燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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「ディオメデス、すこし力を弱めてくれ」
「あれこれうるさいぞ。俺は客だぞ!」
 リィウスは唇を噛んで、のしかかってくる男の燃えたぎるエメラルドの瞳を睨んでいた。相手は、一瞬ひるんだ顔になる。こんな気弱な態度も今まで見たことはない。ディオメデスは、リィウスを前にして、かつては決して見せなかった弱い姿を見せていることに気づいているだろうか。
「うるさい!」
 噛みつくような接吻をされる。
「んん……」
 重たい身体がのしかかってくる。
 リィウスは息を吐いた。
「俺の言うことに逆らうな」
「あっ……ああ!」
 首筋や胸に熱い唇が降りてくる。もはや抗議の声は出なかった。


「帰らなくていいのか?」
 あれから丸三日ディオメデスは柘榴荘に居座りつづけている。
「ん……ああ」
 ほとんど寝台を独占している男は、寝返りをうつ。
 気だるい身体をどうにか起こして、リィウスは心配そうな声で相手をせかした。
「なぁ、そろそろ家に戻った方がいいのではないか?」
 自分を金で買い、強姦しつづけている相手の立場をおもんぱかるのもおかしな話だが、ディオメデスにかんする噂はリィウス自身の耳にも入ってきていた。
(たいした傾城けいせいだね)
 笑いながらサラミスは感嘆の目を向け、アスパシアは憂慮に眉をひそめた。
 このままだと生家でのディオメデスの立場は危ないらしい、とはアスパシアから聞いた。アウルスからもアスパシアを通して、ディオメデスにすこし慎むようリィウスの口から説得して欲しいと告げられた。
 だが、勿論タルペイアは反対だ。
(おまえの考えることはひとつ。ディオメデスから、いかにして金を引き出すかよ)
 だが、いくら恨みがあっても、ディオメデスが自分のために身を持ちくずす姿など見たくはない。ディオメデスのみならず、誰であっても人が自分のために淪落りんらくする様など見たくはない。
 とはいうものの、リィウスは毎日のように娼館に来ては金を湯水のごとく使い、自分を抱き、朝まではなそうとしないディオメデスの放蕩ほうとうぶりを見ていると、苛立って仕方ない。
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