【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた

文字の大きさ
55 / 58

【最終話】初恋は終わりました。 side A

しおりを挟む

 室長改めカイル様の求婚を受け入れると、両親が王都に飛んできた。カイル様と会った両親は「あの方なら安心だわ」と、あからさまな歓迎ムードだ。もしかしたら今までとても心配をかけてたのかな……。

 同僚のセスさんとアントンさんにも報告した。セスさんに「職場ではいちゃつかないでくださいね」と爽やかに言われた。そんなことしてないもの……。職場では変わらず『室長』ってちゃんと呼んでるし。



 そして今日、カイル様と初めて一緒にパーティーに参加する。伯爵位以上を集めた王室主催のものだ。
 初めて贈っていただいたドレスは、エメラルドグリーンに白銀の刺繍が施されたプリンセスラインでとても上品な印象だ。ふたりの色を意識しているみたいで何だか照れてしまう。
 支度を手伝ってくれたマリが「お似合いです」とにっこり笑った。……マリから似合うって、久しぶりに言われた気がするわ。

 エントラスに向かうと、すでに迎えに来てくれてたカイル様が両親と話していた。白銀の刺繍の入ったタキシード姿のカイル様が、私に気づいて優しく微笑む。
 ……婚約してからちょっとした仕草に色気を感じるのよね。職場では変わらないから余計、ふたりになると緊張してしまう。

 そんな私の手を優しくとって、カイル様はニヤリと笑った。

「緊張してるのか?」

「……してません」

 私達のやり取りを生暖かい目で見守っていた両親に見送られて、一足先に王宮に向かった。


 会場に入るとすぐに学園からの友人達に会えた。その中にはメリッサ様に引きずられてきたエイデンもいる。カイル様と丁寧な挨拶をしたあとは、みんな変わらずに接してくれた。

 婚約解消したばかりなので批難されることも少し覚悟していたけど、意外にも男爵子息が『ピンク』様に傾倒してたことは知れ渡っていたみたいで周囲の目は優しい。

「私、お茶会でたくさんお友達に『相談』しましたもの」

「わたくしも」

 友人達も協力してくれていたとを知った。私を思ってくれたことが嬉しい。男爵子息とも友人だったけど、『ピンク』様に簡単に靡いてしまった時点で、女性達の評価は底辺に落ちてしまったみたい。

「学園の頃はあんなに一途でいらしたのに……」

「そんなこと、」

 思わず漏らしてしまった友人の言葉を他の友人達がそっと諌める。私は自嘲気味に微笑んだ。

「確かに学園の頃、ずっと私に好意を示してくださったですけど……。あの方から贈られてくるものはどれも私には可愛らしいものだったので……。今思えば、もともと私はあの方のお好みではなかったのかもしれません」

 私の言葉に眉を顰めた友人達があらためて私の姿を眺めてからにっこりと微笑んだ。

「今日のドレスはとってもお似合いですわ」

「ありがとうございます」

 私も微笑む。カイル様の選んでくれたドレスは華やかだけど何故かほっとする。褒めてもらえると嬉しい。

 エイデンが眉間のシワを深くして突然話しだした。

「確かに一途だったかもしれないが、ネオルト男爵子息は女性に優しかったからな。恋情を抱く令嬢も少なからずいただろう。私には、それに応えられないことを楽しんでいるように見えることもあったしな」

 いきなり毒を吐いてきた。
 友人たちもその言葉に合点がいったような顔をした。

 このあと聞いた話では、父である男爵も若い頃にいろいろあって、隣国から花嫁を招くことになったらしい。けどそれも事業拡大の糧にしたのだから実業家としては才能があるのだろう。もしかしたら、彼もそうなるのかも知れないわ。


 そんなことを考えてると会場に王族の方々が入ってこられた。記憶より少し背の伸びた第三王子殿下の隣には公爵令嬢が悠然と微笑んでいらっしゃる。

「『ピンク』様のところには行かなかったのね……」

 私が思わず呟くと、近くにいたエイデンがこちらを見ずに返してきた。

「婿入り先があれでは下手したら平民だからな。現実を見ればそうなるだろ。……それに公爵令嬢が第三王子を躾けるために本気を出したらしい」

「本気……」

 何だろう。第三王子の首に見えないはずの首輪が見える。

 と言うことは『ピンク』様はネオルト男爵子息を選んだのかしら。どちらでも構わないけど、こういうのはもうお仕舞いにしてほしいわ。きっとネオルト男爵子息なら……、


「いつまで他の男のことを考えてるんだ?」


 突然腰を引かれ、耳元でカイル様の声がした。思考が一瞬で霧散する。

 振り返ると思ったより近い距離で深緑の瞳が私を見下ろしていた。何やら色気まで出てる。友人達の小さな悲鳴が聞こえた。

「歓談中申し訳ないが、そろそろ婚約者とのファーストダンスを楽しんできてもよろしいだろうか」

 カイル様は友人達に上品な笑顔で言ったあと、私の手をとってホールの中央に向かい歩きだした。耳の後ろが熱い。

 ……カイル様の前でする話ではなかったわよね。無神経だったわ。

 向き直り私の腰に手を添えながらニヤリと笑った。

「私に対して小さいことは気にするな。言っただろう?『そのままでいい』と」

 ダンスが始まる。

「そんなこと言って、本当にありのままに振る舞ったら驚いてしまっても知りませんよ」

 少しだけ睨むと楽しそうに笑った。む、可愛い……。

「どんなのか想像がつく気もするが……、想像を超えてくることを期待してる」

 また大人の余裕だ。少し面白くない気持ちになりながらも、私はエメラルドグリーンのドレスを翻してくるくると踊る。カイル様のエスコートは安心するけどやっぱり落ち着かない。

 私はカイル様に恋をし始めているのだと思う。

 それは彼に向けていた想いとはまるで違っていて、もしかしてあれは恋ではなかったのかとすら思えてくる。けど間違いなく私はあの頃、一所懸命に彼を想っていた。拙かったけど初恋だったのだ。

 カイル様の顔をそっと見上げると、踊ってる途中なのに額に軽くキスをされた。

「余計なことを考えてるからだ」

 顔を赤くした私に少し意地悪に微笑む。……私だって負けてられない。

「後できちんとしたやり直しを要求します」

 まっすぐに見て言うとカイル様がきょとんとした顔をした。ふふ。初めて見る顔だわ。私は機嫌よくふわりと回る。

 ――幸せになろう。幸せにしよう。

 私は密かな誓いを胸にカイル様の目を見つめて微笑んだ。





 初恋は終わりました。




 ◇ ◇ ◇

 最後までお読みいただき本当にありがとうございました。
 兄視点と彼視点を追加してこの話は完結とする予定です。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

「義妹に譲れ」と言われたので、公爵家で幸せになります

恋せよ恋
恋愛
「しっかり者の姉なら、婚約者を妹に譲ってあげなさい」 「そうだよ、バネッサ。君なら、わかるだろう」 十五歳の冬。父と婚約者パトリックから放たれた無慈悲な言葉。 再婚相手の連れ子・ナタリアの図々しさに耐えてきたバネッサは、 その瞬間に決意した。 「ええ、喜んで差し上げますわ」 将来性のない男も、私を軽んじる家族も、もういらない。 跡継ぎの重責から解放されたバネッサは、その類まれなる知性を見込まれ、 王国の重鎮・ヴィンセント公爵家へ嫁ぐことに。 「私は、私を一番に愛してくれる場所で幸せになります!」 聡明すぎる令嬢による、自立と逆転のハッピーエンド。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

夫に相手にされない侯爵夫人ですが、記憶を失ったので人生やり直します。

MIRICO
恋愛
第二章【記憶を失った侯爵夫人ですが、夫と人生やり直します。】完結です。 記憶を失った私は侯爵夫人だった。しかし、旦那様とは不仲でほとんど話すこともなく、パーティに連れて行かれたのは結婚して数回ほど。それを聞いても何も思い出せないので、とりあえず記憶を失ったことは旦那様に内緒にしておいた。 旦那様は美形で凛とした顔の見目の良い方。けれどお城に泊まってばかりで、お屋敷にいてもほとんど顔を合わせない。いいんですよ、その間私は自由にできますから。 屋敷の生活は楽しく旦那様がいなくても何の問題もなかったけれど、ある日突然パーティに同伴することに。 旦那様が「わたし」をどう思っているのか、記憶を失った私にはどうでもいい。けれど、旦那様のお相手たちがやけに私に噛み付いてくる。 記憶がないのだから、私は旦那様のことはどうでもいいのよ? それなのに、旦那様までもが私にかまってくる。旦那様は一体何がしたいのかしら…? 小説家になろう様に掲載済みです。

婚約破棄に乗り換え、上等です。私は名前を変えて隣国へ行きますね

ルーシャオ
恋愛
アンカーソン伯爵家令嬢メリッサはテイト公爵家後継のヒューバートから婚約破棄を言い渡される。幼い頃妹ライラをかばってできたあざを指して「失せろ、その顔が治ってから出直してこい」と言い放たれ、挙句にはヒューバートはライラと婚約することに。 失意のメリッサは王立寄宿学校の教師マギニスの言葉に支えられ、一人で生きていくことを決断。エミーと名前を変え、隣国アスタニア帝国に渡って書籍商になる。するとあるとき、ジーベルン子爵アレクシスと出会う。ひょんなことでアレクシスに顔のあざを見られ——。

幼馴染に振られたので薬学魔法士目指す

MIRICO
恋愛
オレリアは幼馴染に失恋したのを機に、薬学魔法士になるため、都の学院に通うことにした。 卒院の単位取得のために王宮の薬学研究所で働くことになったが、幼馴染が騎士として働いていた。しかも、幼馴染の恋人も侍女として王宮にいる。 二人が一緒にいるのを見るのはつらい。しかし、幼馴染はオレリアをやたら構ってくる。そのせいか、恋人同士を邪魔する嫌な女と噂された。その上、オレリアが案内した植物園で、相手の子が怪我をしてしまい、殺そうとしたまで言われてしまう。 私は何もしていないのに。 そんなオレリアを助けてくれたのは、ボサボサ頭と髭面の、薬学研究所の局長。実は王の甥で、第二継承権を持った、美丈夫で、女性たちから大人気と言われる人だった。 ブックマーク・いいね・ご感想等、ありがとうございます。 お返事ネタバレになりそうなので、申し訳ありませんが控えさせていただきます。 ちゃんと読んでおります。ありがとうございます。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

ヴェルセット公爵家令嬢クラリッサはどこへ消えた?

ルーシャオ
恋愛
完璧な令嬢であれとヴェルセット公爵家令嬢クラリッサは期待を一身に受けて育ったが、婚約相手のイアムス王国デルバート王子はそんなクラリッサを嫌っていた。挙げ句の果てに、隣国の皇女を巻き込んで婚約破棄事件まで起こしてしまう。長年の王子からの嫌がらせに、ついにクラリッサは心が折れて行方不明に——そして約十二年後、王城の古井戸でその白骨遺体が発見されたのだった。 一方、隣国の法医学者エルネスト・クロードはロロベスキ侯爵夫人ことマダム・マーガリーの要請でイアムス王国にやってきて、白骨死体のスケッチを見てクラリッサではないと看破する。クラリッサは行方不明になって、どこへ消えた? 今はどこにいる? 本当に死んだのか? イアムス王国の人々が彼女を惜しみ、探そうとしている中、クロードは情報収集を進めていくうちに重要参考人たちと話をして——?

処理中です...