214 / 361
月の砂漠のかぐや姫 第212話
しおりを挟む
とは言え、この地下に広がる大空間は普通の洞窟とは全く違っていました。普通の洞窟であれば入り口から歩いて奥まで入っていき、外に出るには来た道を戻って行けば良いのですが、彼らがここに辿り着いたのは川を流された結果でした。しかも、その流される途中では滝のようなところを落下もしているのです。とても来た道を戻ることなどできません。では、反対に先に進めばどうかといっても、この大空間からさらに奥へと伸びている洞窟が外につながっている保証などありません。洞窟は行き止まりになっていて、ここから流れ出した川の水は再び地中に飲み込まれているのかもしれないのです。
羽磋が置かれている状況は、いくら意志の強い少年であっても、周囲から押し寄せてくるような岩壁の重圧に負けて、その心がぽきっと折れてしまっても全く不思議ではないものでした。でも、彼が自分の思いを保ち続けることができているのは、意識を取り戻す前に聴いた輝夜姫の声から、大きな力をもらっていたからでした。
「輝夜、俺はこんなところで終わらないからな。輝夜を連れて世界を見て回る約束、きっと果たすからな」
羽磋は胸の中で輝夜姫の姿を思い描き、自分の決意を改めて伝えていました。そうすることで、自分の心の中の暗い部分から「こっちを見ろ」と誘いをかけてくる不安や恐れに、捕まらないでいられるのでした。
「俺にとって輝夜が支えになっているように、王柔殿にとっては理亜が支えになっているんだろうなぁ」
羽磋は仲良く寄り添って眠っている王柔と理亜を、優しい眼差しで眺めました。彼らとはそれほど長い付き合いではありませんが、羽磋にも王柔がどれほど理亜のことを心配しているかはよく判っていました。少し話しただけで怖がりな性格をしていることが羽磋にもわかった王柔のことですから、不思議なことがいろいろと起きているヤルダンの案内など、本当は引き受けたくなかったのではないでしょうか。それでも、彼がそれを引き受けてくれたのは、ヤルダンで起きている出来事を調べることが、理亜の身体に起きている不思議なことの解決に結びつくのではないかと思ったに違いありません。彼は、理亜の為に、自分の「怖い」という気持ちを克服してくれたのでした。
「ん、あれ・・・・・・。なにか・・・・・・」
考え事を巡らしている羽磋の心に、何かが引っかかりました。よく考えてみると、その引っかかりは、あまりに目まぐるしく変化する状況の中で、何度か感じたことがあるような気がしました。
「なんだろう。なにか・・・・・・。忘れているような・・・・・・」
何度も首をひねりながら、羽磋は最近の出来事を順番に思い出していきました。何かが引っかかったんだ。何度も。ただ、それが何だったか・・・・・・。
このようなもう少しでわかりそうなのにわからないことは、気になりだすと止まりません。特にこのような変化のないところでは、なおさらです。
羽磋は横になっている二人の周りをグルグルと歩き回りながら、そのことについて考え続けました。
それから僅かな時間が経った時のこと。理亜がくるんと寝返りを打ち、ちいさな掌を地面の上に広げました。考え事に集中しながら歩いていた羽磋は、自分がどこを歩いているのかにはまったく注意を向けていなかったので、もう少しでその掌を踏みつけてしまうところでした。
「あっ、危ない危ない。理亜の手を踏んでしまうところだった。気を付けないと」
羽磋は慌てて二人のそばから離れると、自分の内側に向いていた意識を、現実の世界に向け直しました。
集中して針の先のように細くなっていた羽磋の意識がふわっと緩められたその瞬間、彼は自分が何に引っかかっているかに気が付きました。
「ああっ、理亜が消えていないぞっ。外はもう夜なんじゃないのか?」
驚きのあまり、周囲の壁に反響するような大きな声が、彼の口から飛び出ました。
そうです。羽磋の目の前で、理亜は王柔に引っ付くようにして眠っています。彼女の小さな寝顔は王柔の面長な寝顔の横に並んでいます。でも、理亜は夜になれば消えてしまうのではなかったでしょうか。どうして、理亜の姿は今もここにあるのでしょうか。
「ここは地下に広がっている大空間だから、昼も夜もわからない。ひょっとしたら、外はまだ夜にはなっていないのかな」
羽磋はそうも考えてみましたが、大空間の奥の方を調べるためには、ずいぶんと歩かなくてはならず時間が掛かりました。仮に羽磋が意識を取り戻したのが朝の早い時間で、それからすぐに調査に歩き回っていたとしても、自分の感覚としては今はもう夜遅くになっているはずでした。
一つのおかしなことに思い当たると、芋づる式に別のおかしなことにも気が付くことがあります。
夜になっても理亜の身体が消えていないことに気が付いた羽磋も、その他にもおかしなことがあることに気が付いてました。
羽磋が置かれている状況は、いくら意志の強い少年であっても、周囲から押し寄せてくるような岩壁の重圧に負けて、その心がぽきっと折れてしまっても全く不思議ではないものでした。でも、彼が自分の思いを保ち続けることができているのは、意識を取り戻す前に聴いた輝夜姫の声から、大きな力をもらっていたからでした。
「輝夜、俺はこんなところで終わらないからな。輝夜を連れて世界を見て回る約束、きっと果たすからな」
羽磋は胸の中で輝夜姫の姿を思い描き、自分の決意を改めて伝えていました。そうすることで、自分の心の中の暗い部分から「こっちを見ろ」と誘いをかけてくる不安や恐れに、捕まらないでいられるのでした。
「俺にとって輝夜が支えになっているように、王柔殿にとっては理亜が支えになっているんだろうなぁ」
羽磋は仲良く寄り添って眠っている王柔と理亜を、優しい眼差しで眺めました。彼らとはそれほど長い付き合いではありませんが、羽磋にも王柔がどれほど理亜のことを心配しているかはよく判っていました。少し話しただけで怖がりな性格をしていることが羽磋にもわかった王柔のことですから、不思議なことがいろいろと起きているヤルダンの案内など、本当は引き受けたくなかったのではないでしょうか。それでも、彼がそれを引き受けてくれたのは、ヤルダンで起きている出来事を調べることが、理亜の身体に起きている不思議なことの解決に結びつくのではないかと思ったに違いありません。彼は、理亜の為に、自分の「怖い」という気持ちを克服してくれたのでした。
「ん、あれ・・・・・・。なにか・・・・・・」
考え事を巡らしている羽磋の心に、何かが引っかかりました。よく考えてみると、その引っかかりは、あまりに目まぐるしく変化する状況の中で、何度か感じたことがあるような気がしました。
「なんだろう。なにか・・・・・・。忘れているような・・・・・・」
何度も首をひねりながら、羽磋は最近の出来事を順番に思い出していきました。何かが引っかかったんだ。何度も。ただ、それが何だったか・・・・・・。
このようなもう少しでわかりそうなのにわからないことは、気になりだすと止まりません。特にこのような変化のないところでは、なおさらです。
羽磋は横になっている二人の周りをグルグルと歩き回りながら、そのことについて考え続けました。
それから僅かな時間が経った時のこと。理亜がくるんと寝返りを打ち、ちいさな掌を地面の上に広げました。考え事に集中しながら歩いていた羽磋は、自分がどこを歩いているのかにはまったく注意を向けていなかったので、もう少しでその掌を踏みつけてしまうところでした。
「あっ、危ない危ない。理亜の手を踏んでしまうところだった。気を付けないと」
羽磋は慌てて二人のそばから離れると、自分の内側に向いていた意識を、現実の世界に向け直しました。
集中して針の先のように細くなっていた羽磋の意識がふわっと緩められたその瞬間、彼は自分が何に引っかかっているかに気が付きました。
「ああっ、理亜が消えていないぞっ。外はもう夜なんじゃないのか?」
驚きのあまり、周囲の壁に反響するような大きな声が、彼の口から飛び出ました。
そうです。羽磋の目の前で、理亜は王柔に引っ付くようにして眠っています。彼女の小さな寝顔は王柔の面長な寝顔の横に並んでいます。でも、理亜は夜になれば消えてしまうのではなかったでしょうか。どうして、理亜の姿は今もここにあるのでしょうか。
「ここは地下に広がっている大空間だから、昼も夜もわからない。ひょっとしたら、外はまだ夜にはなっていないのかな」
羽磋はそうも考えてみましたが、大空間の奥の方を調べるためには、ずいぶんと歩かなくてはならず時間が掛かりました。仮に羽磋が意識を取り戻したのが朝の早い時間で、それからすぐに調査に歩き回っていたとしても、自分の感覚としては今はもう夜遅くになっているはずでした。
一つのおかしなことに思い当たると、芋づる式に別のおかしなことにも気が付くことがあります。
夜になっても理亜の身体が消えていないことに気が付いた羽磋も、その他にもおかしなことがあることに気が付いてました。
0
あなたにおすすめの小説
自由を愛する妖精姫と、番にすべてを捧げた竜人王子〜すれ違いと絆の先に、恋を知る〜
来栖れいな
ファンタジー
妖精女王と精霊王の間に生まれた特別な存在――セレスティア。
自由を愛し、気ままに生きる彼女のもとに現れたのは、竜人族の王子・サイファルト。
「お前は俺の番だ」
番という名の誓いにすべてを捧げた彼は、王族の地位も未来も捨てて森に現れた。
一方のセレスティアは、まだ“番”の意味すら知らない。
執着と守護。すれ違いと絆。
――これは、ひとりの妖精姫が“特別”に気づいていく物語。
甘さ控えめ、でも確かに溺愛。
異種族の距離を越えて紡がれる、成長と守護のファンタジー。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる