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第5章 辺境の地へ
14 決戦前
しおりを挟む「ああ、入ってくれ」
クロードは部屋へ入るとルイーズに歩み寄った。
「ブラン子爵令嬢、目が覚めたばかりのところ、申し訳ない」
「気にしないでください。それに、呼び方も名前で良いですよ」
「ありがとう。それではルイーズ嬢と呼ばせていただく。ルイーズ嬢、早速だが、ぬいぐるみについて一つ確認させてほしいんだが、良いだろうか」
「はい」
「ルイーズ嬢が倒れた後、ぬいぐるみに布を被せて倉庫に保管してあるんだが、ぬいぐるみから宝石だけを外して、木箱にしまいたいんだ。宝石がどこに付いていたのか教えてもらえるだろうか」
ルイーズは、倒れたときの出来事を思い出すように、ふっと遠くを見つめた。
「無理はするな。今すぐ思い出さなくても良いんだ」
リオンはルイーズを見ながら心配そうに声をかける。
「……いえ、大丈夫です。あの時、どうしてもぬいぐるみが気になって、宝石が付いているか確認していたのですが......赤い宝石は見当たりませんでした。
でも、ぬいぐるみの首元かしら……触ったときに、指先から何だか嫌なものが這い上がってくるような感覚があったんです。断定はできませんが、宝石はぬいぐるみの首に巻かれていたリボンに付いていたのかもしれません」
「リボンか……分かった。ルイーズ嬢、感謝する。それから、リオン。王都からエヴァンス公爵令息が来ている。すぐに執務室にきてくれ」
「キースが……? 分かった。すぐに向かう」
リオンはルイーズとリアムに向き直ると、申し訳なさそうな顔で切り出した。
「すまない、少し出てくる。今日は部屋から出ずにゆっくりしていてほしい。リアム、後は頼んだぞ」
リアムに頼んだ後も、リオンは離れがたいとばかりにその場から動かない。見るに見かねたリアムが、リオンを急かした。
「大丈夫です、任せてください。リオンさんは、早く執務室に行ってください。公爵令息様が待っていますよ」
「……行ってくる」
肩を落としながら部屋を退出するリオンを、リアムとルイーズが見送った。
♢
その頃の執務室では……
「待たせたな、キース。手紙を送って間もないのに、随分早かったな」
「あんな手紙が送られてきたら、来ないわけにはいかないだろう。一人だし、夜通しで馬をとばしてきたんだ。手紙を読んだアレックスも辺境に行くと騒いだが、連れてくるわけにはいかないからな」
「側近のお前が離れても大丈夫だったのか?」
「強い護衛も沢山いるし、アレックスは大丈夫だ。それに……今は王都より、辺境の方が危険だからな。宝石も見つかったし、まだ何が起こるかわからない」
「ああ、確かにな……宝石だが、ルイーズの話では赤い宝石は見当たらなかったそうだが、ぬいぐるみの首に付いているリボンから、嫌な感じがしたそうだ。おそらくだが、今回宝石を使ってリリーを狙った犯人は、一人しか考えられない」
「隣国か? しかし、理由が分からない。何故、いちばん無害そうなリリーを狙ったんだ」
「レアの話では、『兄妹の中で一番母上に似ている』からだそうだ」
「なんだ、その理由は……もしかして、身内か?」
「…………自分が嫁いでくるはずだった、と言っていたそうだ」
そのとき隣で話を聞いていたブライスが途中で口を開いた。
「リオン、親父殿の遠征帰還のパーティーを開くそうだ。お前が帰省することを伝えてすぐに決まったようだ」
「ブライス、それは誰に聞いたんだ? 俺は何も聞いていない」
「ロバートが、ぎりぎりに伝えるように指示されていたらしい」
「——ロバートって、執事のロバートのことか? ここに到着したとき不在だったが、何故クレメント家に忠誠を誓っている者が、そんな奴の指示を聞くんだ」
二人の会話を聞いていたキースが二人に尋ねた。
「キース、ロバートは記憶が曖昧なんだ。今、クロードとブライスに交代で話を聞いてもらっているんだが、話しが噛み合わないときが多いそうだ。半月前にリリーの乳母が休み始めてから、リリーを心配して何度も部屋に行っていたそうだ。多分、宝石の影響を受けたんだろう」
「…………許せないな」
「パーティーなんて出たくないが、いい機会だ。そこで決着をつける」
「そうだな」
キースとリオン、そしてブライスの三人は張り詰めた雰囲気の中、真剣な表情で頷き合った。
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