王弟が愛した娘 —音に響く運命—

Aster22

文字の大きさ
164 / 181

涙の再会、大きくなった弟

しおりを挟む
涙の再会、大きくなった弟
音を立てずに食べる習慣を持つ2人が共にする朝食は言葉がないと静かだ。
「レオ様、眠れましたか?少し顔がお疲れのようですが。」
「ああ……うん、まあ、寝た。気にするな。」
 そんな気にする言い方をしておいてそれは無理があると思うのだけど。
「なあ、お前昨日のキス、意味分かってやったのか?」
「えっと……どのキスでしょう……」
「寝る前の、ほっぺのやつ。」
「それが正直よく分からなくて……やってみたんですが、違いましたか?」
「いいや、返しとして100点だ。俺を苦しませるのにも100点だな。」
「合ってたら良いのですが……レオ様を苦しませるのはいけませんね。」
「……まあ苦しんだのは俺の自業自得だからいいんだけどな。今日にでもアラに文を出す。何も整ってなくていいからとにかく行かせろとな。もう限界だ。」
「なんだかアラリック王子に申し訳なくなってきました。体調もまだよくないでしょうに……」
「まあ奴ももう王になる。周りが無理はさせんだろう。さて、食べ終わったら行くか。」
「お忍びでなくて良いのですが?」
「ああ。俺はずっと王弟として行ってたからな。今日もまた俺は眠れない病人だ。お前は侍女として付いてきた。この設定で行くぞ。」
「いつも通りですね。」
「……まあな。」
馬車で向かった王都の治療院は大規模のものでこの国一と言っていい大きさを誇る治療院だった。
馬車から降り、裏口から入る。王族が来た時のための入り口だ。何度も訪れているため慣れているのだろう。診察する院長も、それなりに気を緩めている。
「コアルシオンでの外交、大変だったと聞きました。ご体調はいかがでしょうか?」
「ああ、それがな。やはりまた眠れなくなってしまったようだ。それで薬をもらいに来た。」
まさかこの嘘で通していたわけではあるまいな。よく院長が気づかなかったものだ。まあ気づいたところで何も言えないだろうが。
「こちらが薬になります。それから……」
「ああ、ライを呼んでくれ。」
「かしこまりました。」
「一応俺はあの少年と話すと心が休まると理由をつけてある。」
「もう何でもありですね王族ともなれば……」
「お陰で見つかったんだから文句言うな。」
心臓が早鐘を打っている。信じられない。今から、私は本当にライに会うのだ。人違いだったらどうしようなんてあり得ないことすら考えてしまう。
ドアのノックが鳴った。
瞬間息が止まる。
ガチャッと音がして入ってきたのはもう2度と会えないと思っていたその人。
「え、セラ姉……」
「ライ……!」
何を言おうか、どんな顔をしようかと考えていたことなんて顔を見たらどうでもよくなって、堪らず抱きついた。
「ちょ、セラ姉……何でここに」
「あんたが見たつかったって聞いて、なのに会えなくて、信じられなくて……でも、生きてる。本当に、生きてるのね。」
「うん。生きてるよ。俺、ちゃんとここで働いて生きてるよ。だから泣かないで、セラ姉。」
「ごめっ……泣くつもりなんてなかったのに。傷は治ったの?」
「傷?ああ……殴られたやつか。あんなの治ったよ。それよりセラ姉、変わったね。」
「え?」
「セラ姉がこんなに素直に泣いて、表情がクルクル変わるの、俺初めて見たよ。」
「そう……?」
「うん。王弟殿下のお陰だね。……ご挨拶が遅れました。お久しぶりです……って何で貴方まで泣いてるんですか。」
「いや、姉弟の感動の再会についな……。中々会わせてやれなくて済まなかった。」
「「謝らないでください」」
 声が重なる。この感じは久しぶりだ。
「うむ……お前たちはまごうことなき姉弟だ。」
「セラ姉は今どこにいるの?まだ王弟殿下のお屋敷?」
「いや、今はベルシュタイン家にいるのよ。」
「ベルシュタイン家!?コアルシオンと戦争が始まりかけたとか麻薬だとかなんか色々噂ばっかり聞いて……何がどうなってるの」
「まあそれは話せば長くなるんだけど」
「簡単に言えば俺がベルシュタイン辺境伯に結婚の申し込みに行ったら一旦娘を返せと言われたわけだ。」
「そこだけ話せばそうですね。」
「なるほど……セラ姉嫌な思いしてない?大事にされてるの?」
「ライは心配性ねえ。大丈夫よ。皆よくしてくれて平和に暮らしてるわ。」
「それならよかった。コアルシオンとか麻薬とかセラ姉は関わってないよね?」
「それは……」
言葉に窮する。真実以外全てが嘘になってしまう。
「関わったの!?どうせまた敵に突っ込んだり狙われたりしたんだろ!」
「な、なんで分かるの……」
「セラ姉はいつもそうだ!人の気も知らず戦地に嬉々として飛び込んでいく!」
「き、嬉々としてかはどうか……」
「ライ、俺の苦労が分かるか……」
「はい、殿下のお気持ちがよく分かります。姉は目を離すとすぐにこれです。」
 男2人で共鳴し合っている。セラがライと肩を組むつもりだったのにこれでは逆だ。
「ちょ、ちょっと。2人して言うのやめてよ。」
「好みの男もお前の言った通りだった……流石は弟だ。」
「姉のことなら誰よりも見てきた自信があります。」
 ドヤ顔で言うことじゃない。そこは。
「でもお二人を見て安心しました。殿下なら姉を幸せにしてくれます。」
「お前の太鼓判ほど自信のつくものはないな。」
「……何でそう思うの。」
「だってセラ姉俺が入ってきてから一度も嘘ついてないよ。」
「それは……」
「いつも俺を心配させないようにすぐ嘘が本当か分かんないことばっかり言うのに。それに今日はちゃんと女の子の顔してる。」
図星な上にちょっとそれは恥ずかしい。自分の顔の管理なんてどうやってするんだ。なんとなくいたたまれない。
「おい、ライ。セラをあんまり苛めてやるな。泣き出すぞ。」
「泣きません!」
「最初に泣いただろう。一回緩んだ涙腺は弱いらしいぞ。」
「レオ様まで揶揄わないでください。もう……」
「ははっ」
「ライ?」
「俺、あんなに心配して馬鹿みたい。セラ姉は俺に会いたくないんじゃないかとか、会ったらまた迷惑かけちゃうんじゃないかとか。そんなの不要だったね。」
「それは私もよ。ライは私になんか会いたくない。世話なんて焼かれたくないし迷惑だって思ってたわ。」
「お前たちは少し苦労しすぎたな。これからはもう少し平和を味わえ。……ライはここで平和にやってるのか?」
「はい。ここでの仕事は大変ですがやり甲斐があります。」
「それならいい。そろそろお前を仕事に返さないといけないが、また来るからな。」
「はい。セラ姉、会えて嬉しかった。また会いに来てね」
「うん。ライ、無理しちゃダメよ。」
「もう子供じゃないよ。またね。」
小さくて身体の弱い男の子だったライの背。ずっとその背を、守らないといけないと思ってた。だけどもう、そんな必要はないんだね。
今日初めて大きく見えたライの背に守るべき手を手放した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

愛とオルゴール

夜宮
恋愛
 ジェシカは怒っていた。  父親が、同腹の弟ではなく妾の子を跡継ぎにしようとしていることを知ったからだ。  それに、ジェシカの恋人に横恋慕する伯爵令嬢が現れて……。  絡み合った過去と現在。  ジェシカは無事、弟を跡継ぎの座につけ、愛する人との未来を手にすることができるのだろうか。

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

好感度0になるまで終われません。

チョコパイ
恋愛
土屋千鶴子(享年98歳) 子供や孫、ひ孫に囲まれての大往生。 愛され続けて4度目の転生。 そろそろ……愛されるのに疲れたのですが… 登場人物の好感度0にならない限り終わらない溺愛の日々。 5度目の転生先は娘が遊んでいた乙女ゲームの世界。 いつもと違う展開に今度こそ永久の眠りにつける。 そう信じ、好きなことを、好きなようにやりたい放題… 自覚なし愛され公女と執着一途皇太子のすれ違いラブロマンス。

隠された第四皇女

山田ランチ
恋愛
 ギルベアト帝国。  帝国では忌み嫌われる魔女達が集う娼館で働くウィノラは、魔女の中でも稀有な癒やしの力を持っていた。ある時、皇宮から内密に呼び出しがかかり、赴いた先に居たのは三度目の出産で今にも命尽きそうな第二側妃のリナだった。しかし癒やしの力を使って助けたリナからは何故か拒絶されてしまう。逃げるように皇宮を出る途中、ライナーという貴族男性に助けてもらう。それから3年後、とある命令を受けてウィノラは再び皇宮に赴く事になる。  皇帝の命令で魔女を捕らえる動きが活発になっていく中、エミル王国との戦争が勃発。そしてウィノラが娼館に隠された秘密が明らかとなっていく。 ヒュー娼館の人々 ウィノラ(娼館で育った第四皇女) アデリータ(女将、ウィノラの育ての親) マイノ(アデリータの弟で護衛長) ディアンヌ、ロラ(娼婦) デルマ、イリーゼ(高級娼婦) 皇宮の人々 ライナー・フックス(公爵家嫡男) バラード・クラウゼ(伯爵、ライナーの友人、デルマの恋人) ルシャード・ツーファール(ギルベアト皇帝) ガリオン・ツーファール(第一皇子、アイテル軍団の第一師団団長) リーヴィス・ツーファール(第三皇子、騎士団所属) オーティス・ツーファール(第四皇子、幻の皇女の弟) エデル・ツーファール(第五皇子、幻の皇女の弟) セリア・エミル(第二皇女、現エミル王国王妃) ローデリカ・ツーファール(第三皇女、ガリオンの妹、死亡) 幻の皇女(第四皇女、死産?) アナイス・ツーファール(第五皇女、ライナーの婚約者候補) ロタリオ(ライナーの従者) ウィリアム(伯爵家三男、アイテル軍団の第一師団副団長) レナード・ハーン(子爵令息) リナ(第二側妃、幻の皇女の母。魔女) ローザ(リナの侍女、魔女) ※フェッチ   力ある魔女の力が具現化したもの。その形は様々で魔女の性格や能力によって変化する。生き物のように視えていても力が形を成したもの。魔女が死亡、もしくは能力を失った時点で消滅する。  ある程度の力がある者達にしかフェッチは視えず、それ以外では気配や感覚でのみ感じる者もいる。

天才魔術師の仮面令嬢は王弟に執着されてます

白羽 雪乃
恋愛
姉の悪意で顔半分に大火傷をしてしまった主人公、大火傷をしてから顔が隠れる仮面をするようになった。 たけど仮面の下には大きい秘密があり、それを知ってるのは主人公が信頼してる人だけ 仮面の下の秘密とは?

【完結】捨てられた皇子の探し人 ~偽物公女は「大嫌い」と言われても殿下の幸せを願います~

ゆきのひ
恋愛
二度目の人生は、前世で慕われていた皇子から、憎悪される運命でした…。 騎士の家系に生まれたリュシー。実家の没落により、生きるために皇宮のメイドとなる。そんなリュシーが命じられたのは、廃屋同然の離宮でひっそりと暮らすセレスティアン皇子の世話係。 母を亡くして後ろ盾もなく、皇帝に冷遇されている幼い皇子に心を寄せたリュシーは、皇子が少しでも快適に暮らしていけるよう奮闘し、その姿に皇子はしだいに心開いていく。 そんな皇子との穏やかな日々に幸せを感じていたリュシーだが、ある日、毒を盛られて命を落とした……はずが、目を開けると、公爵令嬢として公爵家のベッドに横たわっていた。けれどその令嬢は、リュシーの死に因縁のある公爵の一人娘……。 望まぬ形で二度目の生を享けたリュシーと、その死に復讐を誓った皇子が、本当に望んでいた幸せを手に入れるまでのお話。 ※本作は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さんにも投稿しています。 ※表紙画像はAIで作成したものです

借りてきたカレ

しじましろ
恋愛
都合の良い存在であるはずのレンタル彼氏に振り回されて…… あらすじ システムエンジニアの萩野みさをは、仕事中毒でゾンビのような見た目になるほど働いている。 人の良さにつけ込まれ、面倒な仕事を押しつけられたり、必要のない物を買わされたり、損ばかりしているが、本人は好きでやっていることとあまり気にしていない。 人並みに結婚願望はあるものの、三十歳過ぎても男性経験はゼロ。 しかし、レンタル彼氏・キキとの出会いが、そんな色の無いみさをの日常を大きく変えていく。 基本的にはカラッと明るいラブコメですが、生き馬の目を抜くIT企業のお仕事ものでもあるので、癖のあるサブキャラや意外な展開もお楽しみください!

公爵令嬢は嫁き遅れていらっしゃる

夏菜しの
恋愛
 十七歳の時、生涯初めての恋をした。  燃え上がるような想いに胸を焦がされ、彼だけを見つめて、彼だけを追った。  しかし意中の相手は、別の女を選びわたしに振り向く事は無かった。  あれから六回目の夜会シーズンが始まろうとしている。  気になる男性も居ないまま、気づけば、崖っぷち。  コンコン。  今日もお父様がお見合い写真を手にやってくる。  さてと、どうしようかしら? ※姉妹作品の『攻略対象ですがルートに入ってきませんでした』の別の話になります。

処理中です...