【完結】さっさと婚約破棄してくださいませんか?

凛 伊緒

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第11話 ザーディヌ視点

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私はザーディヌ・フィー・ガーナス。
この国ガーナス王国の第2王子である。
7歳の頃に、同い年のシュレア・セルエリット公爵令嬢と婚約を結んだ。
長い白銀の髪に翡翠色の瞳を持つ彼女は、とても美しかった。

学園に入ってからは、彼女の凄さを理解することになる。
週2回、私に勉強を教えてくれることになった。
別に苦手というわけではなかったが、彼女に教えてもらうとよく理解出来たのだ。
そして1つ頼み事をしてみた。


「シア。少し頼みがある。」

「何でしょう?」

「テストの対策ノートのようなものは作ってもらえないか?」

「出来ますよ。ですが殿下は十分点が取れると思いますが…。」

「より確実なものにしたくてな。」

「分かりました。後日渡しますね。」

「ありがとう。」


1回目はどの程度の対策か分からず、真面目に勉強した。
そして渡された対策ノートからも勉強し、本番となる。
ほとんどがシュレアの対策ノートと同じような問題だった。
彼女に訊くと、過去の問題から出題傾向を読み解き、書いたと言う。
次からは毎回頼めないかと言うと、快く引き受けてくれた。
これで対策ノートにて勉強するだけで点数が取れる、そう思った。
つまりは楽が出来るのだ。

2年目の途中から、彼女は自分が利用されているだけだと気付いた様子。
分かっていてノートを作ってくれたのだ。
私が好きだから、王族として低い点数を取ってはいけないから。
そんな理由できっと尽くしてくれているのだろう。
満点や満点に近い点数を取り続ける私の評価は、学園だけでなく王城内でも高かった。

そして学園を卒業し、王族としての仕事を任せられるようになった。
私だって遊びたいものだ。
仕事ばかりしては、自分が腐ってしまう。


「すまないシュレア。この後用があってな。残りを頼めるか?」

「分かりました。しかしご用事とは一体…?」

「シュレア。」

「……申し訳ありません。どうぞ行ってらっしゃいませ。」

「ああ。」


という嘘を言い残し、こっそりと城下へ向かった。
美しい女性を見つけて声をかけると、王城の自室まで誘った。
大抵は応じてくれたので、夕方までは一緒に居ることが多かった。
その後も城下だけでなく、お茶会などで知り合った貴族令嬢などを、秘密裏に誘う様なことをしている。
3ヶ月程で違う令嬢などを呼んでいた。

目撃しているであろう兵士達には、令嬢達が私の部屋に入って行くことが広まらないよう、固く口止めしている。
いつも何も訊かずに仕事をしてくれているシュレアが、突然何をしているのかと聞いてきた。
その時になって、仕事を任せはじめた時からもう1年が経っているのだと気付いた。
シュレアの疑問は尤もだ。
しかしこの生活が楽しいと思っていた私は、嘘を重ねた。

父上からの密命を受けている……と。

そんな嘘が直ぐにバレることはわかっていた。
シュレアの父、セルエリット公は父上と幼なじみだ。
彼女が父に訊けば、必ず嘘だと分かるだろう。
納得するような嘘を考えなければ……、そう思っていた頃、想定外のことが起きた。
シュレア本人が、私の部屋を訪ねてきたのだ。
居留守をしようとしたが、彼女は私の返事なしに扉を開けた。


「いきなり入ってくるとは、婚約者といえど無礼だと思わないのか!」

「私は扉の前で呼びかけました。しかし殿下の反応がなかったので、確認の為に入ったのです。いらっしゃるのなら、応答してくだされば良いではありませんか。」

「居ないと思ったのであれば、戻れば良かろう!」

「殿下の身に何かあれば大変です。確認するのは貴族であれば当然の行いだと存じますが?」


彼女の言葉は間違っていない。
王族に何かあれば、国家の問題となる。
だからシュレアの行動は貴族として正しいのだ。


「それで殿下。この状況は一体どういうことですか?」

「か、彼女とは先日の茶会で知り合ったのだ…。友人として、王城に招待した。」

「なるほど。では他の日は何をされていたのですか?」

「他の日…?」

「ほぼ毎日のように、自室に戻られていたではありませんか。近くを警備している兵士達から聞きましたよ。部屋に入られるところを見た…と。」

「っ……。」


盲点だった。
兵士達に口止めはしているが、私自身のことまでは何も言っていない。
「部屋に入っていくところを見た」と言われても仕方がないのだ。
その後、シュレアは私の制止を無視して退室して行った。

しかし私には疑問がある。
何故王族である私に、公爵家の令嬢が小言を言ってくるのか……と。
婚約者がいると言えど、この国は一夫多妻制。
愛人を作ることの何がいけない?

ああ、そう言えば……結婚する前に愛人などを作ってはいけないという決まりがあった。
確か理由が…『愛が深まる前に他の女性と付き合えば、正妻が蔑ろになってしまうから』というものだったはずだ。
だがそんなことはどうでもいいだろう。
私は王族。
上からものを言えるのは父である国王陛下か母上、そして第1王子の兄上くらいなのだ。
つまりはこの3人に知られない限り、私は何をしても叱られない立場であるということ。

だが3年が経ったある日、私はシュレアを自室へと呼んだ。
仕事が終わり次第来てほしいと。
この仕事の場で言えばまた何か言われる。
そうなることは面倒だと思った私は、誰かといる時に頼むのが1番と考えたのだ。
しかしこれが間違いだった…。
何に怒ったのかよく分からないが、2時間後に仕事を行っている部屋にて待つと言われた。

2時間後に向かうと、話の内容は驚くべきものだった。


「……ザーディヌ殿下、婚約を破棄しましょう。」


婚約の破棄など、考えたこともなかった。
とはいえ、絶対に婚約破棄など出来るはずがない。
父上とセルエリット公が決めた婚約なのだから。
しかし、10日も経たない内に、父上から呼び出しがあった。


「よく来たな、ザーディヌ。何の話か分かっているか?」

「い、いえ…。」

「この3年間、自分の仕事を全て婚約者のシュレアに任せていたそうだな。」

「……。」

「何を考えている!彼女はもう我慢ならないと言い、婚約破棄を願い出たんだぞ!」

「そ、それは…」

「言い訳をするな。彼女は証拠を見せてきた。お前が言い逃れ出来ないほど、正確な証拠をな。」

「なっ…!?」

「シュレアほど優秀な貴族令嬢は見たことがない。同い年だからとお前との婚約を結んでもらったが……まさかお前がここまで馬鹿なことをするとは思わなかった。」


彼女の婚約を破棄したいという意思は本気だった。
まさか父上に全て言うとは……。


「3日間の猶予をもらっている。行動をもって、シュレアを思いとどまらせろ。分かったな?」

「……分かりました。」


とりあえず、仕事を真面目にすれば何も言われないはずだ。
仕事さえしていれば……。
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