燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 こんなときに、こんな話を聞いてどうなるのだろう、という想いがある一方で、カニディアの言葉に引き込まれてしまう。
「他にも、もちろん、病気や長年の持病を治したいという人に普通に薬を売ることもありますよ。手に入りにくい薬草はウリュクセスにたのめば何とかしてくれました。私たちがウリュクセスにたのまれて薬を調合することもあります」
 持ちつ持たれつ、という関係のようだ。互いに相手が仕事上、便利な存在なのだ。
「新たな客を見つけるとき、私たちは神殿へ行くのです。そこでは、神々に健康と病の治癒をねがう人がかならずいるもので。そこで、私たちは金になりそうな客をさがすのです。あなたの想い人の弟と出会ったのも神殿だった」
「ナルキッソスのことか?」
 なぜか、ディオメデスは首の後ろがうすら寒くなった。どんどん奇妙な話に引きずり込まれていく。だが、聞きつづければ、そこにひとつの答が見つかりそうな気がする。
「そうです。あなたの義母やタルペイアと出会ったのも神殿だった。彼女たちも、神殿に出入りする薬師や医師には注意しているのです。目当ての薬や、欲しいものを手に入れるためにね。あと、ご存知かもしれませんが、ときに神殿というところは、娼館にもなるのですよ」
「……だろうな」
 そんな噂はよく聞く。勿論、見つかれば極刑だが、それでも人は禁を犯すことに異常な欲望を持つようだ。巫女という聖職にある特殊な立場の女性を抱くことに欲望を持つ男は少なくはなく、また若く美貌の神官もそういった対象にされやすい。
 もっと昔や地方によっては、神殿の巫女が当然のように売春をしており、払われた金品は神への貢物として公然と祭壇にささげられたともいう。身を売る巫女は聖娼とみなされ、罰されることもさげすまれることもなく、むしろ彼女たちと通じた信者たちは、いっそう神の御利益を得られると信じられていた。だが、今のローマでは罪である。
「マルキアやタルペイアは神殿の裏の仕事に加担したり、巫女に仕事を斡旋したりしていた。巫女のみならず、神殿で若い神官や美貌の侍童が客を取らされることもあります。ナルキッソスもそんな男娼のひとりでした」
 話の内容に違和感をおぼえてディオメデスは口をはさんだ。
「それはいつのことだ?」
「十年以上も前ですよ」
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