7 / 15
第7話
しおりを挟む
「……かなり魔力が吸い取られたのだけれど、成功したようで良かったわ。」
現れたのは、人型の『影獣』です。
イメージ次第でいけるかもしれないと思い、試したところ本当に出来てしまいました。
それもクロの姿とは違い、人間によく似ています。
肌の色は少し黒めで、黒髪に紫の目を持つ『影獣』です。
執事のような服装をしています。
「見た目は完全に人間ね。」
イメージ通りの姿です。
年齢は20歳前半といったところでしょうか。
背も高く、何でも出来そうな雰囲気を放っています。
「あなたの名前は……『ヴィレル』。目の色が紫で、髪が黒。この2つの色を言い換えると、紫と黒になるの。その組み合わせね。」
我ながらかっこいい名前ではないでしょうか。
クロは単純な付け方なのに、ですか?
可愛いからクロはクロで良いのです。
「我が主よ。頂いた『ヴィレル』という名に恥じぬ働きを、お約束いたします。」
「……あなたは普通に話せるのね…。」
「…?はい。私は『影獣』ですが、我が主によってこの姿に創造されましたので。」
「そう…。あと、私のことはシュレアと読んでほしいわ。主では何だか……恥ずかしいからね…。」
【承知しました。ではシュレア様と。】
「私もクロ殿と同様、シュレア様と呼ばせていただきますね。」
「ええ。そうして頂戴。」
その後、私の命令によりクロは私の影で護衛として待機、ヴィレルは証拠収集の為に魔道具を持たせて送り出しました。
ヴィレルが向かった先はもちろんザーディヌ殿下の自室です。
不法侵入?…ではありませんよ……ええ、違います…。
『影獣』はその場に居たという証拠は残りませんし、私の影響を受けているので魔力の残滓すら残しません。
『影獣』魔法が上位貴族のみに知らされた理由は、私がしたように情報収集に利用されるという危険性があるからでしょう。
そう思うと、確かに便利で強力な魔法です。
影がある場所になら、どこにでも行けるそうですから。
ただし私が行ったことのある場所、という制限があります。
このようなところも、発動者の影響を受けるのですね…。
【シュレア様。】
「…!慣れないわね…。【どうかしたのかしら?】」
急にヴィレルの声が頭の中に響きました。
『念話』……と呼んで良いものか分かりませんが、クロのようにヴィレルも使えたようです。
私も彼らのおかげで使えるようになりました。
思ったことがそのまま相手に伝わるので、気を付けなければなりませんが…。
【今ザーディヌ…殿下?の自室に居るのですが、音声を魔道具に録音し、別の魔道具にて撮影を行う。私が行うのはこの2つですね?】
【そうよ。問題でも起きた?】
【いえ、真逆です。シュレア様に教えていただいた、メーフィユ侯爵令嬢とやらが居ます。とても愛し合っている2人に見えますね。】
【……そう。】
【それで、どのタイミングが良いかと思いまして。】
【……一番熱々な時にしてほしいわ。】
【熱々……ですか?】
【ええ。2人がとても楽しそうな時ね。】
【承知しました。では後ほど。】
まさかメーフィユ侯爵令嬢が来ているとは…。
ヴィレルがわざわざ訊くほど、本当にあっつ熱なのでしょうね。
……うざい…。
おっと…つい本音が出てしまいましたね……。
証拠収集が終われば、お父様に全てをぶつけます。
そして公爵家を出て、自由に暮らすのです!
クロやヴィレルが居てくれれば、寂しい思いなどしません。
一度『影獣』を発動すると再召喚に魔力は必要ないのです。
もちろん出現している時間も魔力は要りません。
その辺りは嬉しい誤算でしたね。
コン コンッ
「ザーディヌ殿下、又はシュレア様はいらっしゃいますか?」
「どうぞ中に入って。」
「失礼致します。」
私が許可し、入ってきたのは追加の確認書類を持って来た使いの方でした。
いつも同じ方で、殿下が居られないと知っているのです。
だから私の名も呼ぶようにされています。
「……今日もお一人なのですね…。」
「ええ。ですがもうすぐこの生活ともおさらばですよ。」
「そうなのですか?」
「これ以上は我慢出来ませんし…。」
「では、如何なされるのですか?」
「それは秘密ですが、貴方にも会えなくなりますね。」
「えぇっ!?では……その………。」
「……追加の確認書類、確かに受け取りました。ご苦労様です。早速取り掛かりますね。」
「は、はい…!」
少し強引かもしれませんが、彼が何かを訊いてくる前にこの部屋から出ていっていただきました。
「婚約破棄をするから」などとは言えません。
もし言ってしまい、今のうちに広められると困ります。
公爵家の評判が落ちてしまいかねないからです。
国王陛下にも迷惑はかけられないので、殿下との婚約破棄のために使う証拠は慎重に扱わねばなりません。
「シュレア様。只今戻りました。」
「早かったわね、ヴィレル。ご苦労様。」
「ありがたきお言葉です。こちらをどうぞ。」
そう言って渡してきたのは音声を録音する魔道具と、撮影魔道具と呼ばれる目の前の光景を紙のようなものに写す、とても便利な2つの魔道具です。
貴族であれば、誰でも手に入るような値段で売られています。
商人以外の平民の年収……くらいでしょうか…。
そう思うと高いのですね……。
「完璧ね。私の方も済んでいるけれど、たったの1日だけでは証拠と呼べないと言われてしまうでしょう。1週間……つまりは残り6日間は収集を続け、より確実なものとする方が良いわ。」
「おっしゃる通りですね。では私は今日と同じように動きます。」
「ええ。頼んだわよ。」
このまま泳がせておきましょう--
現れたのは、人型の『影獣』です。
イメージ次第でいけるかもしれないと思い、試したところ本当に出来てしまいました。
それもクロの姿とは違い、人間によく似ています。
肌の色は少し黒めで、黒髪に紫の目を持つ『影獣』です。
執事のような服装をしています。
「見た目は完全に人間ね。」
イメージ通りの姿です。
年齢は20歳前半といったところでしょうか。
背も高く、何でも出来そうな雰囲気を放っています。
「あなたの名前は……『ヴィレル』。目の色が紫で、髪が黒。この2つの色を言い換えると、紫と黒になるの。その組み合わせね。」
我ながらかっこいい名前ではないでしょうか。
クロは単純な付け方なのに、ですか?
可愛いからクロはクロで良いのです。
「我が主よ。頂いた『ヴィレル』という名に恥じぬ働きを、お約束いたします。」
「……あなたは普通に話せるのね…。」
「…?はい。私は『影獣』ですが、我が主によってこの姿に創造されましたので。」
「そう…。あと、私のことはシュレアと読んでほしいわ。主では何だか……恥ずかしいからね…。」
【承知しました。ではシュレア様と。】
「私もクロ殿と同様、シュレア様と呼ばせていただきますね。」
「ええ。そうして頂戴。」
その後、私の命令によりクロは私の影で護衛として待機、ヴィレルは証拠収集の為に魔道具を持たせて送り出しました。
ヴィレルが向かった先はもちろんザーディヌ殿下の自室です。
不法侵入?…ではありませんよ……ええ、違います…。
『影獣』はその場に居たという証拠は残りませんし、私の影響を受けているので魔力の残滓すら残しません。
『影獣』魔法が上位貴族のみに知らされた理由は、私がしたように情報収集に利用されるという危険性があるからでしょう。
そう思うと、確かに便利で強力な魔法です。
影がある場所になら、どこにでも行けるそうですから。
ただし私が行ったことのある場所、という制限があります。
このようなところも、発動者の影響を受けるのですね…。
【シュレア様。】
「…!慣れないわね…。【どうかしたのかしら?】」
急にヴィレルの声が頭の中に響きました。
『念話』……と呼んで良いものか分かりませんが、クロのようにヴィレルも使えたようです。
私も彼らのおかげで使えるようになりました。
思ったことがそのまま相手に伝わるので、気を付けなければなりませんが…。
【今ザーディヌ…殿下?の自室に居るのですが、音声を魔道具に録音し、別の魔道具にて撮影を行う。私が行うのはこの2つですね?】
【そうよ。問題でも起きた?】
【いえ、真逆です。シュレア様に教えていただいた、メーフィユ侯爵令嬢とやらが居ます。とても愛し合っている2人に見えますね。】
【……そう。】
【それで、どのタイミングが良いかと思いまして。】
【……一番熱々な時にしてほしいわ。】
【熱々……ですか?】
【ええ。2人がとても楽しそうな時ね。】
【承知しました。では後ほど。】
まさかメーフィユ侯爵令嬢が来ているとは…。
ヴィレルがわざわざ訊くほど、本当にあっつ熱なのでしょうね。
……うざい…。
おっと…つい本音が出てしまいましたね……。
証拠収集が終われば、お父様に全てをぶつけます。
そして公爵家を出て、自由に暮らすのです!
クロやヴィレルが居てくれれば、寂しい思いなどしません。
一度『影獣』を発動すると再召喚に魔力は必要ないのです。
もちろん出現している時間も魔力は要りません。
その辺りは嬉しい誤算でしたね。
コン コンッ
「ザーディヌ殿下、又はシュレア様はいらっしゃいますか?」
「どうぞ中に入って。」
「失礼致します。」
私が許可し、入ってきたのは追加の確認書類を持って来た使いの方でした。
いつも同じ方で、殿下が居られないと知っているのです。
だから私の名も呼ぶようにされています。
「……今日もお一人なのですね…。」
「ええ。ですがもうすぐこの生活ともおさらばですよ。」
「そうなのですか?」
「これ以上は我慢出来ませんし…。」
「では、如何なされるのですか?」
「それは秘密ですが、貴方にも会えなくなりますね。」
「えぇっ!?では……その………。」
「……追加の確認書類、確かに受け取りました。ご苦労様です。早速取り掛かりますね。」
「は、はい…!」
少し強引かもしれませんが、彼が何かを訊いてくる前にこの部屋から出ていっていただきました。
「婚約破棄をするから」などとは言えません。
もし言ってしまい、今のうちに広められると困ります。
公爵家の評判が落ちてしまいかねないからです。
国王陛下にも迷惑はかけられないので、殿下との婚約破棄のために使う証拠は慎重に扱わねばなりません。
「シュレア様。只今戻りました。」
「早かったわね、ヴィレル。ご苦労様。」
「ありがたきお言葉です。こちらをどうぞ。」
そう言って渡してきたのは音声を録音する魔道具と、撮影魔道具と呼ばれる目の前の光景を紙のようなものに写す、とても便利な2つの魔道具です。
貴族であれば、誰でも手に入るような値段で売られています。
商人以外の平民の年収……くらいでしょうか…。
そう思うと高いのですね……。
「完璧ね。私の方も済んでいるけれど、たったの1日だけでは証拠と呼べないと言われてしまうでしょう。1週間……つまりは残り6日間は収集を続け、より確実なものとする方が良いわ。」
「おっしゃる通りですね。では私は今日と同じように動きます。」
「ええ。頼んだわよ。」
このまま泳がせておきましょう--
27
あなたにおすすめの小説
【短編】男爵令嬢のマネをして「で〜んかっ♡」と侯爵令嬢が婚約者の王子に呼びかけた結果
あまぞらりゅう
恋愛
「で〜んかっ♡」
シャルロッテ侯爵令嬢は婚約者であるエドゥアルト王子をローゼ男爵令嬢に奪われてしまった。
下位貴族に無様に敗北した惨めな彼女が起死回生を賭けて起こした行動は……?
★他サイト様にも投稿しています!
★2022.8.9小説家になろう様にて日間総合1位を頂きました! ありがとうございます!!
『胸の大きさで婚約破棄する王太子を捨てたら、国の方が先に詰みました』
鷹 綾
恋愛
「女性の胸には愛と希望が詰まっている。大きい方がいいに決まっている」
――そう公言し、婚約者であるマルティナを堂々と切り捨てた王太子オスカー。
理由はただ一つ。「理想の女性像に合わない」から。
あまりにも愚かで、あまりにも軽薄。
マルティナは怒りも泣きもせず、静かに身を引くことを選ぶ。
「国内の人間を、これ以上巻き込むべきではありません」
それは諫言であり、同時に――予告だった。
彼女が去った王都では、次第に“判断できる人間”が消えていく。
調整役を失い、声の大きな者に振り回され、国政は静かに、しかし確実に崩壊へ向かっていった。
一方、王都を離れたマルティナは、名も肩書きも出さず、
「誰かに依存しない仕組み」を築き始める。
戻らない。
復縁しない。
選ばれなかった人生を、自分で選び直すために。
これは、
愚かな王太子が壊した国と、
“何も壊さずに離れた令嬢”の物語。
静かで冷静な、痛快ざまぁ×知性派ヒロイン譚。
婚約破棄は踊り続ける
お好み焼き
恋愛
聖女が現れたことによりルベデルカ公爵令嬢はルーベルバッハ王太子殿下との婚約を白紙にされた。だがその半年後、ルーベルバッハが訪れてきてこう言った。
「聖女は王太子妃じゃなく神の花嫁となる道を選んだよ。頼むから結婚しておくれよ」
とある令嬢の優雅な別れ方 〜婚約破棄されたので、笑顔で地獄へお送りいたします〜
入多麗夜
恋愛
【完結まで執筆済!】
社交界を賑わせた婚約披露の茶会。
令嬢セリーヌ・リュミエールは、婚約者から突きつけられる。
「真実の愛を見つけたんだ」
それは、信じた誠実も、築いてきた未来も踏みにじる裏切りだった。だが、彼女は微笑んだ。
愛よりも冷たく、そして美しく。
笑顔で地獄へお送りいたします――
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
婚約破棄ですか。ゲームみたいに上手くはいきませんよ?
ゆるり
恋愛
公爵令嬢スカーレットは婚約者を紹介された時に前世を思い出した。そして、この世界が前世での乙女ゲームの世界に似ていることに気付く。シナリオなんて気にせず生きていくことを決めたが、学園にヒロイン気取りの少女が入学してきたことで、スカーレットの運命が変わっていく。全6話予定
美形の伯爵家跡取りが婚約者の男爵令嬢に破棄返しを食らう話
うめまつ
恋愛
君が好みに合わせないからだよ。だから僕は悪くないよね?
婚約解消したいと伝えた。だってこんな地味で格下の相手は嫌だ。将来有望な伯爵家の跡取りで見た目だって女性にモテるんだから。つれて回るのに恥ずかしい女なんて冗談じゃない。せめてかしずいて気分良くしてくれるなら我慢できるのにそんなことも出来ないバカ女。だから彼女の手紙はいつも見ずに捨ててた。大したこと書いてないから別にいいよね。僕が結婚したいんじゃないんだし。望んだのはそっちだよね。言うこと聞かないと婚約解消しちゃうよ?
※スカッとはしないかなぁ。性格クズは死ぬ間際もクズかな……(読み返してこういう感想でした)
※だらだら番外編書いてます。
※番外編はちょっとじれじれと可愛いイチャイチャ雰囲気にまとまりました。
愛しておりますわ、“婚約者”様[完]
ラララキヲ
恋愛
「リゼオン様、愛しておりますわ」
それはマリーナの口癖だった。
伯爵令嬢マリーナは婚約者である侯爵令息のリゼオンにいつも愛の言葉を伝える。
しかしリゼオンは伯爵家へと婿入りする事に最初から不満だった。だからマリーナなんかを愛していない。
リゼオンは学園で出会ったカレナ男爵令嬢と恋仲になり、自分に心酔しているマリーナを婚約破棄で脅してカレナを第2夫人として認めさせようと考えつく。
しかしその企みは婚約破棄をあっさりと受け入れたマリーナによって失敗に終わった。
焦ったリゼオンはマリーナに「俺を愛していると言っていただろう!?」と詰め寄るが……
◇テンプレ婚約破棄モノ。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる