体を差し出そうとするのはどうなんだ.....?」
流石にこれには驚いた。王弟殿下の前での姉は、ライの知る姉ではないようだった。
「愛してると言ったのにまるで変わらない。確かに今まで通りでいいとは言ったが.....」
「言ったのですか?」
「......あのままだったら勢いで抱くところだった。仕方なかったんだ。」
「姉は感情を隠すプロです。殿下の前ではよく出ている方だと思います。」
「ただ無表情なんじゃなくて一見普通に見えるから余計タチが悪い。」
ぶつぶつと文句を言って去っていく王弟殿下は普通の一人の男に見えた。
姉に幸せになって欲しい―――――
ただ、願うのはそれだけだった。

 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

愛とオルゴール

夜宮
恋愛
 ジェシカは怒っていた。  父親が、同腹の弟ではなく妾の子を跡継ぎにしようとしていることを知ったからだ。  それに、ジェシカの恋人に横恋慕する伯爵令嬢が現れて……。  絡み合った過去と現在。  ジェシカは無事、弟を跡継ぎの座につけ、愛する人との未来を手にすることができるのだろうか。

好感度0になるまで終われません。

チョコパイ
恋愛
土屋千鶴子(享年98歳) 子供や孫、ひ孫に囲まれての大往生。 愛され続けて4度目の転生。 そろそろ……愛されるのに疲れたのですが… 登場人物の好感度0にならない限り終わらない溺愛の日々。 5度目の転生先は娘が遊んでいた乙女ゲームの世界。 いつもと違う展開に今度こそ永久の眠りにつける。 そう信じ、好きなことを、好きなようにやりたい放題… 自覚なし愛され公女と執着一途皇太子のすれ違いラブロマンス。

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

隠された第四皇女

山田ランチ
恋愛
 ギルベアト帝国。  帝国では忌み嫌われる魔女達が集う娼館で働くウィノラは、魔女の中でも稀有な癒やしの力を持っていた。ある時、皇宮から内密に呼び出しがかかり、赴いた先に居たのは三度目の出産で今にも命尽きそうな第二側妃のリナだった。しかし癒やしの力を使って助けたリナからは何故か拒絶されてしまう。逃げるように皇宮を出る途中、ライナーという貴族男性に助けてもらう。それから3年後、とある命令を受けてウィノラは再び皇宮に赴く事になる。  皇帝の命令で魔女を捕らえる動きが活発になっていく中、エミル王国との戦争が勃発。そしてウィノラが娼館に隠された秘密が明らかとなっていく。 ヒュー娼館の人々 ウィノラ(娼館で育った第四皇女) アデリータ(女将、ウィノラの育ての親) マイノ(アデリータの弟で護衛長) ディアンヌ、ロラ(娼婦) デルマ、イリーゼ(高級娼婦) 皇宮の人々 ライナー・フックス(公爵家嫡男) バラード・クラウゼ(伯爵、ライナーの友人、デルマの恋人) ルシャード・ツーファール(ギルベアト皇帝) ガリオン・ツーファール(第一皇子、アイテル軍団の第一師団団長) リーヴィス・ツーファール(第三皇子、騎士団所属) オーティス・ツーファール(第四皇子、幻の皇女の弟) エデル・ツーファール(第五皇子、幻の皇女の弟) セリア・エミル(第二皇女、現エミル王国王妃) ローデリカ・ツーファール(第三皇女、ガリオンの妹、死亡) 幻の皇女(第四皇女、死産?) アナイス・ツーファール(第五皇女、ライナーの婚約者候補) ロタリオ(ライナーの従者) ウィリアム(伯爵家三男、アイテル軍団の第一師団副団長) レナード・ハーン(子爵令息) リナ(第二側妃、幻の皇女の母。魔女) ローザ(リナの侍女、魔女) ※フェッチ   力ある魔女の力が具現化したもの。その形は様々で魔女の性格や能力によって変化する。生き物のように視えていても力が形を成したもの。魔女が死亡、もしくは能力を失った時点で消滅する。  ある程度の力がある者達にしかフェッチは視えず、それ以外では気配や感覚でのみ感じる者もいる。

天才魔術師の仮面令嬢は王弟に執着されてます

白羽 雪乃
恋愛
姉の悪意で顔半分に大火傷をしてしまった主人公、大火傷をしてから顔が隠れる仮面をするようになった。 たけど仮面の下には大きい秘密があり、それを知ってるのは主人公が信頼してる人だけ 仮面の下の秘密とは?

借りてきたカレ

しじましろ
恋愛
都合の良い存在であるはずのレンタル彼氏に振り回されて…… あらすじ システムエンジニアの萩野みさをは、仕事中毒でゾンビのような見た目になるほど働いている。 人の良さにつけ込まれ、面倒な仕事を押しつけられたり、必要のない物を買わされたり、損ばかりしているが、本人は好きでやっていることとあまり気にしていない。 人並みに結婚願望はあるものの、三十歳過ぎても男性経験はゼロ。 しかし、レンタル彼氏・キキとの出会いが、そんな色の無いみさをの日常を大きく変えていく。 基本的にはカラッと明るいラブコメですが、生き馬の目を抜くIT企業のお仕事ものでもあるので、癖のあるサブキャラや意外な展開もお楽しみください!

大迷惑です!勝手に巻き戻さないで!?

ハートリオ
恋愛
イブはメイド。 ある日主人であるブルーベル様の記憶が2つある事に気付き、時間が巻き戻されていると確信する。 しかも巻き戻り前は美しく優秀だったブルーベル様。 今はオジサン体型でぐうたらで。 もうすぐ16才になろうというのに婚約者が見つからない! 巻き戻された副作用か何か? 何にしろ大迷惑! とは言え巻き戻り前は勉強に鍛錬に厳しい生活をしていた彼。 今回の方が幸せ? そして自分の彼への気持ちは恋? カップルは男性が年上が当たり前の世界で7才も年上の自分は恋愛対象外… あれこれ悩む間もなくイブはメイドをクビになってしまい…

【完結】捨てられた皇子の探し人 ~偽物公女は「大嫌い」と言われても殿下の幸せを願います~

ゆきのひ
恋愛
二度目の人生は、前世で慕われていた皇子から、憎悪される運命でした…。 騎士の家系に生まれたリュシー。実家の没落により、生きるために皇宮のメイドとなる。そんなリュシーが命じられたのは、廃屋同然の離宮でひっそりと暮らすセレスティアン皇子の世話係。 母を亡くして後ろ盾もなく、皇帝に冷遇されている幼い皇子に心を寄せたリュシーは、皇子が少しでも快適に暮らしていけるよう奮闘し、その姿に皇子はしだいに心開いていく。 そんな皇子との穏やかな日々に幸せを感じていたリュシーだが、ある日、毒を盛られて命を落とした……はずが、目を開けると、公爵令嬢として公爵家のベッドに横たわっていた。けれどその令嬢は、リュシーの死に因縁のある公爵の一人娘……。 望まぬ形で二度目の生を享けたリュシーと、その死に復讐を誓った皇子が、本当に望んでいた幸せを手に入れるまでのお話。 ※本作は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さんにも投稿しています。 ※表紙画像はAIで作成したものです

処理中です...