アシュリーの願いごと

ましろ

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4.諍い

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「……初夜の夢を見るってどうなの……」

恥ずかしいわ。乙女全開なのか。

でも得したかも。あの時の笑顔は私が一等大好きな彼だから。
記憶にあるよりも鮮明な姿に、懐かしさと愛おしいさが込み上げました。

「親子揃って顔がいいから狡いのよ」

メイドを呼び、身支度を済ませる。

「リオ様は起きていらっしゃるかしら」
「……旦那様はまだお戻りではありません」

失敗したわ。過去の夢に惑わされていてはいけなかった。

「そう。朝食はいらないわ。コーヒーだけ頼める?」
「畏まりました。お部屋でよろしいですか?」
「ええ。飲んだらすぐに出掛けるから」
「では馬車を準備させます」
「ありがとう、宜しくね」

この家の使用人は優秀だわ。お飾りの妻であっても丁寧に扱ってくれるもの。

ゆっくりとコーヒーを飲みながら、今までのことと、これからのことを考える。

……ダメね。感傷的になっているのかしら。
昨日から、昔の事ばかり思い出されるわ。




初夜を迎えてからのリオ様は、一番夫らしい時期であったと思う。

私に照れ臭そうに愛の言葉を囁き、抱きしめ、口付ける。何度も私の体を貪る彼に私は……正直死にそうだった。
彼に抱かれるのは嬉しい。
でも、睡眠時間が足りないのよ!

……これが若さか。

軌道に乗ったといっても、すべてを人任せには出来ないし、打ち合わせ等の時間が決められたものもある。
仕事があるからと言うと、「貴方はいつもそうだ」と責められる。
まさか「仕事と私、どちらが大切なの!」と、夫に言われるとは思いませんでした。

「奥様、生きていますか?」
「…せめて起きていますかにして」

メルヴィンは商会を取り纏める実質的な商会長だ。まだ35歳と若手でありながらトップに立てるだけの洞察力、判断力、人身掌握に長けた人物。

「女の体を知ったばかりの猿はこれだから」

……そして、口が悪い。

「メル、貴方の主はリオ様よ」
「ほとんど商会に顔を出さないハナタレ小僧が主?笑わせるなよ。俺は若奥様に仕えているのだが?」

メルヴィンは完璧なる実力主義の男だ。
彼に認めてもらうまで、どれほど大変だったことか。
だからリオ様ももっと商会に力を入れて欲しいのですが、当主としての仕事はまずは領地のこと。
卒業したばかりのリオ様にあれもこれもは無理なのです。

だから閨を減らそうって言ったら怒っちゃったのよね。

彼が私を求めるのは、愛情表現もあるけど、どちらかというと将来の不安から来ていると思うのです。
今まではただの学生でしたが、戻ってきた途端に伯爵家の当主です。
特に商会の人間は完全に実力主義な上に、すでに私と言う存在がいる。

……そう。私は失敗しました。
今ならお義母様の考えが理解出来ます。私は程々のお飾りでいるべきだった。それなのに頑張り過ぎたから、リオ様の入る場所が無くなってしまいました。
これはツートップの難しさですね。
三年は長い。それも破産の危機すらあった状況から生き残った仲間達です。絆の深さが違う。今更当主だと言われても、仲間では無いと弾かれてしまう。

…それでも、あと一歩踏み込んでくれたら。

残念ながら、リオ様は拒絶されることに耐性がありません。たかが商会の従業員に平身低頭従うなど彼の中ではありえないこと。
一体どうしたら良いのか。

案その一。
とにかく考えずに感じろ!と心を鬼にしてリオ様を商会に放り込む。
でも、彼には当主教育もある為難しい。

案その二。
現状維持。私がこのまま商会の運営をし、もっと安定してから余裕がある状態のリオ様に引き継ぐ。
当主教育が終わり、実践を済ませた1年後が望ましい。

……やっぱり案その二よね。

商会がもっと安定したら、あの排他的な雰囲気も和らぐのではないかしら。

とにかく、早く当主としてひとり立ちして頂き、商会ももっと安定させて、リオ様の定期訪問と重要な案件だけ立ち会えば済むように持っていければ。

そう思っていた矢先に、私は体調を崩しました。
それでも仕事は休めず、そうするとリオ様と言い争う日々で辛い。泣きそうです。

でも。

「……赤ちゃんが?」
「はい。今は3ヶ月に入ったところです。体調の悪さは悪阻ですね。無理に食べようとしないで、体調に合う食事法を探しましょう」

信じられません。だってまだお腹はぺたんこで。何なら最近は体重が減ったくらいでしたのに。

それでも、リオ様に懐妊を伝えると、彼はとても喜んでくれました。

「ありがとう、アシュリー。まさかこんなにも早くに授かれるなんて!」

何度もありがとうと繰り返しながら、私を優しく抱きしめ、キスしてくれます。
よかった。最近諍いが増えていたけれど、こんなにも喜んでくれるなんて。

「私こそありがとうございます、リオ様」

彼をぎゅっと抱きしめ感謝の言葉を伝える。

こうやって色々なことを乗り越えながら夫婦になっていくのだなと、この時は信じていました。






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