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65、 コタロー、じいちゃんの言葉に覚醒する (3)
しおりを挟むじいちゃんは座布団の上で胡座の足を組み替えると、 脚に片肘をついて、 前屈みになった。
これはじいちゃんが長く話す時の合図だ。
「虎太郎、 じいちゃんな、 『押してダメなら引いてみろ』って言葉があまり好きじゃないんだよ」
「えっ? 」
何を言われるのかと身構えていたら、 恋愛マニュアルみたいな言葉が出てきてキョトンとする。
「そりゃあな、 何事にも見極めっていうのが大切だ。 嫌がっている相手にしつこくしたり、 無理強いするのは良くないさ。 でもな、 諦める勇気もないくせに、 一歩引いて相手の出方を見るっていうのは、 なんか違うような気がするんだよ」
ーー それはまさしく今の俺……。
じいちゃんの言葉がグサリと胸に刺さる。
「急に距離をおいて意識してもらおうってのはさ、 要は相手を狼狽えさせたり不安にさせたりして、 気持ちをコントロールしようとしてるって事だろう? それを『駆け引き』って呼ぶのかも知れないが、 そんなのじいちゃんに言わせれば、ただの『小賢しい真似』だ。
じいちゃんはな、 そんな風に相手の気持ちが動くのを待ってるくらいなら、 その間に自分の気持ちを伝える努力をした方が、 前向きで潔いと思うんだよ」
ーー 小賢しい真似……。
確かに、 ハナの気持ちをほぼ確信しながらも、 決定打がなくて怖くて、 向こうが心を開いて近付いてきてくれるのを待ってる俺は、 ズルいのかも知れない。
だけど……。
「前にさ…… ハナを問い詰めるみたいになって、 思いっきり泣かせちゃったんだ。 俺はアイツを怖いことや辛いことから必死で守ってきたつもりだったのに、 その俺がアイツを泣かせた。 おまけに変な噂のせいで嫌な思いもさせて…… そんなの、 近付くのが怖くなるだろ? 」
じいちゃんは、 俺の幼い恋愛話の愚痴に、怒るでも笑うでもなく、ただただ真剣な表情で耳を傾けてくれている。
「俺はハナの前では強くて完璧な男でいたいのにさ、 なんだか怖いことが増えて、 どんどん臆病になってる気がするんだ…… 」
ついつい甘えて本音を漏らした俺に、 じいちゃんの辛辣な言葉が飛んできた。
「花名ちゃんはお前に守って欲しいと思ってるのかい? 」
「えっ? 」
「花名ちゃんはお前に完璧でいて欲しいなんて言ったのか? 守って欲しいなんて頼んだのか? 」
「いや、 それは…… でも、 アイツは俺がいなきゃ…… 」
「虎太朗、 それはお前がそうさせてるんだ。 お前が勝手に囲い込んで弱らせて、 自分だけを頼るように仕向けているんだ。 それは花名ちゃんのためではなくて、 全部お前の自己満足だ」
「そんな! 俺は…… 」
ーー ハナのためではなく、 自分のため?!
『違う』とハッキリ言い切れない自分に愕然とした。
ハナに頼られるのが嬉しかった。
忘れ物をしても、 宿題の答えが分からなくても、 真っ先に、 真っ直ぐに、 俺を頼ってくるアイツが可愛くて愛しくて…… それを心待ちにしている自分がいた。
「コタロー、 花名ちゃんは、 お前がいなくても生きていけるぞ」
「…………。 」
「そしてお前だって、 花名ちゃんがいなくても生きていける」
「それはそうだろうけど、 でも……! 」
「それでもお前は、 1人でいるよりも2人がいいんだろ? 2人で一緒に笑いながら歩いていきたいと思ってるんだろ? だったら、花名ちゃんを置いてきぼりにして、 お前だけがどんどん先に進んでちゃ駄目だ」
「俺がハナを…… 置いてきぼり? 」
ハナに振り向いてもらおうと、 必死になって前ばかりを見ていたら、 肝心のハナを置き去りにしてたって事なのか……。
「 今お前に必要なのは、 あの子の手を引いて寄り添い、 時には背中を押して、 一緒に前に踏み出す努力。 そして、 彼女に追い抜かれることを恐れない強さだ。 そして、 もしも転んだとしても大丈夫だと、 怪我をした時には自分が支えるからと、 彼女を安心させてやることだ」
「…… ああ」
「虎太朗は、 今まで自分がした事が花名ちゃんに何一つ伝わっていないと思ってるのか? 虎太朗の存在は、 花名ちゃんに何の影響も与えていないのかい? 逆も然りだ。 お前たちは、 一緒に刺激しあって成長していけばいいんだ。
花名ちゃんだって、 お前の後ろを黙ってついて行くよりも、 隣に並んで、 お互いの顔を見ながら笑って歩く方が楽しいだろうよ」
ーー ああ……。
じいちゃんの言う通りだ。
ハナが変わろうとしてる兆しはいくつかあったんだ。
なのに俺が、 ハナのその気持ちを、 自分の見栄や都合でポキリと折ったんだ。
今までとは少しずつ、 少しずつ、 何かが変わってきていたのに…… もしかしたらそうやってハナが俺の手助けを必要としなくなることを、 俺自身が一番恐れていたのかも知れない。
「じいちゃん…… じいちゃんは名探偵なだけじゃなくて、 千里眼なんだな。 全部お見通しだ」
俺がそう言うと、 じいちゃんは体を起こしてハハハと笑い、
「それは違うな。 これは千里眼なんかじゃなくて、 経験談だ。 じいちゃんは押して押して押しまくって、 ばあさんを婚約者から奪ったんだからな」
「えっ…… ええっ?! そんなの聞いてないよ! 」
「ハハハッ、 言ってないからな」
俺が小2の時に亡くなった、 ちょっとふっくらとした祖母の優しい顔が脳裏に浮かんだ。
「その話を詳しく聞かせてよ、 師匠! 」
「ハハッ、 それはまた、 花名ちゃんと一緒の時に、 ゆっくりな」
「とにかく…… だ、 2人で一緒に前に進みなさい。 歩けば道は出来る、 だが立ち止まれば草が生え、 道は消えるぞ」
ーー 一緒に進む……。
そうだ。 俺とハナは15年かけて徐々に変わってきたんだ。 もしも今、 お互いの気持ちがすれ違ったり気まずくなったとしても、 これから先の未来で10年、 20年かけて、 いくらだって挽回出来るさ。
その可能性を捨てて怖気づいてるだけなんて…… どう考えたって時間の無駄だよな?
なあハナ、 俺だって先のことを考えたら怖いし不安になるけどさ…… それでも俺と一緒に、 ちょっとずつでいいから、 前に進んでくれよ……。
進もうよ……。
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