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23.恒星(3)
「あれ、嘘。……え? もしかして、真木くん?」
戸惑い気味に語尾が揺れたのは、かろうじて同級生と認識していても悠生の名前を呼んだことがなかったからだろう。
アルバイトをすることになった塾の講師の控え室で、次の授業の準備をしていたさなかにかけられた声に、テキストから視線を上げる。その先にいたのは、一人の女性だった。
見覚えがある気はするものの、名前が出てこない。そんな悠生に気を悪くしたふうでもなく、彼女は矢継ぎ早に喋り始めた。
「私、春からずっとこの塾でバイトしてるんだ。夏期講習とかがあるから、夏休みの期間中はバイトさんも増えるって聞いてて。それで、うちの大学の子も来るよって教えてもらってたから、真木くんの名前も聞いてたんだけど、イメージ変わってるからびっくりしちゃった! 真木くんが来るって聞いてなかったら気づかなかったかも。どうしちゃったの? あ、私の名前、わかる?」
よく動く口だなぁと半ば感心しながら見守っていたところに問いかけられ、悠生はまごついた。その視線が彼女の首元から垂れ下がっているネームプレートに辿り着き、ほっとした気分で見たままを口にする。
「玉井、さん」
「そう、そう。よかった。知っててくれて。たまちゃんでいいよ。みんなそう呼ぶから」
にこ、と人当たりよく笑う顔に、どう応じるべきかわからないまま、悠生は曖昧に首を傾げた。
人は見た目が九割だなんて言うけれど。今までと同じ仕草をしていても、以前だったら「暗い」「なにを考えているかわからない」と評されたものが「クール」だの「かわいい」だのに変わるのだから、真実を突いているな、と思う。
彼女のことではなく、この数日の塾での出会いにおける経験談だ。
「私も真木くんのこと名前で呼んでいい? 葵くんがよく『悠生』って呼んでるから。仲良いんだなって思って見てたんだ」
「いや」
期待に揺れる瞳から視線を逸らしたくなりつつも、悠生は続けた。「名字で」
「なんか、慣れてないから」
嘘だ。本当は名字で呼ばれるほうがずっと嫌いだった。けれど、なぜか下の名前で呼ばれたくなかった。
「わかった。じゃあ、真木くんね」
ほほえむ顔は人当たり良く、感じのいいものだった。それなのに身構えてしまうのは、自分の性分か。
――いや、今まで、コミュニケーションを避けてきたツケだよな。
変えていかなければ駄目だ。何度目になるのかわからないことを言い聞かせ、悠生は構わないという意思表示で頷いてみせた。ほっと彼女――玉井が相好を崩す。やはり自分はとっつきにくいのだろう。
戸惑い気味に語尾が揺れたのは、かろうじて同級生と認識していても悠生の名前を呼んだことがなかったからだろう。
アルバイトをすることになった塾の講師の控え室で、次の授業の準備をしていたさなかにかけられた声に、テキストから視線を上げる。その先にいたのは、一人の女性だった。
見覚えがある気はするものの、名前が出てこない。そんな悠生に気を悪くしたふうでもなく、彼女は矢継ぎ早に喋り始めた。
「私、春からずっとこの塾でバイトしてるんだ。夏期講習とかがあるから、夏休みの期間中はバイトさんも増えるって聞いてて。それで、うちの大学の子も来るよって教えてもらってたから、真木くんの名前も聞いてたんだけど、イメージ変わってるからびっくりしちゃった! 真木くんが来るって聞いてなかったら気づかなかったかも。どうしちゃったの? あ、私の名前、わかる?」
よく動く口だなぁと半ば感心しながら見守っていたところに問いかけられ、悠生はまごついた。その視線が彼女の首元から垂れ下がっているネームプレートに辿り着き、ほっとした気分で見たままを口にする。
「玉井、さん」
「そう、そう。よかった。知っててくれて。たまちゃんでいいよ。みんなそう呼ぶから」
にこ、と人当たりよく笑う顔に、どう応じるべきかわからないまま、悠生は曖昧に首を傾げた。
人は見た目が九割だなんて言うけれど。今までと同じ仕草をしていても、以前だったら「暗い」「なにを考えているかわからない」と評されたものが「クール」だの「かわいい」だのに変わるのだから、真実を突いているな、と思う。
彼女のことではなく、この数日の塾での出会いにおける経験談だ。
「私も真木くんのこと名前で呼んでいい? 葵くんがよく『悠生』って呼んでるから。仲良いんだなって思って見てたんだ」
「いや」
期待に揺れる瞳から視線を逸らしたくなりつつも、悠生は続けた。「名字で」
「なんか、慣れてないから」
嘘だ。本当は名字で呼ばれるほうがずっと嫌いだった。けれど、なぜか下の名前で呼ばれたくなかった。
「わかった。じゃあ、真木くんね」
ほほえむ顔は人当たり良く、感じのいいものだった。それなのに身構えてしまうのは、自分の性分か。
――いや、今まで、コミュニケーションを避けてきたツケだよな。
変えていかなければ駄目だ。何度目になるのかわからないことを言い聞かせ、悠生は構わないという意思表示で頷いてみせた。ほっと彼女――玉井が相好を崩す。やはり自分はとっつきにくいのだろう。
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