月の砂漠のかぐや姫

くにん

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月の砂漠のかぐや姫 第212話

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 とは言え、この地下に広がる大空間は普通の洞窟とは全く違っていました。普通の洞窟であれば入り口から歩いて奥まで入っていき、外に出るには来た道を戻って行けば良いのですが、彼らがここに辿り着いたのは川を流された結果でした。しかも、その流される途中では滝のようなところを落下もしているのです。とても来た道を戻ることなどできません。では、反対に先に進めばどうかといっても、この大空間からさらに奥へと伸びている洞窟が外につながっている保証などありません。洞窟は行き止まりになっていて、ここから流れ出した川の水は再び地中に飲み込まれているのかもしれないのです。
 羽磋が置かれている状況は、いくら意志の強い少年であっても、周囲から押し寄せてくるような岩壁の重圧に負けて、その心がぽきっと折れてしまっても全く不思議ではないものでした。でも、彼が自分の思いを保ち続けることができているのは、意識を取り戻す前に聴いた輝夜姫の声から、大きな力をもらっていたからでした。
「輝夜、俺はこんなところで終わらないからな。輝夜を連れて世界を見て回る約束、きっと果たすからな」
 羽磋は胸の中で輝夜姫の姿を思い描き、自分の決意を改めて伝えていました。そうすることで、自分の心の中の暗い部分から「こっちを見ろ」と誘いをかけてくる不安や恐れに、捕まらないでいられるのでした。
「俺にとって輝夜が支えになっているように、王柔殿にとっては理亜が支えになっているんだろうなぁ」
 羽磋は仲良く寄り添って眠っている王柔と理亜を、優しい眼差しで眺めました。彼らとはそれほど長い付き合いではありませんが、羽磋にも王柔がどれほど理亜のことを心配しているかはよく判っていました。少し話しただけで怖がりな性格をしていることが羽磋にもわかった王柔のことですから、不思議なことがいろいろと起きているヤルダンの案内など、本当は引き受けたくなかったのではないでしょうか。それでも、彼がそれを引き受けてくれたのは、ヤルダンで起きている出来事を調べることが、理亜の身体に起きている不思議なことの解決に結びつくのではないかと思ったに違いありません。彼は、理亜の為に、自分の「怖い」という気持ちを克服してくれたのでした。
「ん、あれ・・・・・・。なにか・・・・・・」
 考え事を巡らしている羽磋の心に、何かが引っかかりました。よく考えてみると、その引っかかりは、あまりに目まぐるしく変化する状況の中で、何度か感じたことがあるような気がしました。
「なんだろう。なにか・・・・・・。忘れているような・・・・・・」
 何度も首をひねりながら、羽磋は最近の出来事を順番に思い出していきました。何かが引っかかったんだ。何度も。ただ、それが何だったか・・・・・・。
 このようなもう少しでわかりそうなのにわからないことは、気になりだすと止まりません。特にこのような変化のないところでは、なおさらです。
 羽磋は横になっている二人の周りをグルグルと歩き回りながら、そのことについて考え続けました。
 それから僅かな時間が経った時のこと。理亜がくるんと寝返りを打ち、ちいさな掌を地面の上に広げました。考え事に集中しながら歩いていた羽磋は、自分がどこを歩いているのかにはまったく注意を向けていなかったので、もう少しでその掌を踏みつけてしまうところでした。
「あっ、危ない危ない。理亜の手を踏んでしまうところだった。気を付けないと」
 羽磋は慌てて二人のそばから離れると、自分の内側に向いていた意識を、現実の世界に向け直しました。
 集中して針の先のように細くなっていた羽磋の意識がふわっと緩められたその瞬間、彼は自分が何に引っかかっているかに気が付きました。
「ああっ、理亜が消えていないぞっ。外はもう夜なんじゃないのか?」
 驚きのあまり、周囲の壁に反響するような大きな声が、彼の口から飛び出ました。
 そうです。羽磋の目の前で、理亜は王柔に引っ付くようにして眠っています。彼女の小さな寝顔は王柔の面長な寝顔の横に並んでいます。でも、理亜は夜になれば消えてしまうのではなかったでしょうか。どうして、理亜の姿は今もここにあるのでしょうか。
「ここは地下に広がっている大空間だから、昼も夜もわからない。ひょっとしたら、外はまだ夜にはなっていないのかな」
 羽磋はそうも考えてみましたが、大空間の奥の方を調べるためには、ずいぶんと歩かなくてはならず時間が掛かりました。仮に羽磋が意識を取り戻したのが朝の早い時間で、それからすぐに調査に歩き回っていたとしても、自分の感覚としては今はもう夜遅くになっているはずでした。
 一つのおかしなことに思い当たると、芋づる式に別のおかしなことにも気が付くことがあります。
 夜になっても理亜の身体が消えていないことに気が付いた羽磋も、その他にもおかしなことがあることに気が付いてました。
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