10 / 100
10、コタロー計画する
しおりを挟む「ん~っ! まろやかな甘さ! 美味しい! 」
塾でアイツが指差していた、 薄ピンクにイチゴの絵のチョコを差し出すと、 ハナはパアッと顔を輝かせて、 それを半分だけ齧った。
「ハナ、 美味いか? 」
「うん、 想像以上。 コタロー、 ありがとう! 」
ハナは頬に手を当てて、「ん~っ」と満足そうに目尻を下げる。
チョコ以上に甘くてトロけそうな笑顔。
そうそう、 俺が見たかったのはハナのこの顔なんだ……。
***
ハナにチョコの運び屋を頼まれた俺は、 どうしたらコトがスムーズに運ぶか考えてみた。
ハナにはわざと勿体ぶった言い方をしたけれど、 正直言うと、 チョコをゲットするのなんて簡単な事だ。
塾のガラスボウルに入ってるチョコは、 母親が大袋からザラザラと移し替えたものだから、 元の大袋から1個拝借してくれば済む話なのだ。
塾の建物の1階には簡単な調理が出来る程度の狭い給湯室兼キッチンがあって、 シンクの下の棚には例のチョコレートが常備してある。
それはスーパーで買ってきた大袋だったり、 コンビニで見つけた新作だったり様々なのだけど、 生徒の親たちが面白がって旅先で買ってきてくれたご当地限定のもあったりして、 非常にバラエティー豊かなラインナップとなっている。
だから生徒たちも帰りに選ぶ1個を楽しみにしているのだ。
そういう訳で、 母親が授業をしてる最中にそこから1個持ってくるのが一番安全で手っ取り早い方法なんだけど…… なんだかそれはやっちゃいけないような気がした。
手抜きをして得た報酬には意味がない気がするし、 ハナに『対価交換』を持ちかけた以上、 それに見合うリスクを負うべきだ……と、 俺はそう思うから。
ハナが欲しいのは『塾のチョコ』なんだ。
ハナが指差して選んだ『ガラスボウルの中のチョコ』じゃなきゃいけないんだ。
ハナが選んだその1個が、 翌日もそこにあっちゃいけないんだ……。
塾の最後のクラスが終わるのは午後9時。
それから生徒を見送って戸締りをして、 片付けを終えた母親がこっちの家に帰ってくるのが午後9時半頃。
俺は遅くても夜10時までには寝るよう言われているから、 コトを実行に移すとしたら、 9時半から10時までの30分間の間、 または家族が寝静まった夜中に起きだして行くか…… の2択だ。
夜中にベッドを抜け出して行くのは見つかるリスクが高い。
両親が寝てるのは1階奥の部屋で、 こちらから親の動きが見えないぶん、 タイミングを測りづらい。 階段を降りた途端に出くわしたらもうアウトだ。
だからヤルのは寝る前。
理由は…… そうだな、 やっぱりじいちゃんだな。
じいちゃんの部屋には毎晩夕食後に囲碁を打ちに行ってるし、 勉強を教えてもらいに行くのもしょっちゅうだから、 俺が通うのに全く違和感は無い。
じいちゃんには悪いけど、 囲碁の時間を寝る前にズラしてもらおう。
じいちゃん、 ごめんな。
理由がチョコレートだなんて知ったら、 ガッカリだよな。
だけど、 前にじいちゃんが言ってただろ?
『虎太朗、 男なら命がけで守りたいと思うものを一生のうちで1つは持てよ。 大事なものが出来るとな、 生きる張り合いが出来て、 どんな辛いことも乗り越えられるし、 実力以上の力が出せるもんなんだ』
命がけで守りたいかっていったら良く分からないけど、 とりあえず今、 俺にとって大事なものはハナなんだよ。
だから、 ハナと、 ハナが欲しがってるモノのために、 俺は頑張るよ。
それがチョコレートだなんて言ったら…… やっぱりじいちゃんはガッカリしそうだな。
だから今はまだ内緒だけど、 いつか正直に打ち明けるから、 それまではコッソリ名前を使わせてくれよ!
1
あなたにおすすめの小説
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
ホストと女医は診察室で
星野しずく
恋愛
町田慶子は開業したばかりのクリニックで忙しい毎日を送っていた。ある日クリニックに招かれざる客、歌舞伎町のホスト、聖夜が後輩の真也に連れられてやってきた。聖夜の強引な誘いを断れず、慶子は初めてホストクラブを訪れる。しかし、その日の夜、慶子が目覚めたのは…、なぜか聖夜と二人きりのホテルの一室だった…。
伝える前に振られてしまった私の恋
喜楽直人
恋愛
第一部:アーリーンの恋
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
第二部:ジュディスの恋
王女がふたりいるフリーゼグリーン王国へ、十年ほど前に友好国となったコベット国から見合いの申し入れがあった。
周囲は皆、美しく愛らしい妹姫リリアーヌへのものだと思ったが、しかしそれは賢しらにも女性だてらに議会へ提案を申し入れるような姉姫ジュディスへのものであった。
「何故、私なのでしょうか。リリアーヌなら貴方の求婚に喜んで頷くでしょう」
誰よりもジュディスが一番、この求婚を訝しんでいた。
第三章:王太子の想い
友好国の王子からの求婚を受け入れ、そのまま攫われるようにしてコベット国へ移り住んで一年。
ジュディスはその手を取った選択は正しかったのか、揺れていた。
すれ違う婚約者同士の心が重なる日は来るのか。
コベット国のふたりの王子たちの恋模様
つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました
樹里
恋愛
社交界デビューの日。
訳も分からずいきなり第一王子、エルベルト・フォンテーヌ殿下に挨拶を拒絶された子爵令嬢のロザンヌ・ダングルベール。
後日、謝罪をしたいとのことで王宮へと出向いたが、そこで知らされた殿下の秘密。
それによって、し・か・た・な・く彼の掃除婦として就いたことから始まるラブファンタジー。
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる