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第3話 髪は伸びるし風呂は結婚制だし、もう限界です
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朝――と言っても、ここには時計はないから本当に朝かは分からないけど、身体を起こした私は、まず目を疑った。
自分の肩あたりでふわっと揺れる髪。……え、ちょっと待って。
――私、昨日までショートカットだったよね?
触れると確かに、つるんとした髪が、首元から肩、そして鎖骨のあたりまで伸びている。信じられないけど、現実っぽい。
「うそでしょ……1日でここまで伸びるって……日本人形でもそんなスピード出さないわよ……せいぜい1cmよね」
とりあえず鏡を見たい。顔も洗いたい。気持ちを落ち着けなきゃ。
隣を見やると、そこには――そう、しれっと寝息を立てるレインの姿。
……あー、そうだった。昨日、“夫婦は同室で眠るのが当たり前”って意味不明な理屈で、無理やりこの部屋で一緒に寝ることになったんだった。
一応、寝る前に「寝てる間は絶対触れるな」ってクギは刺しておいたけど、やっぱりこれ夢じゃなかったんだ……。
そっと立ち上がり、洗面所を探した。けど、この部屋にはそれらしいものは見当たらない。
「レイン、起きて。顔、洗いたいんだけど……」
声をかけると、彼はパチッと目を開け、そしてまるで別人でも見るかのような目で私を見つめてきた。
「ハナ……なのか?」
「そうよ。寝て起きたら、なぜか髪が伸びてたの。確認したくて鏡がほしいのよ。洗面所はどこ?」
彼はしばらく私をまじまじと見つめてから――
「髪の長いハナは、より一層……可愛い……。それに、その、シャツの隙間から見える素肌が、なんともこう……」
「はいはい、色気づいてる暇があったら鏡の場所教えて」
「この部屋にはない。だが、自分の部屋なら鏡も洗面所もある。案内しよう」
そう言うと彼は、突然シーツを引っ張って私に被せ、ミノムシみたいに包んできた。
「ちょ、ちょっと!何してんのよ!」
「他の男にハナの姿を見せたくないんだ」
そのまま私は、ミノムシのまま横抱きにされ、彼の部屋へと運ばれていった。なんだこれ。
途中、誰にも遭遇しなかったのが不幸中の幸いというべきか。
到着したレインの部屋は、シンプルながら整然としていた。多少の殺風景さはあるけど、清潔感があって意外と好感が持てる。
「……見ないでくれ。なんか、恥ずかしい」
と言うレインの言葉を横目に、私は部屋の中をキョロキョロ見回したあと、ようやく洗面所へ。
鏡の前に立って、改めて自分の姿を見た。
うん。確かに髪が伸びてる。しかも自然なツヤまで出てる。地毛とは思えないぐらい整ってるし、色も黒より少し明るい、ナチュラルな茶。
「若返ってる……?いや、気のせい?」
頬をつまんでも、弾力が違う気がする。顔を洗っても、化粧はほとんど落ちないくらいナチュラルメイクだったけど、それでも肌のツヤが違う気がしてならない。
タオルで顔を拭きながら、やっぱりシャワー浴びたいな……とつぶやいた。
「レイン、シャワーある?お風呂入りたいんだけど」
レインはなぜか困ったような顔をして、
「身体を拭くくらいなら可能だが……お風呂は、男性しか使用できない決まりだ」
「えっ!?湯船あるの?」
「あるにはあるが……女性は使えない」
「え、何それ!差別じゃん!……お願い、誰も使ってない時間でいいから、入りたいの」
私がしがみつくように頼むと、レインは真剣な顔でこう言った。
「じゃあ、婚姻届を出しに行こう。夫婦なら一緒にお風呂に入れるから」
「何で風呂入るのに結婚しなきゃいけないのよ!?」
「普通の女性は、大浴場には入らない。夫婦なら問題ないが……」
ぐぬぬ……なんなんだその文化!じゃあ結婚しないと一生風呂入れないってこと!?
「……じゃあ、シャワーないの?軽く汗流したいだけでも」
「……水で身体を拭く程度なら」
「川は?川とかないの?」
「死にたいのか?川は激流だ」
完全に逃げ道が塞がれた美咲は、無言でレインを見た。もう、こうなったら……。
「……分かった。結婚しましょう」
レインの目が輝く。だが――
「ただし、一発だけ本気で殴らせて」
「……え?」
「今までのは許してあげる。その代わり、全力で一発殴らせて。昨日の無礼の数々、まとめて清算したいの」
レインは苦笑しながら、軽くうなずいた。
「いいですよ。ハナのパンチくらい――」
その瞬間、美咲はにやりと口元を歪めた。
――知らないでしょうね。私が、空手、剣道、柔道、護身術までフルコンプしてるってこと。
父と兄たちに鍛えられ、道場通いは日課。全国大会にも出たことがある。
そして、美咲は何も言わず、腰を落とし、重心を安定させ――
ドンッ!
と一発。全身の体重と怒りを乗せた、完璧なストレートをレインのみぞおちにお見舞いした。
「ぐふっ……」
レインはそのまま、バタンと床に沈んだ。
美咲はその横にしゃがみ込み、
「これでチャラね。さ、婚姻届とやらを出しに行きましょう」
と、淡々と言い放った。
自分の肩あたりでふわっと揺れる髪。……え、ちょっと待って。
――私、昨日までショートカットだったよね?
触れると確かに、つるんとした髪が、首元から肩、そして鎖骨のあたりまで伸びている。信じられないけど、現実っぽい。
「うそでしょ……1日でここまで伸びるって……日本人形でもそんなスピード出さないわよ……せいぜい1cmよね」
とりあえず鏡を見たい。顔も洗いたい。気持ちを落ち着けなきゃ。
隣を見やると、そこには――そう、しれっと寝息を立てるレインの姿。
……あー、そうだった。昨日、“夫婦は同室で眠るのが当たり前”って意味不明な理屈で、無理やりこの部屋で一緒に寝ることになったんだった。
一応、寝る前に「寝てる間は絶対触れるな」ってクギは刺しておいたけど、やっぱりこれ夢じゃなかったんだ……。
そっと立ち上がり、洗面所を探した。けど、この部屋にはそれらしいものは見当たらない。
「レイン、起きて。顔、洗いたいんだけど……」
声をかけると、彼はパチッと目を開け、そしてまるで別人でも見るかのような目で私を見つめてきた。
「ハナ……なのか?」
「そうよ。寝て起きたら、なぜか髪が伸びてたの。確認したくて鏡がほしいのよ。洗面所はどこ?」
彼はしばらく私をまじまじと見つめてから――
「髪の長いハナは、より一層……可愛い……。それに、その、シャツの隙間から見える素肌が、なんともこう……」
「はいはい、色気づいてる暇があったら鏡の場所教えて」
「この部屋にはない。だが、自分の部屋なら鏡も洗面所もある。案内しよう」
そう言うと彼は、突然シーツを引っ張って私に被せ、ミノムシみたいに包んできた。
「ちょ、ちょっと!何してんのよ!」
「他の男にハナの姿を見せたくないんだ」
そのまま私は、ミノムシのまま横抱きにされ、彼の部屋へと運ばれていった。なんだこれ。
途中、誰にも遭遇しなかったのが不幸中の幸いというべきか。
到着したレインの部屋は、シンプルながら整然としていた。多少の殺風景さはあるけど、清潔感があって意外と好感が持てる。
「……見ないでくれ。なんか、恥ずかしい」
と言うレインの言葉を横目に、私は部屋の中をキョロキョロ見回したあと、ようやく洗面所へ。
鏡の前に立って、改めて自分の姿を見た。
うん。確かに髪が伸びてる。しかも自然なツヤまで出てる。地毛とは思えないぐらい整ってるし、色も黒より少し明るい、ナチュラルな茶。
「若返ってる……?いや、気のせい?」
頬をつまんでも、弾力が違う気がする。顔を洗っても、化粧はほとんど落ちないくらいナチュラルメイクだったけど、それでも肌のツヤが違う気がしてならない。
タオルで顔を拭きながら、やっぱりシャワー浴びたいな……とつぶやいた。
「レイン、シャワーある?お風呂入りたいんだけど」
レインはなぜか困ったような顔をして、
「身体を拭くくらいなら可能だが……お風呂は、男性しか使用できない決まりだ」
「えっ!?湯船あるの?」
「あるにはあるが……女性は使えない」
「え、何それ!差別じゃん!……お願い、誰も使ってない時間でいいから、入りたいの」
私がしがみつくように頼むと、レインは真剣な顔でこう言った。
「じゃあ、婚姻届を出しに行こう。夫婦なら一緒にお風呂に入れるから」
「何で風呂入るのに結婚しなきゃいけないのよ!?」
「普通の女性は、大浴場には入らない。夫婦なら問題ないが……」
ぐぬぬ……なんなんだその文化!じゃあ結婚しないと一生風呂入れないってこと!?
「……じゃあ、シャワーないの?軽く汗流したいだけでも」
「……水で身体を拭く程度なら」
「川は?川とかないの?」
「死にたいのか?川は激流だ」
完全に逃げ道が塞がれた美咲は、無言でレインを見た。もう、こうなったら……。
「……分かった。結婚しましょう」
レインの目が輝く。だが――
「ただし、一発だけ本気で殴らせて」
「……え?」
「今までのは許してあげる。その代わり、全力で一発殴らせて。昨日の無礼の数々、まとめて清算したいの」
レインは苦笑しながら、軽くうなずいた。
「いいですよ。ハナのパンチくらい――」
その瞬間、美咲はにやりと口元を歪めた。
――知らないでしょうね。私が、空手、剣道、柔道、護身術までフルコンプしてるってこと。
父と兄たちに鍛えられ、道場通いは日課。全国大会にも出たことがある。
そして、美咲は何も言わず、腰を落とし、重心を安定させ――
ドンッ!
と一発。全身の体重と怒りを乗せた、完璧なストレートをレインのみぞおちにお見舞いした。
「ぐふっ……」
レインはそのまま、バタンと床に沈んだ。
美咲はその横にしゃがみ込み、
「これでチャラね。さ、婚姻届とやらを出しに行きましょう」
と、淡々と言い放った。
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