想定外の異世界トリップ。希望先とは違いますが…

宵森みなと

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第1話 気づいたら囚われの身なんですけど。

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結局のところ、私は――どうやら騎士団っぽい格好をした人たちに連れていかれるらしい。

いや、"騎士団"と言い切っていいものかどうか、少々悩ましい。あの鎧っぽい装備、そしてこの雑な扱い……。正直、どっちかというと盗賊とか山賊とか、そういうアングラ寄りの人種の可能性が高い。

だって、今まさに私は、馬の前側――要するに「横抱き」で乗せられているんですよ?手足はしっかり縄で縛られ、逃げ出せる気配ゼロ。動いたらバランスを崩して落ちそうだから、仕方なくじっとしてるだけ。

一応これでも、うら若き乙女なんですけど?ほら、あれよ、あれ。清らかな乙女は異世界で生贄になりやすいって、都市伝説系YouTubeで言ってたじゃない?

え、やばくない?てか、もし本当に生贄ルートならどうしよう。

だいたい私は、26歳目前まで真面目に清らかに生きてきたのに、「30歳までに乙女なら異世界フラグかも~♪」なんて半笑いで信じていた自分を、今は殴りたい。もう26じゃん。フラグ立ったとしても、むしろ"ちょっと寝かせた熟成型"の部類。

てか、さっきから頭の中がやたら忙しい。混乱してるのか、考えがぐるぐるとまとまらないまま、馬の揺れに体を預けていると、自然とまぶたが重くなってきて――気づけば私は、すぅっと眠りに落ちていた。

目を開けると、あぁ、これまたテンプレ感満載の牢屋じゃん。鉄パイプのベッド、ネズミ色のシミつき毛布、見事なまでの"異世界の監獄感"フル装備。

本能的に、自分の体を触って確認した。――よし、まだ乙女のままだ。安堵の息を漏らし、しみじみと思う。「今日がスーツじゃなくてマジでよかった……」昨日は出勤日だったから、あのタイトスカートにヒール姿で森なんて歩いてたら、確実に捻挫コースだったわ。

そんなことを考えていると、牢の外からガラの悪い声が飛んできた。

「おい!目が覚めたか。尋問する。大人しく出てこい!」

見ると、さっきのガタイのいい、見るからにゴリ押し系の鎧男。

あれ、言葉通じてる?それとも翻訳魔法的な何か?まあいいや。

「言葉分からないふりでもするか~」なんて脳内で小芝居してたら、

「早くしろ、聞こえてるんだろうが!」と、ドスのきいた怒声。

「……はいはい。怒鳴らなくても聞こえてますよ」

仕方なく立ち上がり、牢の外へ。すぐにまた縄で手を縛られ、背中をドンと押されて歩かされる。

はぁ~……何この対応。マジでイラっとするわ。こちとら、わけも分からず拉致られてんのよ。

通された部屋は、石を積んだだけの粗末な空間。中央に机と椅子がぽつんと置かれていて、まるで時代錯誤の取調室。その机の向こうには、これまた見るからに融通利かなさそうな、眼鏡をかけた中年男が座っていた。

「さて……なぜ、あの場所にいた?」

開口一番、直球の質問。

「いやぁ、仕事から帰ってきて、自宅の扉を開けたら森だったんですよ。で、歩いてたら戻れなくなって……」

「どこから来た?」

「東京都。地球の日本って国の、首都です」

その瞬間、男の表情がピクリと動き、椅子を立ったかと思うと――

ガッと、髪の毛を掴んできた。

「ふざけているのか、この野郎ッ!」

……は?

「ちょっとちょっと!乙女の髪、勝手に掴むんじゃないよ、じじいッ!!」

その瞬間、空気がピキンと凍った。いや、マジで。周囲の騎士たち、固まってるし。

「え?今さら ‘えっ’ って何!?こちとら清らかな女子ですけど!短髪だからって男だとでも思ったの?それこそ差別じゃん!」

怒りに任せて、思わずシャツのボタンを外して脱いでやった。

ブラトップ姿になった私の胸元を見て、周囲の騎士たちは一斉に視線を逸らし、明後日の方向を向き始めた。

「見たか!これが現実よ!」

腕を組み、勝ち誇ったように鼻で息をついた私は、ひとこと――

「何なのさ、ほんと。拉致って尋問って、マジ最悪」

と呆れ顔で荷物の返却を要求した。

さっきのゴリマッチョ騎士が「す、すまん……。女で髪の短い者がいないので……」としどろもどろ。

「そんなんだから、モテないのよ」

とぶつくさ文句を言いながら、シャツを着直して椅子に座り直す。

「で?尋問とやらは、結局何の件だったのかしら?」

半眼で見上げると、メガネのおっさんが咳払いしながら言った。

「……森に、光の柱が立ち上がった。異変の兆候と判断し、駆けつけたところ、君がいた。だから、何者かと思い……名前を聞いてなかったな」

――今更?名前?

「山田花子です」

とりあえず、王道の偽名をサラッと口にする。

「ヤマダ……ハナコ?」

「ハナでいいわ」

本名は花村美咲。ハナと呼ばれても一応は反応できるから、バレにくい。

「年齢は?」

「20歳よ」

6つほどサバを読んでやった。26歳とか言っても誰も得しない。

だが、周囲からはざわつきが聞こえてきた。

「15、6かと思ったが……」
「ならば成人している」
「夫がいるかもしれん……」

振り返ると、開いた扉の向こうにずらりと騎士たちが並んでいた。何この覗き見大会。

「ちょっと!?夫なんていませんし!年齢で結婚迫るって何時代!?っていうか、ここの文化どうなってんの!?」

すると、さっきのメガネおじが淡々と答えた。

「テイゼル王国では、成人は18歳。20歳にもなれば、すでに5人以上の夫を持っていてもおかしくない」

「……え、マジで?」

心が折れる音がした。

「ってことは――やっぱりここ、異世界なんだ……」

ポカンとしたまま、美咲は机に突っ伏した。異世界転移、しかも、よりによって恋愛ファンタジー系。

彼女が一番苦手とするジャンルだった。
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