きっと世界は美しい

木原あざみ

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24.恒星(4)

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「それにしても、いきなりイメージ変わったねぇ。どうしたの? もしかして葵くんにやってもらったとか?」
「いや……」
「あ、そうだったね。葵くん、今、長期のバイトに行ってるんだっけ」
「――え?」
「あれ。違ったかな? たしか、そう言ってた気がするんだけど。真木くんは来てなかったけど、テストのあとに飲み会あったでしょ。そのときに言ってたよ。長期の……なんだっけ、ほら、泊まり込みてきな? そういうバイト入れちゃったから、夏休みは遊べないって」

 そう言われると、この数日、隣の部屋から生活音が聞こえていなかったことに気がついた。

 ――なんだよ。

 仲違いをしているから知らなくても無理はないのに、悠生はささくれ立つ気持ちを抑えることができなかった。俺は、そんな話、聞いてない。
 それなのに、悠生の口からはまったく違う言葉がこぼれ落ちていた。

「そういや、言ってたかも」
「だよね、よかった。と言っても、私もはっきりした場所とかは知らないんだけどさ。葵くんって、案外、秘密主義なところあるよね」

 何気ない言葉だったのだろうが、なぜかそれは悠生の中に深く突き刺さった。
 たしかに笹原にはそういうところがあった。聞き上手で、ついついこちらは余計なことまで話してしまうのに、笹原自身のことは実はあまり知らない、というような。

「ごめん。もう授業始まっちゃうね」

 準備の邪魔しちゃってごめんね。そう笑って、玉井も問題集を選んで、いくつかをコピーしていく。溜息を飲み込んで悠生もそっと視線を手元に落とした。そのまま本を閉じて、書棚に戻す。

「あ、真木くん」

 立ち去ろうとした悠生の背に、声がかかる。

「次のコマで今日は終わり? だったら、そのあと一緒にご飯でも行かない?」
「いや、……」
「二人じゃなくて。ほかの先生も誘うから。よかったら」

 愛想よく続けられて、悠生は躊躇のあと、首をぎこちなく縦に振った。断り続けていたら、こんな格好になった意味はたぶんないのだろう。交流して、友達をつくって、明るくふるまって。
 そうすれば、後期の授業が始まるころには、笹原にも普通の顔で笑うことができるだろうか。

 ――そもそも、普通ってなんだ? 

 中学生のようなことを思案した自分に、数学の問題を生徒が解くのを待ちながら、悠生は内心で苦く笑った。
 普通もなにも、そもそも笹原の前で笑っていたかどうかも定かではない。不愛想な自覚はあるのだ。けれど。

 ――でも、それでも、あいつは俺の隣が楽だって言ってくれてたんだよな。

 その優しさにずぶずぶと甘えていた結果が、今なのだとすれば、どうしようもないような気もするけれど。
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