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第5章 辺境の地へ
12 大事な人
しおりを挟む連れてこられた高齢の医者は、ブライスを厳しい口調で窘めている。
「爺さん、悪かったよ。急いでたんだ、帰りは丁寧に運ぶから、そう怒るな。ほら、患者が待ってるから、診てやってくれ」
医者は、ブライスに背中を押されてベッドまで連れてこられると、そこにはルイーズの側から離れないリオンがいた。
「リオン、そこをどかんか」
医者に退くように言われたリオンは、少しだけ後ろに下がった。それを見て呆れた医者は、ブライスに目配せをして、ベッドから距離を取らせた。
「この子は……、ルイーズちゃんか?……何故ここにいるんだ」
「そんなことは良いから、早く診てくれ」
医者はルイーズの状態を確認すると、リオンの方に向き直った。
「リオン、お前もわかっておるな。あの時の症状と一緒じゃ」
顔を歪ませ、苦しそうな表情のリオンは、気持ちを立て直すべく前を向いた。
「リリーの部屋で、宝石が見つかった。それを手にしてしまったようだ」
「どういうことだ、何故リリーの部屋にそんなもんがあるんじゃ」
「まだ、なにもわからない……そんなことより、ルイーズは大丈夫なのか」
「あの時は、まだ幼かった故に、記憶の一部が抜け落ちたが……二回目だ、経過を見ないとわからん。しばらくは安静じゃ。明日も来るから、起きても無理はさせるなよ」
「わかった」
しばらくの間、リオンは医者と言葉を交わすと、別れ際にリリーの健診も頼んだようだ。明日から、定期的に診察に来てもらう約束を取り付けたことで、リオンの顔から強張りが消えた。
その後、ブライスが医者を連れてリリーの部屋へ向かうと、リオンは三人から質問攻めにあった。
「リオンさん、先ほどのお医者様はお知り合いですか?」
「ああ、そうだ。クレメント家の元専属医で、皆とも顔見知りだ。息子に専属医を引き継いだ後は、市井で診療所を開放している。うちの騎士団員たちも未だに世話になっている」
「そうですか。昔からの知り合いなんですね。だから、ルーちゃんがこの土地で巻き込まれた事件のこともご存じなんですね」
エマからの問いに無言で頷くリオン。
「……自分と出かけている時に…市井で何者かに襲われたんだ」
その時、ブライスに連れられたリアムとエリーがドアの前に立っていた。
「リアムとエリー嬢が、廊下で待っていたぞ。何故、誰も気づかないんだ。可哀そうだろう」
「すまなかった。部屋に入ってくれ」
リオンに呼ばれ、部屋へ足を踏み入れた二人だが、先ほどまでの話が聞こえていたのか少し気まずそうだ。
「お話中にすみません」
「大丈夫だ。二人とも心配してただろうに、配慮が足りずに申し訳なかった。それから、ルイーズの容態だが、しばらくは安静にしておく必要がある。だから……、自分がここで世話をしたいと思う」
「えっ?」「ルイーズ??」
リオンの敬称なしの呼び方を聞いた二人は驚いているようだ。
「名前で呼ぶくらい、姉上と仲が良かったのですか?」
「ああ、結婚の約束もした」
「えっ?」「結婚!?」
リアムとエリーが驚きに目を見開いているそばで、他の四人が疲れた表情をしている。
皆の態度がどうであれ、リオンは至って真剣だ。
「二人とも、大事なところを聞き逃しているわ……リオンさん、ルーちゃんは二人の関係性については覚えていないですよね。それなのに、目覚めたときに知り合ったばかりの男性がいたら驚きます。そういう所、きちんと考えてください」
エマから、もっともなことを言われ、リオンは軽く落ち込んだ。
「リオンさん、ルイーズとは結婚の約束をするほど仲が良かったのですよね。その時のルイーズはどんな感じでしたか?」
エリーの質問に、リオンは昔を思い出しているようだ。
「晴れ渡った空が似合うような女の子だった。一緒に花畑でも遊んだんだ……笑顔が…可愛かった……記憶を失ったと聞いたとき、あの目を曇らせることがあってはいけない、次は必ず守ると決めた。とても大事な人なんだ」
エリーとリアム以外の四人は、リオンの言葉を聞いて唖然としているが、エリーは嬉しそうだ。
「エリー、リオンさんは世話をしたいと言っていたのよ。それについては何とも思わないの?」
「でも、ルイーズを大切に思っている人がいることは、とても嬉しい。それに、本気で守ってくれる人がいることに安心したわ」
エリーの言葉を聞いて、頷くリアム。
「僕も同じ気持ちです。僕がリオンさんと一緒に姉上のお世話をします。それなら良いですよね?」
「……リアム君に言われたら否定できないわよ……」
どうやら、リアムの意見が採用されたようだ。こうしてルイーズのお世話係が決まった。
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