87 / 100
87、 反則
しおりを挟む私が2階の観覧席に戻って下を覗き込むと、 ちょうどコタローがコート際で正座して、 面をつけ始めたところだった。
「コタローはどうだった? 」
心配して聞いてきた京ちゃんに、 私は首を横に振って渋い顔をしてみせる。
「紫色に腫れてきてた。 あれは相当痛いと思う」
「病院に行かなくていいの? 」
「私もそう言ったんだけど、 コタローが試合に出るって…… 」
「まあ、 アイツの性格ならそう言うだろうな」
「宗次郎先生、 だから私も説得するのをやめて、『頑張れ』って、『見てるから』って言ってきました」
「ああ、 それでいい。 ここで試合を諦めさせれば怪我の治りは早いだろうが、 後悔は一生残ってしまうだろうからな」
「…… はい」
そう、 これはコタローの試合なんだ。
コタローがやると決めた以上、 私たちに出来るのは、 精一杯応援することだけ……。
コタローの背中に白い襷、 相手方に赤い襷がつけられると、 名前が呼ばれてコートサイドに立った。
お辞儀をしてから白いラインで竹刀を構え、 しゃがんだところで審判の『始め!』の合図。
ーー コタロー、 頑張れ!
胸の前で指を組んで、 コタローの無事と勝利を祈る。
それは開始数秒後の出来事だった。
お互いに立ち上がって竹刀を構えたと思ったら、 コタローがダンッ! と床を蹴って、 正面から綺麗な跳躍を見せた。
次の瞬間にはパシッ! と力強い音が場内に響き、 3名の審判全員が白い旗を上げる。
「面ありっ! 」
わあっ!と会場が湧き上がり、 大きな拍手が起こる。
「コタロー凄い! 」
私が拍手をしながら隣を見ると、 宗次郎先生が満足げに、「見事な先制攻撃だな」と頷いている。
「足の痛みが酷くなって動けなくなる前に、 早めに決着をつけたいと思っているんだろうな。 『攻撃は最大の防御』だ。 これで相手も余裕が無くなった」
「このまま3分過ぎるか、 コタローがもう1本取れば勝ちなんですよね? 」
「それはそうだが、 そう思うようには行かないかもな…… 」
「えっ? 」
宗次郎先生がコタローをじっと見守りながら腕を組む。
「花名ちゃんも団体戦のときを覚えているだろう? 追い詰められた相手が捨て身で反撃に出るときほど危険なことはないんだよ。 それに…… ほら、 コタローを見てごらん。 さっき思いっきり踏み込んだことで、 左足の痛みが酷くなっているはずだ」
ーー あっ……。
コタローは相手と竹刀を交えて鍔競り合いしているけれど、 右足に重心をかけて、 左足は不自然にズルズルと引きずっている。
「あれじゃあ受けるのが精一杯で、 あいつの得意な『攻めの剣道』は出来んだろうな」
「でも、 あと少し頑張れば…… 」
そう言っている間にパシッ!と音がして、 相手の恩田選手の正面からの打ち込みをコタローが竹刀で受け止めていた。
そこからまた鍔迫り合いになり、 お互いがゆっくり離れて距離を取り…… と思った瞬間、 恩田選手が退くと見せかけて、 コタローの竹刀をバシッ!と叩き落とした。
ーー あっ!
「反則1回! 」
審判の声が響く。
「ねえ、 竹刀を落としたら反則になっちゃうの? 」
京ちゃんの問いに、 宗次郎先生が頷く。
「反則行為はいろいろあるけれど、 試合中に起こりやすいのは、 竹刀落としと場外だな。 今の恩田選手のように、 お互いに間を取ろうと退がっている最中に打ち込んでくるのは美しい戦い方とは言えないが …… それだけ相手も必死なんだろう」
「そんな…… 」
京ちゃんが不安げな顔をする。
「それとね、 京ちゃん。 剣道では2回反則をすると、 相手に1本が与えられるの。 コタローは今、 1回反則を取られたでしょ? あと1回反則をしたら、 相手の恩田選手の1本になって、 コタローと同点になる」
「えっ?! ヤバい! 早く3分経っちゃえばいいのに」
そうだ。 3分過ぎればコタローの勝ち。
あと残り1分くらいだろうか…… どうかそれまで、 コタローが踏ん張ってくれますように!
試合は、 どうにかして1本を取りたい恩田選手の攻撃が激しくなってきて、 左足が不自由なコタローは押され気味になっていた。
やはり痛みが強くなってきているんだろう。
そんな中、 コタローが相手の攻撃をクルリと躱して引き面を仕掛け、 トトッと後ろに下がった時に、 グラリとバランスを崩した。
そこに恩田選手が力任せに勢いよく竹刀で押してきて、 左足で踏ん張りきれなかったコタローが、 場外へ押し出され……。
「コタロー! 」
コタローが勢いよく床に転がった。
これで反則2回となり、 相手の1本。
試合終了間際になって、 とうとう同点に追いつかれてしまったのだった。
1
あなたにおすすめの小説
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
友達婚~5年もあいつに片想い~
日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は
同僚の大樹に5年も片想いしている
5年前にした
「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」
梨衣は今30歳
その約束を大樹は覚えているのか
出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜
泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。
ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。
モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた
ひよりの上司だった。
彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。
彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
イケメン副社長のターゲットは私!?~彼と秘密のルームシェア~
美和優希
恋愛
木下紗和は、務めていた会社を解雇されてから、再就職先が見つからずにいる。
貯蓄も底をつく中、兄の社宅に転がり込んでいたものの、頼りにしていた兄が突然転勤になり住む場所も失ってしまう。
そんな時、大手お菓子メーカーの副社長に救いの手を差しのべられた。
紗和は、副社長の秘書として働けることになったのだ。
そして不安一杯の中、提供された新しい住まいはなんと、副社長の自宅で……!?
突然始まった秘密のルームシェア。
日頃は優しくて紳士的なのに、時々意地悪にからかってくる副社長に気づいたときには惹かれていて──。
初回公開・完結*2017.12.21(他サイト)
アルファポリスでの公開日*2020.02.16
*表紙画像は写真AC(かずなり777様)のフリー素材を使わせていただいてます。
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる