王弟が愛した娘 —音に響く運命—

Aster22

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ねぇ、拗ねてるんですか?

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ねぇ、拗ねてるんですか?
「しかし本当にどうなってるんだその回復力は....」
レオは感動を通り越して呆れている。当然だろう。普通あんな状態になれば1週間は高熱、背中の傷もロクに塞がらなければ肋骨もあり起き上がることすら困難だろう。
「まだ1週間ちょっとしか経ってないぞ。なんで起き上がって普通に話せる。」
「流石にまだ食べるのもあんまりですし、歩くのは数日かかりそうですよ。」
「とにかく無理だけはしてくれるなよ....あとあの侍女、本当にあれでよかったのか?」
「はい。もしあそこで罰を与えていれば私の方が後悔したでしょう。」
「お前のそう言うところになあ....俺は惚れたんだろうが不安が絶えん。」
「そのエティなんですが、ベルシュタイン家に一緒に入れるでしょうか?」
「ふむ....正直ベルシュタイン辺境伯の方は何を考えているのか読めん。聞いてはみるが。」
「難しければ、レオ様とコアルシオンに連れて行っていただけませんか?」
「俺と?」
嫌だと顔に書いてある。案外心が狭いと言っていたのを思い出した。
「本邸に入れても皆困惑するでしょうし...私の代わりだとでも思ってください。」
「何言ってるんだ。.....俺があの侍女を快く思ってないのは分かってるだろう。」
「はい。ですが私としても私の侍女とレオ様が上手くいかないのは落ち着かないので。これを機に。」
「......もしベルシュタイン卿が首を縦に振らなかったらな。」
ムスッとしながらレオは頷いた。最近なんだか子供っぽい。セラより年上で、ずっと大きいのに子供っぽい顔をするからつい揶揄いたくなる。
膨れている頬に指を突いてみた。
「....なんだ。急に。」
「膨れている頬は突きたくなります。」
「お前帰って来てから強くなったよな....」
「レオ様は私が目覚めてから百面相をしていますね。」
「当たり前だ。嬉しいのに離れないといけないし、あの侍女にやたら優しいし.......」
おや、これはもしかして。
「拗ねてらっしゃいますか?」
うるさい。そう言いたげな顔が睨んだ。こんな大の男なのに睨まれたって少しも怖くないのは不思議な経験だけど。
「ふふっ」
「笑うな。」
「レオ様」
手招きするとそばまでやって来たレオの頭を撫でてみる。
「......楽しいか?」
「落ち着きませんか?」
「......確かに、悪くない。」
大人しく撫でられていたレオがこちらを見た。
じっと無言で見つめる目は時を伺っているように見える。
「レオ様?」
そっと、レオの指がセラの唇に触れた。ゆっくりと、なぞるその動きに身体が震えてしまう。
「口、開けろ。」
言われるがままに開けた口の中で舌をなぞっていく。何でこんなのが気持ちいいのか分からない。逸らすことなく見つめる目が逃げ場を失くしてしまうようで本来感じないはずのものを感じてしまう。
いつもより、少しだけ加虐的な笑み。
「こんなので感じたか?」
「違っ.....」
「キスならどうなるんだ?」
次の瞬間、感じるのは指ではなく柔らかいもの。指とは違う、湿った唇と濡れた舌の感覚はより鮮明で、まるでいつものキスとは違うよう。
「やっ.....ぁ.....」
「気持ちいいか?」
「そ....れは」
「病み上がりなのにこんなに感じてたらダメだろ?」
「レオ様があんなことするから....!」
「あんなこと?」
「だから、キス....」
「はぁ.....病人に欲情する俺も大概だが煽るお前も悪い。コアルシオンから戻ったってすぐ会えるわけじゃないし....なあ。」
意外とぶつぶつと愚痴る癖を持っていると気づいたのはいつだったか。頭の中は忙しいタイプなんだろう。
「なんでしょうか。」
「婚約指輪、ちゃんとしたの贈るからな。あんなのじゃなくて。期待してろよ。」
「.....急にどうしたんですか。」
「お前がこの後に及んで結婚出来ないとか思ってたら困るから釘刺してるだけだ。結婚したら死ぬほど愛してやる。覚悟しとけ。」
「........流石に、私も結婚を意識しています。」
「それならいい。お前ほど鈍くて自己認識が甘いやつもそうおらん。もう同じ間違いは犯さない。あとな。」
「はい。」
「ベルシュタイン卿が開こうとしてる舞踏会、意図は分かるな?」
「....傷は隠して市場価値を見定めるのが目的かと。」
「ああ。そこでお前の価値を引き上げ他の縁談の内容、王家からどこまで交渉できるかを見定めるつもりだ。お前も寄ってきた男に揺れるなよ。」
「分かっています。私にはレオ様しかおりません。」
「今は....な。お前が自分の価値と美しさを知る時が来る。それでもお前に俺を選んで欲しいんだ。」
そんな時は来ない。何故かそう言えなかった。 
こんな顔、して欲しくないのに。
「もう。そんな弱気やめてください。私まで不安になるではないですか。」
「....悪いな。お前のことになるとついダメだ。愛してるよ、セラ。」
いつもよりカジュアルに聞こえて重いその言葉。何度、言われたって嬉しくなってしまう。
信じて欲しい。不安になんかなって欲しくない。そう思って手を取った。
「愛してます、レオ様。」
口付けて離した手にレオは呆然としていた。
 
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