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2 距離を置きたい
しおりを挟む私――広瀬紬と、恋人の西橋倫太郎は、中学で出逢った。
けれど、その頃の私たちはただの同級生にすぎなかった。
そして高校に進み、委員会で隣に並ぶようになった時から、少しずつ距離が縮まっていく。
その変化に気づいた時には、もう倫太郎のことを目で追わずにはいられなくなっていた。
「つむぎ。俺と付き合ってほしい」
そんなある日、倫太郎から告白された。
唐突で、少し照れくさい声に、胸が高鳴る。
あの時の私の心は、純粋に喜びでいっぱいだった。
だって中学時代から、サッカーに真剣に打ち込む倫太郎のことは、好意的に思っていたから――。
高校時代は、互いに部活が忙しく、外で会える時間はほとんどなかった。
でも、下校時に一緒に歩くほんの少しの時間も、私にとっては宝物だった。
駅で待ち合わせて、少し会話をするだけでも、胸が温かくなる。
倫太郎を待つ時間は、全く苦ではなかった。
大学は、ふたりとも地元の大学を選んだ。
地元の友達も多くいたので、高校時代とほとんど変わらない生活だった。
その生活が変わり始めたのは、倫太郎が大手企業に就職してからだ。
倫太郎は、毎日残業で仕事に追われていた。
仕事が忙しいと連絡が取れなくなることが増え、心配になった私は、倫太郎を支えるために上京。
同棲はまだ早いと親に反対されていたので、私は自分で部屋を借り、仕事帰りに彼の家に通い、ささやかな家事を手伝った。
部屋の掃除をし、洗濯、温かいご飯と、お風呂の準備をしただけだったけど、仕事でクタクタになった倫太郎が笑顔で「助かる」と言ってくれるだけで、私は胸がいっぱいになった。
やがて、仕事にも少しずつ慣れてきた倫太郎。
二年もすれば落ち着き、すれ違いの日々の中でも、彼の仕事がうまくいけば、私も思わず笑顔になった。
けれど、会えても一緒に過ごす時間は短く、会話もほとんどない日が続いた。
脱ぎっぱなしの服を片付けながら、ふと、「私は倫太郎の彼女じゃなくて、お母さんなのかもしれない」と思うことも増えていった。
でも、私が会いに行くのをやめれば、倫太郎との関係は終わりを迎えてしまう。
そんな気がして、私は足を運び続けた。
そして、九回目の記念日に、どうしてもきちんと話をしたいと伝えた。
「あと一年待ってくれ。二十五になったら、結婚しよう」
その言葉が、私の心の支えだった。
だから、交際十年目の記念日――その日に、プロポーズされるかもしれないと、胸の奥で小さく期待していた。
けれど、現実はあまりに冷たく、残酷だった。
(会えるのは……来月って……)
呆然とスマホを握りしめる。
十年も一緒に歩んできたのに、私はいつも「後回し」にされていた。
――私たちは、本当に恋人なのかな……?
そんな不安が、心に広がっていく。
堪えきれず、私は勇気を振り絞ってメッセージを送った。
「二十五日に会う約束をしたけど、それより早くに一度、会えないかな? 十分でもいいから……。倫太郎の顔が見たい」
初めて口にした、私の小さなわがまま。
彼がどれほど忙しいのか、わかっている。
それでも――どうしても知りたかった。
今の彼の気持ちが、まだ私に向いているのかどうかを……。
数分後、震える手の中でスマートフォンが光る。
画面に映し出された文字を見た瞬間、息が詰まった。
『ごめん……。しばらく、距離を置きたい』
音を立てて、世界が崩れていく。
彼が私に会わない理由。
仕事が忙しいだけじゃない。
心も離れていたのだと、知った夜だった――。
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