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18.コーデリアの贖罪
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私は生まれながらに罪人らしい。
それがいつ言われた言葉なのかは覚えていない。
でも、記憶の中のお嬢様が随分と幼いから、たぶん私が3歳くらいだったのではないかしら。
「お前がいるせいでお母様が泣くの!この泥棒!」
泥棒。人のものを盗むこと。
ちゃんと調べたわ。私は何時、何を盗んだの?
貴族の子供は貴族。平民の子供は平民。そして、罪人の子供は罪人、らしい。
お母様がお嬢様のお父様を奪った。
だからその娘の私も泥棒なのだ。
私は考えた。では如何すればいいのか。
──従順であれ。
それが答えだった。
何を言われようとも引き取ってもらえたことに感謝し、勉学に励み、たおやかに微笑む。それが私に求められる全てであった。
そうして、外観を磨き上げ、知識を詰め込み、婚外子でありながらも、有能で美しい従順な令嬢が出来上がった。
そうすれば食事を抜かれることはなく、足裏を鞭打たれることもなく。
ただ、退屈で飢えることのない如何でもいい世界が続くだけだ。
何の為に生きているのだろう。
そんなことを考えながらも、餓えの苦しさが無いだけマシだと思うしかなかった。
そんな私を買い取る先が現れたのは、18歳になったばかり。最終学年になった年だった。
「愛人、ですか」
さすがに動揺してしまった。ここまで作り上げてきたのに、たかが愛人だなんて。
「ただの愛人ではない。子を身籠れば正妻だ!
そうすれば、あの商会を手に入れられる!」
私を愛人に迎えるスペンサー伯爵家は大きな商会を持っているらしい。
一度は潰れかけた事業を今の奥様が立て直したそうだ。
そんなにも優秀な方を捨ててしまうと言うのだから驚きだ。
田舎の子爵令嬢であることが気に入らないらしい。私は伯爵令嬢と言っても婚外子なのにね。
更に呆れたのは、それを決定したのは当主ではなく、その母親が仕組んでいるらしいのだ。
無能な当主に強欲な母。それに気が付かない鈍感な妻。そしてそんな中に投じられる操り人形。
それはどんな三文芝居なのか。
「……くだらない」
お茶会に現れたのは、まるで王子様のように麗しい男性だった。
(脂ぎったおデブじゃないだけマシ)
感想はその程度。媚薬が入ったお茶を飲んだ男は手荒く私を抱いた。
ろくに慣らしもせず性急に捩じ込まれ、ただ只管に痛かった。
痛い、痛いっ!こんな行為の何が嬉しいの。
そう思いながらも、「好きです」「お慕いしています」と囁く。
心の中ではお願いだから早く解放してと願いながら。
残念ながら子を授かることは出来なかった。
でも、その男はその後も私を抱いた。
私は相変わらず気持ち良さなど欠片も感じることは無く、いつも痛みに辟易しながらも愛の言葉を囁く。
「すき」「愛されなくてもいいの」「側にいれたら幸せ」
そんな心にもない言葉を唱え続ける日々。
「お前なんか愛していない」
そう言いながらも、必死に腰を振る男が滑稽過ぎて思わず笑ってしまった。
妻を愛していると言いながら私を抱く馬鹿な人。
私が快楽など欠片も感じずいることにすら気付かないのだから如何しようもない。
そんなだから奥様の心が手に入らないのだと心のうちで笑う。
男の良いところは、顔と、暴力を振るわないことだけだ。
──顔か。
男はとりあえず顔だけは良い。
こんな男の子種なら、きっと美しい子供が産まれるのではないかしら?
だから聞いてみた。子供は誰に似ているのか。
「ウィリアムは妻にそっくりだ」
最愛の妻に似ているなら良かったのでは?
そう思うのに暗い表情。どうやら妻の不貞を疑っているらしい。
(貴方は何度私を抱いていると思っているの)
あまりにも愚かな発言に笑いを噛み殺すのが大変だった。
でも、ふと考える。
彼との子供が授かれたら、彼そっくりの子が産まれたら、私を愛してくれるかしら?
…ううん。彼は奥様を愛している。
では、赤ちゃんは?
私が産み育てた赤ちゃんならば、私のことを愛してくれるのではないか。
その考えは私に大きな衝撃を与えた。
愛し、愛される存在。
子を身籠れば、そんな宝物が手に入る?
それはあまりにも甘美な誘惑だった。
だから彼の奥様のことなんて考えなかった。
だって、私にとって他人とは私を見下し、傷付ける人達だから。
私はもう、赤ちゃんのことしか考えられなくなっていた。
それがどれ程罪深いことなのか考えることが出来なかった。
本当に愚かだった。
それがいつ言われた言葉なのかは覚えていない。
でも、記憶の中のお嬢様が随分と幼いから、たぶん私が3歳くらいだったのではないかしら。
「お前がいるせいでお母様が泣くの!この泥棒!」
泥棒。人のものを盗むこと。
ちゃんと調べたわ。私は何時、何を盗んだの?
貴族の子供は貴族。平民の子供は平民。そして、罪人の子供は罪人、らしい。
お母様がお嬢様のお父様を奪った。
だからその娘の私も泥棒なのだ。
私は考えた。では如何すればいいのか。
──従順であれ。
それが答えだった。
何を言われようとも引き取ってもらえたことに感謝し、勉学に励み、たおやかに微笑む。それが私に求められる全てであった。
そうして、外観を磨き上げ、知識を詰め込み、婚外子でありながらも、有能で美しい従順な令嬢が出来上がった。
そうすれば食事を抜かれることはなく、足裏を鞭打たれることもなく。
ただ、退屈で飢えることのない如何でもいい世界が続くだけだ。
何の為に生きているのだろう。
そんなことを考えながらも、餓えの苦しさが無いだけマシだと思うしかなかった。
そんな私を買い取る先が現れたのは、18歳になったばかり。最終学年になった年だった。
「愛人、ですか」
さすがに動揺してしまった。ここまで作り上げてきたのに、たかが愛人だなんて。
「ただの愛人ではない。子を身籠れば正妻だ!
そうすれば、あの商会を手に入れられる!」
私を愛人に迎えるスペンサー伯爵家は大きな商会を持っているらしい。
一度は潰れかけた事業を今の奥様が立て直したそうだ。
そんなにも優秀な方を捨ててしまうと言うのだから驚きだ。
田舎の子爵令嬢であることが気に入らないらしい。私は伯爵令嬢と言っても婚外子なのにね。
更に呆れたのは、それを決定したのは当主ではなく、その母親が仕組んでいるらしいのだ。
無能な当主に強欲な母。それに気が付かない鈍感な妻。そしてそんな中に投じられる操り人形。
それはどんな三文芝居なのか。
「……くだらない」
お茶会に現れたのは、まるで王子様のように麗しい男性だった。
(脂ぎったおデブじゃないだけマシ)
感想はその程度。媚薬が入ったお茶を飲んだ男は手荒く私を抱いた。
ろくに慣らしもせず性急に捩じ込まれ、ただ只管に痛かった。
痛い、痛いっ!こんな行為の何が嬉しいの。
そう思いながらも、「好きです」「お慕いしています」と囁く。
心の中ではお願いだから早く解放してと願いながら。
残念ながら子を授かることは出来なかった。
でも、その男はその後も私を抱いた。
私は相変わらず気持ち良さなど欠片も感じることは無く、いつも痛みに辟易しながらも愛の言葉を囁く。
「すき」「愛されなくてもいいの」「側にいれたら幸せ」
そんな心にもない言葉を唱え続ける日々。
「お前なんか愛していない」
そう言いながらも、必死に腰を振る男が滑稽過ぎて思わず笑ってしまった。
妻を愛していると言いながら私を抱く馬鹿な人。
私が快楽など欠片も感じずいることにすら気付かないのだから如何しようもない。
そんなだから奥様の心が手に入らないのだと心のうちで笑う。
男の良いところは、顔と、暴力を振るわないことだけだ。
──顔か。
男はとりあえず顔だけは良い。
こんな男の子種なら、きっと美しい子供が産まれるのではないかしら?
だから聞いてみた。子供は誰に似ているのか。
「ウィリアムは妻にそっくりだ」
最愛の妻に似ているなら良かったのでは?
そう思うのに暗い表情。どうやら妻の不貞を疑っているらしい。
(貴方は何度私を抱いていると思っているの)
あまりにも愚かな発言に笑いを噛み殺すのが大変だった。
でも、ふと考える。
彼との子供が授かれたら、彼そっくりの子が産まれたら、私を愛してくれるかしら?
…ううん。彼は奥様を愛している。
では、赤ちゃんは?
私が産み育てた赤ちゃんならば、私のことを愛してくれるのではないか。
その考えは私に大きな衝撃を与えた。
愛し、愛される存在。
子を身籠れば、そんな宝物が手に入る?
それはあまりにも甘美な誘惑だった。
だから彼の奥様のことなんて考えなかった。
だって、私にとって他人とは私を見下し、傷付ける人達だから。
私はもう、赤ちゃんのことしか考えられなくなっていた。
それがどれ程罪深いことなのか考えることが出来なかった。
本当に愚かだった。
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