86 / 100
86、 馬鹿と愛妻弁当
しおりを挟む団体戦は準決勝に差し掛かり、 会場の声援もますます大きくなっていた。
「これが終わったら女子決勝で、 その次が男子決勝だよね? そろそろテープを巻くよ」
「おう」
冷却スプレーをしてから足の甲に次々とテープを貼っていく。
試合で多少動きにくくはなるだろうけど、 患部の固定のために、 ガッチリ巻きつける。
「…… 準備万端だな」
「うん。 ちゃんとテープの角をハサミで丸くカットしてきた」
「偉い! お前、 学んだな」
「うん、 学んだよ。 まだ全部は無理だけど、 足のやり方だけでも練習しておいて良かった」
「ん…… ありがとな」
テープをグッと強めに貼ると、 コタローが「痛っ!」と、 後ろに顔を反らした。
「こんな状態で試合を続けるの? 」
「続けるよ」
「…… 決勝の対戦相手の恩田くんは、 『面返し胴』が得意技」
「ああ、 去年の決勝はそれでやられた…… って、 なんでお前、 知ってるの? 」
「私は応援する事しか出来ないから…… せめて剣道について学んでみた」
「……そうか」
コタローが目を細めて、 ふわっと柔らかく微笑んだ。
「…… それでも面で勝負するの? 」
「ああ。 向こうが返し胴が得意なら、 こっちはそれより早く打ち込むだけのことだ」
「宗次郎先生が、 コタローは大馬鹿ものだって」
「ハハッ…… お前もバカだと思ってる? 」
「…… 思ってる」
「…… ハナ、 男には、 どうしても戦わなくちゃいけない時があるんだよ」
「…… それが今なの? 」
「うん、 そう」
「何のために戦うの? 」
「ん? …… 愛のため? 」
「…… やっぱりバカだ」
「ハハッ、 バカだな」
「バカだけど…… カッコいいよ、 コタロー」
「えっ? 」
「…… さあ、 巻き終わったよ。 なかなか上手にできたでしょ? 具合はどう? 」
私は道具を全部バニティケースに片付けて蓋をすると、 コタローの足にそっと手を置いた。
コタローがゆっくり足先を動かして、 満足げに頷く。
「うん、 バッチリ。 すごく手際が良くなってるな。 これ、 めちゃくちゃ練習しただろ」
「したよ…… 何度も何度も繰り返し練習した。 コタローのことを思い浮かべながら…… 愛のために頑張った」
「えっ?! 」
私は足の下からバスタオルを外し、 コタローの左足を持ったまま、 その顔を真っ直ぐに見つめる。
「コタロー、 私はこんなに痛い思いをしてまで試合を続けるなんてバカだと思うけど、 そんなコタローがカッコいいと思うよ。 …… 大丈夫、 コタローは絶対に負けない。 絶対に勝つよ。コタローは私の最高の幼馴染で…… 私が大好きな最高の彼氏なんだからね! 」
コタローは私の顔を見つめたまま口をポカンと開けて…… 両手で顔を覆って天を仰いだ。
「くっそ~、 このタイミングでソレを言うか…… 」
私の手から足を下ろしてすっくと立ち上がると、 腰に手を当てて首をグルリと回し、 満面の笑みで見下ろす。
「ハナ、 俺、 行ってくる。 こんなの全然負ける気しね~わ」
「うん、 行ってらっしゃい …… 見てるから」
「おう、 お前の彼氏が世界一になる瞬間を見せてやる」
コタローは竹刀と面を持って歩きかけたけど、 ふと立ち止まって振り返った。
「ハナ…… 俺さ、 試合の後ってめちゃくちゃお腹が空くんだけど…… なんか食料持って来てない? 」
ーー あっ!
「あのね、 コタロー、 私、 お弁当を作ってきたんだけど…… 」
「えっ、 マジかっ?! お前、 料理なんて出来ないじゃん! 」
「出来ないけど作ったの! ちゃんとカロリー計算までしたんだよ! 」
「凄げえな、 オイ。 初めての愛妻弁当だな」
「あっ、 愛妻って …… 馬っ鹿じゃないの?! 」
「ハハハッ、 楽しみにしとく~! 」
そう言いながら、 竹刀を持った手を振って、 コタローはコートへと向かった。
1
あなたにおすすめの小説
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
ホストと女医は診察室で
星野しずく
恋愛
町田慶子は開業したばかりのクリニックで忙しい毎日を送っていた。ある日クリニックに招かれざる客、歌舞伎町のホスト、聖夜が後輩の真也に連れられてやってきた。聖夜の強引な誘いを断れず、慶子は初めてホストクラブを訪れる。しかし、その日の夜、慶子が目覚めたのは…、なぜか聖夜と二人きりのホテルの一室だった…。
伝える前に振られてしまった私の恋
喜楽直人
恋愛
第一部:アーリーンの恋
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
第二部:ジュディスの恋
王女がふたりいるフリーゼグリーン王国へ、十年ほど前に友好国となったコベット国から見合いの申し入れがあった。
周囲は皆、美しく愛らしい妹姫リリアーヌへのものだと思ったが、しかしそれは賢しらにも女性だてらに議会へ提案を申し入れるような姉姫ジュディスへのものであった。
「何故、私なのでしょうか。リリアーヌなら貴方の求婚に喜んで頷くでしょう」
誰よりもジュディスが一番、この求婚を訝しんでいた。
第三章:王太子の想い
友好国の王子からの求婚を受け入れ、そのまま攫われるようにしてコベット国へ移り住んで一年。
ジュディスはその手を取った選択は正しかったのか、揺れていた。
すれ違う婚約者同士の心が重なる日は来るのか。
コベット国のふたりの王子たちの恋模様
つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました
樹里
恋愛
社交界デビューの日。
訳も分からずいきなり第一王子、エルベルト・フォンテーヌ殿下に挨拶を拒絶された子爵令嬢のロザンヌ・ダングルベール。
後日、謝罪をしたいとのことで王宮へと出向いたが、そこで知らされた殿下の秘密。
それによって、し・か・た・な・く彼の掃除婦として就いたことから始まるラブファンタジー。
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。
亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。
しかし皆は知らないのだ
ティファが、ロードサファルの王女だとは。
そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる