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第十話 ペンギン、情けをかける(情けは人のためならずって話) その1
しおりを挟む一昨日、ジョアンが帰ってきた時に抱えていた本は植物辞典だった。
家で妹達とジョアンが植物辞典を見ているときに、オレは解毒草がそこに絵入りで乗っているのを見かけて、これだと思った。
そして昨日、オレはデミと一緒に薬草摘みに行く際に、ムリヤリ本を奪ってジョアンを同行させた。
ジョアンは「何でこんな大きな本を持って歩かないといけないの」とブツブツ文句を言いながらも、実際の植物と本の絵を比べるのが楽しくなってきたようだ。
そんな時にオレはジョアンに一つの植物を渡した。
「ん、ペンペン何これ? 」
それは、あの薬師が雑草と言っていたあの薬草だ。
「ああ、それ雑草よ。薬草の傍に生えてると良くないって薬師のおじさんが言ってたのよ。ペンペンは覚えていたのね。ジョアンもそれ抜くの手伝ってよ」
デミがオレの意図を間違えて伝える。
「グアー…略…(そうじゃないんだよ)」
「なんだよ」
「多分お腹減ってるんだよ。あたし判るんだ」
デミがドヤ顔でジョアンにない胸を張る。
「グアー…略…(そうじゃないって言ってんだよ)」
オレは口ばしでデミの脚を突いてやる。
「違った。遊んで欲しかったんだ」
なぜ脚を突くと遊んで欲しいということになるんだ?
仕方なく、持ってこさせた植物辞典を自分で広げて、
「ゴーゴー(ここだここ! )」
と、その雑草が描かれているページをペシペシ叩いてやった。
「お姉ちゃん、これ雑草じゃないんじゃない?」
ジョアンがそれに気がつくのにそれほど時間はかからなかった。
「ホラここ見てよ、これそっくりだよ。ドクキエ草っていう解毒効果がある薬草だって」
「え、本当? この辞書間違ってんじゃないの? 」
「え~神父さんのところから借りた高い本だよ。ホラ、いつもお姉ちゃんが採ってる薬草はネツサゲ草って解熱作用が有るってキチンと載ってるよ」
「そうだね・・・・・・。じゃあこっちも薬草なのかな。おじさん間違ってたのかな」
「グアー…略…(だから騙されてるって言ってるだろが)」
「騙されてるんじゃない? 」
ジョアンがオレが言いたいことを代弁してくれた。
こうして雑草は、キチンと解毒効果の有る薬草と認識された。
というわけで、デミもジョアンも雑草と言われた草が、薬草だと判ったのだ。
後はどうやって薬師を追い詰めるかだが、……仲買商に売るといっていたから、そこを上手く利用するしかないとオレは思っていた。
仲買商に転売するところを現行犯逮捕だ。
「お姉ちゃん、ペンペンがまた悪い顔してる」
「これが本当の顔なんじゃないの」
失礼な。
※
そして今日行商人が来る当日、オレ達は薬師が来るのを待ち構えていたのだ。
オレがぶちまけてやった、薬師の持ってきた草をジョアンがわざとらしく雑草だと指摘したのだ。
「え、雑草だって? ・・・・・・坊主お前は目利きが出来ないんだね」
仲買商の男は残念そうな目でジョアンを見る。
「これは雑草じゃなくって、れっきとした薬草なんだよ。むしろこっちの方が価値が高いんだ。解毒効果があるからね」
やはりそれは解毒効果のある薬草だった。辞典はあってた。オレの知識もあってたな。
「ええっ? でもあたしおじさんから雑草だって教えられたのよ」
デミもあくまでも惚ける。
それを聞いて仲買商のオヤジが薬師オヤジを睨んだ。
「スットロさん、それは一体どういうことかね」
「ああ、いやその・・・・・・ま、間違いなんだよ。そう間違い。そうだこれは解毒作用のある高級薬草だったよ、そうだ思い出した、ハハハ・・・・・・」
「この薬草は、全てこの嬢ちゃんから買ったものなのかい」
乾いた笑みで誤魔化そうとするスットロだが、仲買商の親父はなおも追及する。
「えっといやあ、どうだったかな」
「僕達が採ってきた物だよ」
なおも誤魔化そうとする薬師オヤジだが、ジョアンが肯定する。
「この袋の端っこにDJって書かれてるでしょ」
ジョアンは麻袋の端に書かれているDJをデザインしたマークを指差す。「これはお姉ちゃんデミと僕ジョアンのスペルです。薬師のおじさんに雑草を採ってきてって言われて、昨日その袋にいれて採ってきた物です。焼却処分にするって言ってたんですけど」
そういえばこの薬草はまだ新しそうだね――、と仲買商のオヤジは言った。
「何か、大きな誤解が――」
「スットロさん、これはちょっと、名主さんも交えて話した方いいようですね」
いつの間にか後ろに立っていたのは、シルベスタとアーノルドの筋肉ブラザースだ。
分厚い筋肉の壁に阻まれて、薬師は蒼い顔をする。
「僕が呼んできてあげるよ」
「あ、いやその……」
誤魔化そうとする薬師オヤジだが時すでに遅しだ。親父が言うのを受けて、さっそく上の弟ジョシュアが名主を探しに走っていった。
「なんでこんなことを……」
仲買商のオヤジはマジメな性格をしているらしい。
「人に……領都にいたときに人に騙されて借金をして、苦労した反動で妻が亡くなり、今度は騙す側になってやろうと……。許してください」
薬師のオヤジが膝を突いて俯いてしまった。
もう言い逃れできないと観念したのか、たまりかねたように白状した。
人に騙されて奥さん亡くしたのか、同情の余地は有るけどな。
でも、病気の人を抱える家族の弱みに付け込んで効きもしない薬を売りつけて、しかも高級薬草を雑草と偽って騙し取ろうとしたんだ。
それとこれとは話が別だ。
と思ったその時、
「お父さん……お仕事終わった? お買い物、行ける? 」
幼い子供の声が響いた。
声をかけてきたのは五歳くらいの女の子だった。
薬師オヤジの娘なのだろう、俯いたオヤジの顔を下から不安そうに覗き込んでくる。
この娘も買い物を楽しみにしてたのだろうか。
母親もなく、父親の仕事終わりをじっと待ってたのかな。
「アリシャ……。ままだかかるからもうチョット待っててね」
半泣きしながら無理やり笑おうとして、親父は変な顔になっている。
これは、辛いな。
子供の前で、犯罪者となって吊るし上げを食らうなんて。見ているのも辛い。娘や当事者の父親はもっと辛いだろう。
もし、父親が牢屋にでも入れられたら、娘は一人ぼっち……。
考えただけでも身震いするような話だ。
……だ、だけど、それは自業自得だ。
コイツが嘘をついて効きもしない薬を売りつけたことで、病人は苦しみ続け、それを見守る家族も辛い思いを続けたのだ。その必要も無いのに。
罪を犯したものは、その罪を償わなければならない。
オレはそう思う。……だけどなあ。
だからと言って、この娘が寂しい思いをするのは……。
そこにジョシュアに連れられて名主がやってきた。
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