仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!

ぽんちゃん

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25 支えたいのに

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 月曜日の昼休み。
 スマホの画面を見つめたまま、私は箸を持った手を止めていた。


「……ただ、お弁当を作っただけなのに」


 メッセージアプリに並ぶ文字のひとつひとつを、何度も、何度も読み返す。

 お弁当を褒められるなんて、いつ以来だろう。
 しかも「写真を撮った」とまで言ってくれた。

 最初は信じられなくて、思わず感想の部分をスクリーンショットしてしまった。
 ……それは、私だけの小さな秘密だ。

『ありがとう』『美味しかった』――そんな当たり前の言葉が、どうしてこんなに胸に沁みるんだろう。

 そして最後の一文。


『あと、卵焼きが可愛かったです』


 ――やっぱり、気づかれてた。

(ひとつだけ、こっそりハート型にしたのに)

 スルーされるだろうと思っていたから、まさか“可愛かった”なんて言われるとは思わなかった。

 スマホの画面を見ながら、思わず顔を両手で覆う。
 嬉しくて、どうしようもなくて、胸の奥がくすぐったくなる。

 仕事中も、帰り道も、ベッドに入ってからも――ふと思い出しては、頬が緩んでしまう。
 自分でも笑ってしまうくらい、幸せな気持ちで溢れていた。





 けれど、お弁当を渡した次の週から、神崎さんの様子が少しずつ変わっていった。
 メッセージの返信は夜中や明け方に届くようになり、約束していた土曜の食事会も延期になった。

『すみません、今日は残業で。明日も少し立て込んでいて……』

 そんな文面に、私は「お疲れさまです」と返すことしかできなかった。
 寂しい気持ちはあったけれど、仕事を頑張る神崎さんを応援している。
 ただ、疲れているだろう彼の体調が心配だった。

(きっと、何か大きな案件を任されているんだ……)

 倫太郎とは違って、神崎さんは会社の後継者だ。
 忙しいのが当たり前の立場なのに、これまで週末に会えていたこと自体、奇跡みたいなものだった。
 もしかしたら、私に合わせるために無理をして時間を作ってくれていたのかもしれない。

 そんなことを思いながら、ふとスマートフォンを手に取る。
 神崎さんから連絡が来ていないか確認するつもりが、画面に目をやった瞬間、ニュースの見出しが飛び込んできた。


『神崎グループ、顧客の個人情報漏洩か――』


 一瞬、呼吸が止まる。
 記事を開くと、「システムの不具合によるもの」と報じられていた。
 そして、顧客の個人情報が悪用されないよう、全力で対応しているとコメントする神崎さんの言葉が添えられている。

(……まさか、こんな大事件が起きていたなんて)

 ニュースの中の「神崎」の名前を見つめるうちに、胸の奥が締めつけられた。

 彼を支えたい。
 少しでも力になりたい。
 ――そう思うのに、私はただの友人で。

 できるのは、心配することだけ。
 そのもどかしさが、静かに胸の奥に滲んでいった。



 ◇ ◇ ◇
 


 何もできないまま、時は過ぎていく。
 次の週末の約束も延期になり、「また落ち着いたら」と謝罪の連絡が来ていた。

(……今は会社が大変な時だし、私なんかに時間を使わなくてもいいのに)

 そう思いながらも、スマートフォンの画面を見つめてしまう。

 “落ち着いたら、会いたいです”

 その一言を、打っては消す。

 そんなことを何度も繰り返していた矢先、会社の給湯室で珈琲を淹れていると、同僚たちの声が聞こえてきた。


「ねえ、聞いた? 神崎グループの情報漏洩の件」


 ――その社名を耳にした瞬間、胸の奥がどきりと鳴った。

 思わず手にしていたマグカップを握りしめる。
 彼の会社の話題が、こうして世間の噂として広まっていることが、妙に現実味を帯びて迫ってきた。


「あれね。実は、システムの不具合が原因じゃないらしいよ」

「えっ、そうなの?」

「私の知り合いが働いてるんだけど、本当は、社員の誤送信が原因みたい」

「うそ! やば……」

「それで、イケメン御曹司が謝罪に回ってるんだって」

「うわー、気の毒……。でも、かっこいいから、もし私が謝られたら、すぐ許しちゃうかもっ」


 彼女たちの笑い混じりの声を、私は無言で聞いていた。
 まるで他人事のように流れていくその話題の中に、私の知る「神崎さん」の姿があった。
 どんな思いで頭を下げているのだろう。
 どれほど眠れない夜を過ごしているのだろう。

 支えたいのに、何もできない――その現実が、静かに心を刺した。

 















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