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婚約解消の報告と母の怒り side J
しおりを挟むミーナ嬢と別れ屋敷に帰ると両親が揃っていた。丁度よかったのでノーステリア伯爵令嬢に婚約解消の申し出をしたことを報告する。
父は短く「そうか」と言ったけど、母は何も言わず鼻で笑った。そう言えば母は婚約せずに付き合うように言っていた。
少し重く感じる空気に居た堪れなくなっていると、部屋に執事が入ってきた。ノーステリア伯爵家から使者が来たそうだ。早いね……。
父は無言で立ち上がり、部屋から出ていった。
残された母が口を開いた。
「婚約解消って、まさか次がいるのかしら?」
母はおそらくロブに聞いてミーナ嬢のことを知っているのだろう。
「次という訳では……」
此れ見よがしに溜め息を吐く。
「はぁ…………。まったく、乗り換えた先の方が質が落ちるって救えないわね」
質が落ちるって……。どうせ母はどんな女性を連れてきても文句を言うんだ。
「……前の婚約者のことは、地味だと言っていたではありませんか」
「確かに地味だけど所作は綺麗だし、素材も良かったじゃない。磨けばいいのよ。貴方もそこが気に入ってたんでしょう?王宮事務官になれるほど努力家だし。しかも最近では高位貴族にも気に入られてるそうじゃない。……あの男に取り入るのが上手いだけの娘なら、前の娘の方が比べるまでもなくよかったわ。本当に貴方とは趣味が合わないわね」
「なっ……!彼女は可愛らしく華やかですし、多くの人を魅了します!現に多くの高位貴族の子息達が彼女を求めてますし、第三王子も……!」
母が美しい顔を歪ませて笑う。
「魅了ね……。耳障りよく言ってるけど、あの娘は男性限定。しかも引っ掛かるのは経験の乏しい子供ぐらいよ。何より期限付きじゃないの。若さを失うまでに新たな魅力を身につけられるといいけれど、余程意識を変えない限りあの娘がそんな努力をするとは思えないわ」
「そんなことはっ」
「男性にはとっても好かれるのに、女性には徹底的に嫌われてるそうじゃない。嫁として迎えたりしたら、女性向けの事業に悪影響がでるわ。あの娘を着飾らせる元になるなら、ウチの店を使いたくないってお客様も少なからずいるでしょうね」
「それは、彼女に嫉妬して……」
僕の言葉にそれまで嘲笑を浮かべていた母が突然怒りの表情を見せた。
「嫉妬?貴方、女性を馬鹿にしてるの?婚約者や恋人がいようが構いもせず、見目の良い高位貴族や金持ちに狙い澄まして擦り寄ってく下品な娘に、嫉妬するですって?」
僕は言葉を返せない。母の怒りは続く。
「巫山戯たこと言わないで!私は!この見た目でずっと嫉妬の目に晒されてきたけど、あの娘のようなことになったりしなかったわ!」
言い終えると部屋の中に静けさが落ちる。少しして母は今日何度目かわからない深いため息を吐いたあと、落ち着いた声で話しだした。
「貴方、あの娘が大した見た目でない下位貴族の男に優しくしてるのを見たことある?」
「…………」
反論しようとしたけど思い出せない。ミーナ嬢は見かける度に、第三王子達に囲まれていたから。
「学園の女性達は純粋に、下品で見苦しくて、益の全くない害虫を視界に入れたくないと望んでいるだけだわ。……よく考えてみることね」
美しく微笑んで母が部屋を出ていき、僕はひとり残された。
彼女との婚約はその日のうちに正式に解消された。
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