強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ

文字の大きさ
6 / 7

裏-3

しおりを挟む
 ただいま、我が家。

 何だか大したことはしていないのに疲れた気がする。
 今日は簡単なごはんで済ませてもいいかな。

 手を洗い、居間に戻ってくると、ディオンが静かに泣いていました。

「ディオン?」

 何故そんなにも静かに涙を零しているのだろう。今日はさすがに泣いていいのは私だと思うのに。

 それでも、普段は強面、裏の顔は愛が駄々漏れの困ったこの夫がはらはらと涙を落とす姿は初めてで、どうにも放ってはおけず、つい、その涙に手を伸ばした。

「……俺をおいて行かないでくれ」

 涙を拭おうとした手に縋る様にしながら言われた台詞に、頭の中で疑問符が飛び交ってしまう私はおかしくないと思う。

「なぜ私が貴方を置いていくの?」
「だって……赤子を産むのは命懸けだと言うじゃないか……俺は、お前を失いたくないのに……」

 ……まあ。いつの間にやら私の死が確定していたようです。
 本当にもう、何と言ったらよいのか。

「それで怒っていたのね」
「……怖かったんだ」
「さすがに傷付いたわよ?」
「…悪かった」
「でも、私以上に私のことを大切に考えてくれてありがとう」

 私はただ漠然と子供が欲しいとしか考えてなかった。
 出産のリスクとか、知識はあったけど自分がそうなるかもとは思いもしなかったわ。

「そうよね、出産は命懸けって言うものね」
「……すまん、代わってやれなくて」

 赤ちゃんもこんなゴツい強面さんがママでは可哀想かも。

「あら?でも、避妊してないわよ?」
「…………」
「ディオン?」

 何故顔を背けるの。さては。

「悪い、今まで避妊薬を飲んでいた!」

 やっぱりっ!!

「こら、それはルール違反でしょう?」

 子供に関しては二人で考えるべきことなのに、勝手に避妊するのは駄目だと思う。

「だって!ラシェルに俺達の子供が欲しいって言われたら叶えてあげたくなるじゃないかっ!!君は子供が好きだし!俺だっていつかはって思ったりするけど、でもラシェルを失いたくない!まだそんな覚悟が出来てないんだっ!だから猶予が欲しくて…っ、……本当に悪かった」

 まあ、まだ新婚だし子供がいなくても全然おかしくはない。ただ、一言相談して欲しかった。
 でも、この人は私のお願いを無下に出来ないから。
 うーん、これはお咎め無しかな。

「いつも私の気持ちを大切にしてくれて嬉しい。でも、だからってディオンが我慢するのは嫌よ。
 意見が合わなくたっていいじゃない。そうしたら、どうやったら二人が納得出来るのかとことん話をしましょう?」
「……ラシェルはやっぱり女神……」
「あら、貴方の最愛の妻よ?ね、私の大切な旦那様」
「ラシェル、愛してるっ!!!」

 がばっ!と抱きつかれ、暑苦しいことこの上ないけど仕方がない。仲直りは早い方がいいものね。

「ふふ、ディオン好きよ」

 ビタッ!!!とディオンの動きが止まった。

「ディオン?」

 え、何でそんな驚愕してるの。瞳孔開いてない?
 と思ったらまた大粒の涙がこぼれ落ちた。

「……初めてラシェルが好きだと言ってくれた」

 ん?そうだったかしら?
 ああ、外ではそんな雰囲気にならないし、家ではいつもディオンが愛を垂れ流すから、私から言うことは無かった……かも?

「恋愛結婚じゃないし、俺はこんな顔で口も悪い。だから仕方がないと思って」
「ディオンはカッコイイと思うわ」

 強面だけど。そして口が悪いというより、外での塩対応と家での溺愛の温度差で風邪を引きそうなくらいかな。

「え!?あ、いや、気を使ってくれなくても」
「使ってないわよ?ディオンのお顔は案外好きだもの」

 一見硬派なのに私への愛が止まらない所も面白いし。

「でも、出来れば外でももう少し優しくしてくれるとうれしいのだけど?」

 外での塩対応に慣れたとはいえ、それが心地よいわけではもちろん無い。誰だって優しくしてもらえる方が嬉しいものです。

「……俺がデレデレしていたら気持ちが悪いだろう」

 まあっ!自覚があったとは驚きです。

「家ではいつも見てるわよ?」
「夫婦だからな。妻にはありのままの自分を見せてもいいだろう?」
「なるほど」

 正しいような、……うん、正しいか。

「分かった。じゃあ、これからも私にだけは本当の気持ちを見せてね」
「心得た」

 強面夫の溺愛顔を見ることは、妻だけの特権のようです。







しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

年増令嬢と記憶喪失

くきの助
恋愛
「お前みたいな年増に迫られても気持ち悪いだけなんだよ!」 そう言って思い切りローズを突き飛ばしてきたのは今日夫となったばかりのエリックである。 ちなみにベッドに座っていただけで迫ってはいない。 「吐き気がする!」と言いながら自室の扉を音を立てて開けて出ていった。 年増か……仕方がない……。 なぜなら彼は5才も年下。加えて付き合いの長い年下の恋人がいるのだから。 次の日事故で頭を強く打ち記憶が混濁したのを記憶喪失と間違われた。 なんとか誤解と言おうとするも、今までとは違う彼の態度になかなか言い出せず……

遊び人の侯爵嫡男がお茶会で婚約者に言われた意外なひと言

夢見楽土
恋愛
侯爵嫡男のエドワードは、何かと悪ぶる遊び人。勢いで、今後も女遊びをする旨を婚約者に言ってしまいます。それに対する婚約者の反応は意外なもので…… 短く拙いお話ですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。 このお話は小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】堅物な婚約者には子どもがいました……人は見かけによらないらしいです。

大森 樹
恋愛
【短編】 公爵家の一人娘、アメリアはある日誘拐された。 「アメリア様、ご無事ですか!」 真面目で堅物な騎士フィンに助けられ、アメリアは彼に恋をした。 助けたお礼として『結婚』することになった二人。フィンにとっては公爵家の爵位目当ての愛のない結婚だったはずだが……真面目で誠実な彼は、アメリアと不器用ながらも徐々に距離を縮めていく。 穏やかで幸せな結婚ができると思っていたのに、フィンの前の彼女が現れて『あの人の子どもがいます』と言ってきた。嘘だと思いきや、その子は本当に彼そっくりで…… あの堅物婚約者に、まさか子どもがいるなんて。人は見かけによらないらしい。 ★アメリアとフィンは結婚するのか、しないのか……二人の恋の行方をお楽しみください。

〖完結〗愛しているから、あなたを愛していないフリをします。

藍川みいな
恋愛
ずっと大好きだった幼なじみの侯爵令息、ウォルシュ様。そんなウォルシュ様から、結婚をして欲しいと言われました。 但し、条件付きで。 「子を産めれば誰でもよかったのだが、やっぱり俺の事を分かってくれている君に頼みたい。愛のない結婚をしてくれ。」 彼は、私の気持ちを知りません。もしも、私が彼を愛している事を知られてしまったら捨てられてしまう。 だから、私は全力であなたを愛していないフリをします。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全7話で完結になります。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

わたしの婚約者なんですけどね!

キムラましゅろう
恋愛
わたしの婚約者は王宮精霊騎士団所属の精霊騎士。 この度、第二王女殿下付きの騎士を拝命して誉れ高き近衛騎士に 昇進した。 でもそれにより、婚約期間の延長を彼の家から 告げられて……! どうせ待つなら彼の側でとわたしは内緒で精霊魔術師団に 入団した。 そんなわたしが日々目にするのは彼を含めたイケメン騎士たちを 我がもの顔で侍らかす王女殿下の姿ばかり……。 彼はわたしの婚約者なんですけどね! いつもながらの完全ご都合主義、 ノーリアリティのお話です。 少々(?)イライラ事例が発生します。血圧の上昇が心配な方は回れ右をお願いいたします。 小説家になろうさんの方でも投稿しています。

王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…

ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。 王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。 それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。 貧しかった少女は番に愛されそして……え?

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

処理中です...