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第十話 夜這い
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「なんて言い草かしらね、奥様はあんなに旦那様を思っていらっしゃっているのに、旦那様は、ねえ?」
「愛想をつかされても仕方ないよな」
後ろに控えている使用人たちにぎりぎり聞こえる程度のひそめた声で嫌味を言われる。
それを聞こえないふりをしている法律家は立ち上がり、自分の仕事は済んだとばかりにさっさと帰り支度をしていた。
「それでは私はこれで」
「お疲れ様でした、先生」
先生のお見送りを、と外について出るローデリア。
彼女を呼び止めようとしたら、執事に間に割って入られた。
背の高い執事に上から見下ろされながら、にこやかに言われる。
「とりあえず、しばらくの間は当家にご滞在ください、トーマス様。ただし、客室の方に」
「なんだと!」
ここは自分の家で、自分の部屋があるというのに!
「どうして俺が部屋から追い出されるんだ?! ローデリアの命令か?!」
「いいえ、あくまでもこれは主人を思う我々の意思でして。奥様からも、ご主人様を丁重におもてなしをとのことなので、我々が最上級のおもてなしできるようにお部屋の移動を進言いたしましたら、快諾してくださいました」
後ろからくすくす、という笑い声が聞こえる。
ローデリアはまだ見送りから戻ってきておらず、悪意の嘲笑の中に一人だけ取り残されていた。
「トーマス様の荷物は極力そちらの方にお運びしましょう。それすらもご不満なら、どうぞお引き取りを」
どうせ行く場所なんてないだろう?という視線を受けて、奥歯をぎりっと噛んだ。
いや、今、この家を飛び出すのは得策ではない。奪われたものを取り返すまでは。
我慢のしどころだ、とぐっとこらえて、立ち上がった。
侍従におざなりに案内された客室の方も自分が知らないうちに色々と変更されている。
古びて茶色く変色していた壁紙も、綺麗なクリーム色に貼りなおされたり、カーテンも交換されている。
先祖から受け継いだものは極力そのまま次代に渡すのが貴族の風習だというのに、勝手に変えやがって! と怒りのあまりに側にあったグラスを、思い切り壁に叩きつけた。
「くそっ!!」
大きな音を立てて壊しても、誰も様子すら見にこようとしない。
ベッドの上に横たわって寝ようとしても、悔しくて、はらわたが煮えくりかえるようで眠ろうとしても眠れない。
怒りと疲れのせいで興奮し、不要な箇所も無駄に起き上がってくる始末だ。
「そうだ、今からでも跡継ぎを作ればいいだけじゃないか」
なんといういいアイディアだ。
子供を作ってしまえば離婚の理由もなくなるのだ。
この面倒ごとは全てなくなる。
そして隙を見て、財産や領地を奪い返せばいい。
ローデリアがやったのと同じようにすれば、ローデリアが稼いだ分も自分が奪えるに違いない。
いや、いっそ子供を産んだ後にローデリアを殺してしまえば、彼女の財産を正当な後継者として受け取ることができるのだ。
あの運営の腕は惜しいが、どうせ、女なんてまた掴まえて教育すればいいんだし。
殺すには、遊んでいる間に知り合った裏の世界に通暁している奴に頼めばいい。
まずは、ローデリアを孕ますことからスタートだ。
やるべきことをやらなければ、子供はできないからな。
そして今のこのイライラもムラムラもすっきりする。
まだ我々は夫婦なのだから、あの女も夫を拒否することはできないだろう。
仮に嫌がったとしても、言いくるめてしまえばいいのだ。今までのように。
「貴族なのだから、子供を作るのは義務だろう?」と。
それに正しい男の味を知れば、俺から離れられなくなるだろうしな。
そう考えればいても立ってもいられなくなって、客室用のドアを開けた。
灯が落とされて大分暗くなっている廊下を音もなく歩いていく。
足音がするから靴もスリッパも履かずに、裸足で部屋まで行こう。
腐っても産まれた時から住んでいる、勝手知ったる我が家。
彼女の部屋まで、迷わず足を進めていた。
「愛想をつかされても仕方ないよな」
後ろに控えている使用人たちにぎりぎり聞こえる程度のひそめた声で嫌味を言われる。
それを聞こえないふりをしている法律家は立ち上がり、自分の仕事は済んだとばかりにさっさと帰り支度をしていた。
「それでは私はこれで」
「お疲れ様でした、先生」
先生のお見送りを、と外について出るローデリア。
彼女を呼び止めようとしたら、執事に間に割って入られた。
背の高い執事に上から見下ろされながら、にこやかに言われる。
「とりあえず、しばらくの間は当家にご滞在ください、トーマス様。ただし、客室の方に」
「なんだと!」
ここは自分の家で、自分の部屋があるというのに!
「どうして俺が部屋から追い出されるんだ?! ローデリアの命令か?!」
「いいえ、あくまでもこれは主人を思う我々の意思でして。奥様からも、ご主人様を丁重におもてなしをとのことなので、我々が最上級のおもてなしできるようにお部屋の移動を進言いたしましたら、快諾してくださいました」
後ろからくすくす、という笑い声が聞こえる。
ローデリアはまだ見送りから戻ってきておらず、悪意の嘲笑の中に一人だけ取り残されていた。
「トーマス様の荷物は極力そちらの方にお運びしましょう。それすらもご不満なら、どうぞお引き取りを」
どうせ行く場所なんてないだろう?という視線を受けて、奥歯をぎりっと噛んだ。
いや、今、この家を飛び出すのは得策ではない。奪われたものを取り返すまでは。
我慢のしどころだ、とぐっとこらえて、立ち上がった。
侍従におざなりに案内された客室の方も自分が知らないうちに色々と変更されている。
古びて茶色く変色していた壁紙も、綺麗なクリーム色に貼りなおされたり、カーテンも交換されている。
先祖から受け継いだものは極力そのまま次代に渡すのが貴族の風習だというのに、勝手に変えやがって! と怒りのあまりに側にあったグラスを、思い切り壁に叩きつけた。
「くそっ!!」
大きな音を立てて壊しても、誰も様子すら見にこようとしない。
ベッドの上に横たわって寝ようとしても、悔しくて、はらわたが煮えくりかえるようで眠ろうとしても眠れない。
怒りと疲れのせいで興奮し、不要な箇所も無駄に起き上がってくる始末だ。
「そうだ、今からでも跡継ぎを作ればいいだけじゃないか」
なんといういいアイディアだ。
子供を作ってしまえば離婚の理由もなくなるのだ。
この面倒ごとは全てなくなる。
そして隙を見て、財産や領地を奪い返せばいい。
ローデリアがやったのと同じようにすれば、ローデリアが稼いだ分も自分が奪えるに違いない。
いや、いっそ子供を産んだ後にローデリアを殺してしまえば、彼女の財産を正当な後継者として受け取ることができるのだ。
あの運営の腕は惜しいが、どうせ、女なんてまた掴まえて教育すればいいんだし。
殺すには、遊んでいる間に知り合った裏の世界に通暁している奴に頼めばいい。
まずは、ローデリアを孕ますことからスタートだ。
やるべきことをやらなければ、子供はできないからな。
そして今のこのイライラもムラムラもすっきりする。
まだ我々は夫婦なのだから、あの女も夫を拒否することはできないだろう。
仮に嫌がったとしても、言いくるめてしまえばいいのだ。今までのように。
「貴族なのだから、子供を作るのは義務だろう?」と。
それに正しい男の味を知れば、俺から離れられなくなるだろうしな。
そう考えればいても立ってもいられなくなって、客室用のドアを開けた。
灯が落とされて大分暗くなっている廊下を音もなく歩いていく。
足音がするから靴もスリッパも履かずに、裸足で部屋まで行こう。
腐っても産まれた時から住んでいる、勝手知ったる我が家。
彼女の部屋まで、迷わず足を進めていた。
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