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神様、仏様。縁を結んでくださるなら隣にいるちさちゃん以外で、ぜひ、何卒よろしくお願いします――。
航平の心を聞ける人がいたのなら、二人きりで来ておきながら何を不謹慎なと怒り出すことだろう。
しかし、当の本人は切実かつ真剣に祈っていた。
航平がちさと出会ったのは数ヶ月前、嫌々行った合コン。
友人がちさの親友に入れ込んでいて、航平も彼の顔を立てようと、ちさのお誘いに応じているうちになぜだか彼氏のように扱われるようになってしまった。
今日の初詣だって誘いがなければ、午前中いっぱいはゆっくり惰眠をむさぼり、ゆっくり近所の神社を参拝した後に、ダラダラと缶ビール片手にお正月番組を楽しむかサブスクで去年話題だった映画を見るつもりでいた。
それがクリスマスイブにちさと二人でレストランを予約して出かけた際、「航くん、実家帰らないんだって?ねえ、初詣行こ。ここ、恋愛のパワースポットで、二人で行くと別れないんだって」という地獄のような一言でひっくり返った。
人間関係に器用ではない航平は、自分の予定を把握している相手への断り文句が瞬時に浮かばなかった。
もちろん、そんな調子のちさから告白のようなものを受けた記憶は一切ない。キスだってしたことがない。
航平としてもこの状況をなんとか、それもまだ口説いている最中だという友達の恋も邪魔しないよう、平和に打開したい気持ちでいっぱいだった。
しかし現実は厳しく、初詣の後も航平はちさと一緒に食べ歩きをするハメになってしまう。
身体はそうでもないのに心にどっと疲れを感じつつ、それでも爽やかな笑みを浮かべ、航平はちさの家の最寄り駅まで彼女を送って別れた。
「あー……。しんど」
駅の改札を抜けると思わず本音が口をついてしまう。
航平としてもいい人でいるのは気持ちがいいが、それが自分の望まない方向にどんどん進むのは気が重い。
早々に暮れゆく空の藍色とも瑠璃色とも言えない暗さが自分の心と重なって、電車を待っている間三回ほどため息が溢れていった。
電車に乗ってポツポツと明かりが灯る街を眺めても航平の気分は晴れない。むしろこのまま帰るのが虚しいようにも感じられてくる。
一人きりでビールを飲むのもなんだか嫌で、思わず繁華街のある途中駅で下車してしまう。
きっとそこの華やかな雰囲気を浴びれば自分の気持ちも少しは前向きになるような予感が催眠術のように航平のテンションを上げていった。
しかし、駅前通りは残酷にも航平の気持ちを裏切った。いつもは日付が変わる頃までにぎやかな街は、ゴーストタウンかというほど意気消沈している。
あまり外で飲むことがない航平は、初めて元日の繁華街が暗いことを知った。
今日は何一つ思い通りにならないと、航平の気持ちが通りの片隅に申し訳程度にできる影のように暗くなる。
肩をがっくりと落としながら、それでもあきらめることもできず、とぼとぼと駅を背に歩き始める。
人っ子一人どころか、猫一匹も見当たらない。
仕方なくファミレスで一杯やるしかないかと諦めたとき、航平の目に細い路地から一筋の光が差しているのが映る。
目を凝らすと、おしゃれなカフェのようにも見える佇まいの店だ。
看板が出ているので開店はしているのだろうが、おおよそエイヒレやいたわさなど出てきそうにもない外観に航平も迷う。正直おしゃれな雰囲気はお腹いっぱいだ。
しかし、他に店がやっている雰囲気もなく、そしてこのまま自宅に帰る気分でもない。
ふわっと冷たい空気が背中をかすめた瞬間、他にもう選択肢がないような気がして、航平はその店へと歩を進めた。
航平の心を聞ける人がいたのなら、二人きりで来ておきながら何を不謹慎なと怒り出すことだろう。
しかし、当の本人は切実かつ真剣に祈っていた。
航平がちさと出会ったのは数ヶ月前、嫌々行った合コン。
友人がちさの親友に入れ込んでいて、航平も彼の顔を立てようと、ちさのお誘いに応じているうちになぜだか彼氏のように扱われるようになってしまった。
今日の初詣だって誘いがなければ、午前中いっぱいはゆっくり惰眠をむさぼり、ゆっくり近所の神社を参拝した後に、ダラダラと缶ビール片手にお正月番組を楽しむかサブスクで去年話題だった映画を見るつもりでいた。
それがクリスマスイブにちさと二人でレストランを予約して出かけた際、「航くん、実家帰らないんだって?ねえ、初詣行こ。ここ、恋愛のパワースポットで、二人で行くと別れないんだって」という地獄のような一言でひっくり返った。
人間関係に器用ではない航平は、自分の予定を把握している相手への断り文句が瞬時に浮かばなかった。
もちろん、そんな調子のちさから告白のようなものを受けた記憶は一切ない。キスだってしたことがない。
航平としてもこの状況をなんとか、それもまだ口説いている最中だという友達の恋も邪魔しないよう、平和に打開したい気持ちでいっぱいだった。
しかし現実は厳しく、初詣の後も航平はちさと一緒に食べ歩きをするハメになってしまう。
身体はそうでもないのに心にどっと疲れを感じつつ、それでも爽やかな笑みを浮かべ、航平はちさの家の最寄り駅まで彼女を送って別れた。
「あー……。しんど」
駅の改札を抜けると思わず本音が口をついてしまう。
航平としてもいい人でいるのは気持ちがいいが、それが自分の望まない方向にどんどん進むのは気が重い。
早々に暮れゆく空の藍色とも瑠璃色とも言えない暗さが自分の心と重なって、電車を待っている間三回ほどため息が溢れていった。
電車に乗ってポツポツと明かりが灯る街を眺めても航平の気分は晴れない。むしろこのまま帰るのが虚しいようにも感じられてくる。
一人きりでビールを飲むのもなんだか嫌で、思わず繁華街のある途中駅で下車してしまう。
きっとそこの華やかな雰囲気を浴びれば自分の気持ちも少しは前向きになるような予感が催眠術のように航平のテンションを上げていった。
しかし、駅前通りは残酷にも航平の気持ちを裏切った。いつもは日付が変わる頃までにぎやかな街は、ゴーストタウンかというほど意気消沈している。
あまり外で飲むことがない航平は、初めて元日の繁華街が暗いことを知った。
今日は何一つ思い通りにならないと、航平の気持ちが通りの片隅に申し訳程度にできる影のように暗くなる。
肩をがっくりと落としながら、それでもあきらめることもできず、とぼとぼと駅を背に歩き始める。
人っ子一人どころか、猫一匹も見当たらない。
仕方なくファミレスで一杯やるしかないかと諦めたとき、航平の目に細い路地から一筋の光が差しているのが映る。
目を凝らすと、おしゃれなカフェのようにも見える佇まいの店だ。
看板が出ているので開店はしているのだろうが、おおよそエイヒレやいたわさなど出てきそうにもない外観に航平も迷う。正直おしゃれな雰囲気はお腹いっぱいだ。
しかし、他に店がやっている雰囲気もなく、そしてこのまま自宅に帰る気分でもない。
ふわっと冷たい空気が背中をかすめた瞬間、他にもう選択肢がないような気がして、航平はその店へと歩を進めた。
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