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17.演技
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「落ち着いたかしら」
「……はい、申し訳ございません」
すっかりと目元が赤くなってしまったが、話は続けさせてもらわないといけないわ。
「大丈夫だとは言いましたが、愛人が正妻の座を奪えば必ず批判されます」
私の言葉にコーデリア様が居住まいを正しました。
「……私は正妻の座は望んでおりません」
「ですがクィントン伯爵との間で子が出来ればと約束しているでしょう?
それと、私が子供を授かるのは難しいと言うのは本当です。……いえ、産むのが難しいと言った方がいいかしら」
ちらりとマシュー様を見れば、少し難しいお顔をされています。
「アシュリーの場合、出来れば出産は止めておきなさいと言うかな。産めるかもしれないし、最悪母子ともに死ぬ危険性もある。その時になってみないと分からないから」
ですよね。以前もそう言われたもの。
「……では、この子は」
産んでも奪われるかもしれないと思ったのでしょう。両手で守るようにお腹を隠しています。
「まず、一番の問題として、私はもうリオ様に触れられたくありません。だから夫婦ではいられないの」
時間が経てば経つほど、コーデリア様にお会いしてしまえば尚更に裏切られた気持ちが強くなり、夫婦としてやっていくのは無理だと感じてしまう。
「……アシュリー」
そんな声を出すくらいなら。
……いいえ。もうこの話はもういいの。
「ですが、それではアシュリー様が……その、石女だと言われてしまいますわ」
「私はもうウィリアムがいるもの。あの子がいるから何を言われても大丈夫です。
私が貴方に望むことは、ウィリアムを大切に育てること。そして、お義母様にもクィントン伯爵にも好きなようにさせないことよ。
どう?貴方に出来るかしら」
貴方のことを手放しで信じることは難しいわ。だから対策はするつもりだけど、今、この場で誓うことすら出来ないのなら他の方法を探すしかありません。
「……私は、アシュリー様が望む正妻の役をお引き受け致します」
その眼差しは、最初に見たお人形の硝子玉のような瞳とはまったく違っていました。
「ですが、本当によろしいのですか?このままウィリアム様とお別れしてしまって。
……いえ、私が言うべきではないと分かっています。でも……」
そうよね。子供の幸せがどこにあるか。
本当であればここからやり直すべきなのかもしれません。
……愛が無ければよかった。
そうしたら愛人くらい許せたのかしら。
「そうね、少し女同士で話しましょうか」
リオ様とマシュー様には別室に移ってもらい、コーデリア様と二人で色々なことを話し合いました。
これまでのこと、これからのこと、家族への思いなど多くのことを話し合い、またコーデリア様を泣かせてしまいましたが致し方ありません。
「……私は本当に何と愚かなことを」
「そうね。理解してくれてよかったわ」
彼女が強欲なご令嬢では無かったことが救いね。
「先程も言いましたが、私はアシュリー様の思いに報いるためにも、必ずや伯爵夫人として、ウィリアム様の養母としての役を全うさせて頂きます」
涙ながらに誓う言葉は敬虔な信者のようです。
「演じると言うの?」
「はい。この子を救って下さるのであればどんなことでも致します。
これでも演技は得意ですよ。ずっと物静かで、でも両親を尊敬する従順な娘を演じてきましたもの」
コーデリア様は家では虐げられながらも、外ではそのように演じてきたのですね。
「もしかしてリオ様の前でも演技を?」
「……申し訳ありません。嘘と真実を混ぜて、リオ様しか頼る人がいない、恋する哀れな娘を演じておりました」
そうか。その儚げな美少女に貴方しかいないのです……と涙ながらに縋られて絆されてしまったの。
本気の恋と騙された恋。どちらがマシとも言えませんが、何とも複雑な気持ちです。
「私には今まで大切な人はいませんでした。
家族は上辺だけでしたし、学園では婚外子だと馬鹿にされるか、お手軽に抱けると勘違いした男が寄ってくるくらい。
それなのに私に自由は無く、家から逃げられないと思っていたんです。
でも、愛人になって子供を作れと言われて欲が出ました。子供さえ作れば、その子は私を愛してくれるかもしれない。リオ様は何だかんだ言ってもお優しいから、子供が出来てしまえば温かい家庭が手に入るかもしれないと思ってしまったんです。
私はリオ様の甘いところと、お顔が良いところを利用してしまいました。
お詫びの仕様もございません」
……見た目ほど儚げではなかったみたいね。
リオ様の顔って。まあ、どうせなら見目麗しい子供の方が良かったということ?分からないでもないけど。
でも、これくらいならお義母様とも戦えるかしら。
「……ウィリアムを愛せる?」
「アシュリー様への尊敬と感謝の思いを持ってお育て致しますわ」
その真摯な瞳に嘘は無いのでしょう。
「私の願いはリオ様に幸せな家庭を作って差し上げることでした」
私の言葉に、コーデリア様が一瞬瞳を揺らしましたが、視線を逸らすことなく真剣に聞いている。
「……今の私の願いは、リオ様が立派な当主として、そして父親として成長すること。そして、ウィリアムが皆に愛されながら幸せに暮らすことです。
──貴方に託してもいいかしら」
「はい。確かに拝命致しました」
変ね。私はいつからコーデリア様の上官になったのでしょうか。
「ですが、私はウィリアム様の養母です。
アシュリー様という素晴らしいお母様がいることを隠す気はございません。
ですからアシュリー様は必ず会いに来て下さい。そして、ウィリアム様がいつの日か本当のお母様と暮らすことを望んだら、必ず受け入れてあげて下さいませ」
そんな日がいつか来るでしょうか。
「……そうね。いつか……」
夢見るくらいは許されるでしょうか。
「……はい、申し訳ございません」
すっかりと目元が赤くなってしまったが、話は続けさせてもらわないといけないわ。
「大丈夫だとは言いましたが、愛人が正妻の座を奪えば必ず批判されます」
私の言葉にコーデリア様が居住まいを正しました。
「……私は正妻の座は望んでおりません」
「ですがクィントン伯爵との間で子が出来ればと約束しているでしょう?
それと、私が子供を授かるのは難しいと言うのは本当です。……いえ、産むのが難しいと言った方がいいかしら」
ちらりとマシュー様を見れば、少し難しいお顔をされています。
「アシュリーの場合、出来れば出産は止めておきなさいと言うかな。産めるかもしれないし、最悪母子ともに死ぬ危険性もある。その時になってみないと分からないから」
ですよね。以前もそう言われたもの。
「……では、この子は」
産んでも奪われるかもしれないと思ったのでしょう。両手で守るようにお腹を隠しています。
「まず、一番の問題として、私はもうリオ様に触れられたくありません。だから夫婦ではいられないの」
時間が経てば経つほど、コーデリア様にお会いしてしまえば尚更に裏切られた気持ちが強くなり、夫婦としてやっていくのは無理だと感じてしまう。
「……アシュリー」
そんな声を出すくらいなら。
……いいえ。もうこの話はもういいの。
「ですが、それではアシュリー様が……その、石女だと言われてしまいますわ」
「私はもうウィリアムがいるもの。あの子がいるから何を言われても大丈夫です。
私が貴方に望むことは、ウィリアムを大切に育てること。そして、お義母様にもクィントン伯爵にも好きなようにさせないことよ。
どう?貴方に出来るかしら」
貴方のことを手放しで信じることは難しいわ。だから対策はするつもりだけど、今、この場で誓うことすら出来ないのなら他の方法を探すしかありません。
「……私は、アシュリー様が望む正妻の役をお引き受け致します」
その眼差しは、最初に見たお人形の硝子玉のような瞳とはまったく違っていました。
「ですが、本当によろしいのですか?このままウィリアム様とお別れしてしまって。
……いえ、私が言うべきではないと分かっています。でも……」
そうよね。子供の幸せがどこにあるか。
本当であればここからやり直すべきなのかもしれません。
……愛が無ければよかった。
そうしたら愛人くらい許せたのかしら。
「そうね、少し女同士で話しましょうか」
リオ様とマシュー様には別室に移ってもらい、コーデリア様と二人で色々なことを話し合いました。
これまでのこと、これからのこと、家族への思いなど多くのことを話し合い、またコーデリア様を泣かせてしまいましたが致し方ありません。
「……私は本当に何と愚かなことを」
「そうね。理解してくれてよかったわ」
彼女が強欲なご令嬢では無かったことが救いね。
「先程も言いましたが、私はアシュリー様の思いに報いるためにも、必ずや伯爵夫人として、ウィリアム様の養母としての役を全うさせて頂きます」
涙ながらに誓う言葉は敬虔な信者のようです。
「演じると言うの?」
「はい。この子を救って下さるのであればどんなことでも致します。
これでも演技は得意ですよ。ずっと物静かで、でも両親を尊敬する従順な娘を演じてきましたもの」
コーデリア様は家では虐げられながらも、外ではそのように演じてきたのですね。
「もしかしてリオ様の前でも演技を?」
「……申し訳ありません。嘘と真実を混ぜて、リオ様しか頼る人がいない、恋する哀れな娘を演じておりました」
そうか。その儚げな美少女に貴方しかいないのです……と涙ながらに縋られて絆されてしまったの。
本気の恋と騙された恋。どちらがマシとも言えませんが、何とも複雑な気持ちです。
「私には今まで大切な人はいませんでした。
家族は上辺だけでしたし、学園では婚外子だと馬鹿にされるか、お手軽に抱けると勘違いした男が寄ってくるくらい。
それなのに私に自由は無く、家から逃げられないと思っていたんです。
でも、愛人になって子供を作れと言われて欲が出ました。子供さえ作れば、その子は私を愛してくれるかもしれない。リオ様は何だかんだ言ってもお優しいから、子供が出来てしまえば温かい家庭が手に入るかもしれないと思ってしまったんです。
私はリオ様の甘いところと、お顔が良いところを利用してしまいました。
お詫びの仕様もございません」
……見た目ほど儚げではなかったみたいね。
リオ様の顔って。まあ、どうせなら見目麗しい子供の方が良かったということ?分からないでもないけど。
でも、これくらいならお義母様とも戦えるかしら。
「……ウィリアムを愛せる?」
「アシュリー様への尊敬と感謝の思いを持ってお育て致しますわ」
その真摯な瞳に嘘は無いのでしょう。
「私の願いはリオ様に幸せな家庭を作って差し上げることでした」
私の言葉に、コーデリア様が一瞬瞳を揺らしましたが、視線を逸らすことなく真剣に聞いている。
「……今の私の願いは、リオ様が立派な当主として、そして父親として成長すること。そして、ウィリアムが皆に愛されながら幸せに暮らすことです。
──貴方に託してもいいかしら」
「はい。確かに拝命致しました」
変ね。私はいつからコーデリア様の上官になったのでしょうか。
「ですが、私はウィリアム様の養母です。
アシュリー様という素晴らしいお母様がいることを隠す気はございません。
ですからアシュリー様は必ず会いに来て下さい。そして、ウィリアム様がいつの日か本当のお母様と暮らすことを望んだら、必ず受け入れてあげて下さいませ」
そんな日がいつか来るでしょうか。
「……そうね。いつか……」
夢見るくらいは許されるでしょうか。
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