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衝撃
8月⑪
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一体どうしたんだ。走って松倉の傍に行った三喜雄は、窓から美術室の中を見て叫んだ。部屋の奥で、背の高い須々木が小柄な高崎に馬乗りになり、高崎の肩を床に打ちつけていた。
「高崎っ!」
三喜雄は閉められた窓をばんばん叩く。高崎は床に押さえつけられ、動きを封じられていた。このままでは彼が殺される。シャツの襟に手をかけられた高崎が首を捻り、助けを求める顔で三喜雄を見る。どうすればいい! 三喜雄はパニックに陥った。
「くっそ、鍵かけやがって!」
松倉は引き戸も窓も開かないことに歯噛みし、引き戸を拳で叩いた。ばくばくする心臓が口から飛び出そうだったが、三喜雄は音楽室に駆け戻り、さっきまで自分が使っていた譜面台を掴んだ。躓きながら廊下を走って、松倉に向かって叫んだ。
「先生っ、どいて!」
松倉が振り返り左手に避けたのを見てから、三喜雄は走ってきた勢いで、畳んだ譜面台の頭を思いきり窓に叩きつけた。手が痛かったが、ガラスに罅が入る。渾身の力でもう一度譜面台を振り下ろすと、一瞬の抵抗を腕に感じた直後、凄まじい音が鼓膜をつんざいた。
窓が破られたことに気づいていないのか、須々木が高崎に向かって言い募る声が聞こえた。
「俺のことが好きなら、どうして俺の言うことを聞いてくれないんだよっ!」
高崎は顔を腕で守るような姿勢を取り、必死で抵抗している。それを見た三喜雄の頭に血が昇った。
「高崎から離れろ、このクズ! ぶっ殺すぞ!」
言いながら譜面台を美術室の床に投げつけ、手を入れて窓の鍵を開けた。割れたガラスが手首を切った瞬間、痛みというよりは熱さが走ったが、構わずそのまま窓を横に開く。窓枠に足を掛け、部屋の中に飛び込んだ。松倉が後に続く。
須々木は泣きながら訳の分からないことを言い、高崎の細い首に手をかけた。三喜雄と松倉が同時にやめろと喚き、2人に駆け寄る。
その時高崎の右手が、すぐ横に立っている大きなイーゼルの脚に伸びた。彼は力を振り絞って、イーゼルを自分のほうに引き寄せ、バランスを崩したそれは、ゆっくりと須々木の頭上に倒れ込む。松倉があっ! と叫んだ瞬間、顔を上げた須々木にイーゼルが襲いかかった。
がしゃっ、と嫌な音がした。2人は完全に、イーゼルの下敷きになった。三喜雄はその場に立ち竦む。
「大丈夫か!」
松倉が須々木の身体からイーゼルをどけようとしたが、壊れてしまったそれは、大人の男が両手で掴まないと動かなかった。痛ぇ、と呻いた須々木は左手でこめかみを押さえ、三喜雄は彼の顔の左半分が血塗れになっているのを見てひっ、と叫んだ。
「何処が切れたんだ、手をどけて」
松倉はズボンの腰に挟んでいたタオルを、須々木のこめかみに当てる。ようやく須々木が上半身を起こしたので、三喜雄は我に返って、ぐったりしている高崎を助けようとした。
髪を乱した高崎はぼんやりとした目をして、口を切ったのか、青ざめた頬に血がついていた。
「だっ、大丈夫か、高崎」
三喜雄は彼の背中の下に腕を入れて、華奢な肩を抱き起こし、松倉に身体を預けた須々木から引き離した。シャツのボタンが幾つか飛んでいて鎖骨が覗き、白い肌が傷ついている。三喜雄はぎょっとして、呻いている須々木を凝視した。こいつ、高崎に何をしようとしたんだ?
「……片山先輩」
掠れた声がした。三喜雄は思わず細い身体を抱き締めて、背中を撫でた。
「大丈夫だ、もう大丈夫」
高崎は三喜雄の腕の中で、速く浅い呼吸を繰り返す。小さく震える背中は、巣から落ちて烏に襲われた雛を連想させた。三喜雄が何度も背中を撫でていると、ぐすっ、と鼻をすする音がして、やがてそれは小さな嗚咽に変わった。
「片山ぁっ! 何なんだよこれっ!」
上谷の声がして、三喜雄はそちらに首を向けた。割れた窓の向こうで長谷部が呆然と立ち尽くし、上谷は開かない引き戸をがたがた鳴らす。
「片山! 開けろ、何があったんだ!」
上谷は叫び混じりに言った。松倉が須々木の頭を押さえたまま、彼に指示する。
「怪我人がいるんだ、職員室に小山先生がいるから救急車を呼ぶよう頼んでくれないか、額を切って出血してる」
「高崎っ!」
三喜雄は閉められた窓をばんばん叩く。高崎は床に押さえつけられ、動きを封じられていた。このままでは彼が殺される。シャツの襟に手をかけられた高崎が首を捻り、助けを求める顔で三喜雄を見る。どうすればいい! 三喜雄はパニックに陥った。
「くっそ、鍵かけやがって!」
松倉は引き戸も窓も開かないことに歯噛みし、引き戸を拳で叩いた。ばくばくする心臓が口から飛び出そうだったが、三喜雄は音楽室に駆け戻り、さっきまで自分が使っていた譜面台を掴んだ。躓きながら廊下を走って、松倉に向かって叫んだ。
「先生っ、どいて!」
松倉が振り返り左手に避けたのを見てから、三喜雄は走ってきた勢いで、畳んだ譜面台の頭を思いきり窓に叩きつけた。手が痛かったが、ガラスに罅が入る。渾身の力でもう一度譜面台を振り下ろすと、一瞬の抵抗を腕に感じた直後、凄まじい音が鼓膜をつんざいた。
窓が破られたことに気づいていないのか、須々木が高崎に向かって言い募る声が聞こえた。
「俺のことが好きなら、どうして俺の言うことを聞いてくれないんだよっ!」
高崎は顔を腕で守るような姿勢を取り、必死で抵抗している。それを見た三喜雄の頭に血が昇った。
「高崎から離れろ、このクズ! ぶっ殺すぞ!」
言いながら譜面台を美術室の床に投げつけ、手を入れて窓の鍵を開けた。割れたガラスが手首を切った瞬間、痛みというよりは熱さが走ったが、構わずそのまま窓を横に開く。窓枠に足を掛け、部屋の中に飛び込んだ。松倉が後に続く。
須々木は泣きながら訳の分からないことを言い、高崎の細い首に手をかけた。三喜雄と松倉が同時にやめろと喚き、2人に駆け寄る。
その時高崎の右手が、すぐ横に立っている大きなイーゼルの脚に伸びた。彼は力を振り絞って、イーゼルを自分のほうに引き寄せ、バランスを崩したそれは、ゆっくりと須々木の頭上に倒れ込む。松倉があっ! と叫んだ瞬間、顔を上げた須々木にイーゼルが襲いかかった。
がしゃっ、と嫌な音がした。2人は完全に、イーゼルの下敷きになった。三喜雄はその場に立ち竦む。
「大丈夫か!」
松倉が須々木の身体からイーゼルをどけようとしたが、壊れてしまったそれは、大人の男が両手で掴まないと動かなかった。痛ぇ、と呻いた須々木は左手でこめかみを押さえ、三喜雄は彼の顔の左半分が血塗れになっているのを見てひっ、と叫んだ。
「何処が切れたんだ、手をどけて」
松倉はズボンの腰に挟んでいたタオルを、須々木のこめかみに当てる。ようやく須々木が上半身を起こしたので、三喜雄は我に返って、ぐったりしている高崎を助けようとした。
髪を乱した高崎はぼんやりとした目をして、口を切ったのか、青ざめた頬に血がついていた。
「だっ、大丈夫か、高崎」
三喜雄は彼の背中の下に腕を入れて、華奢な肩を抱き起こし、松倉に身体を預けた須々木から引き離した。シャツのボタンが幾つか飛んでいて鎖骨が覗き、白い肌が傷ついている。三喜雄はぎょっとして、呻いている須々木を凝視した。こいつ、高崎に何をしようとしたんだ?
「……片山先輩」
掠れた声がした。三喜雄は思わず細い身体を抱き締めて、背中を撫でた。
「大丈夫だ、もう大丈夫」
高崎は三喜雄の腕の中で、速く浅い呼吸を繰り返す。小さく震える背中は、巣から落ちて烏に襲われた雛を連想させた。三喜雄が何度も背中を撫でていると、ぐすっ、と鼻をすする音がして、やがてそれは小さな嗚咽に変わった。
「片山ぁっ! 何なんだよこれっ!」
上谷の声がして、三喜雄はそちらに首を向けた。割れた窓の向こうで長谷部が呆然と立ち尽くし、上谷は開かない引き戸をがたがた鳴らす。
「片山! 開けろ、何があったんだ!」
上谷は叫び混じりに言った。松倉が須々木の頭を押さえたまま、彼に指示する。
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