燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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「奴らは下級兵士のあつまりでね、いくらもがいたところで出世もできず、生活も楽ではない。それはすべて政府や政治に問題があると思いこんで、今の腐敗した門閥政治や元老院たちの権力争いをすべて放逐したいとのぞみ、そのためには最高権力者で、しかも悪い噂にことかかない皇帝を抹殺することを決心したんですよ」
 愚かなことですね……。カニディアは首を横にふった。
「なんの意味もないというのに」
「おまえはいったい、何者なんだ?」 
 ディオメデスは、あらためてカニディアを見て、どこかしら不気味な気持ちになって訊いていた。
 見た目は、とくにこれといって変わっているところはないが、この男は一緒にいる人間に奇妙な警戒心を抱かせる。そんな気持ちを読みとったかのように、相手は黒い目によこしまな光を弾けさせた。
「何者といわれましてもね。ただの商人ですよ。……ただね、私は薬草に詳しく、いろいろ効能のある、めったに手に入らない薬草を用意できるんですよ」
「なんなんだ、それは?」
 扉の外では激しい物音が響いている。それも気になるが、今は、カニディアという男から感じる謎が気になる。
 ディオメデスを焦らすように、カニディアはゆっくりとしゃべった。
「不老不死……とまではいかずとも、老化を遅くし、病にかかりづらくする薬です。あらゆる人が求めるものですね」
 それは、たしかに誰しもが欲する薬だろう。
「その薬を欲しがる人たちが私たちに群がってくるのですよ」
「たち? おまえの他にもいるのか?」
「いますよ。姉です。双子の姉でね。私たちは薬草づくりを生業なりわいにしておりましてね。その縁で、いろいろな方たちとも親しくさせていただいているのですよ。ウリュクセスには長年、この仕事稼がせてもらいました。あなたの義母上や、柘榴荘の女将は私にとって上客です。ああいう女たちは不老を人一倍ねがっているのですよ」
「まぁ、そうだな」
 女なら誰しもそうだろう。まして女であることを武器にして生きている女ならなおさらだ。男でも不老は夢だ。権力者や金持ちなら、手に入るならいくらでも金を出して、若さを買おうとするだろう。だが、そんな都合のいい薬が本当にあるのだろうか。
「絶対とはいえませんが、元気の出る薬や滋養にいい薬はありますよ。もともと栄養のある食事をして、そういった薬を服用していると、老化を止めることは……できずとも、遅くできますね」

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