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4 アナスタシアの友人
しおりを挟むなんとしてでもアナスタシアに会いたくて、彼女の友人達の元を訪ねることにした。
皆に白い目を向けられたが、私は彼女を愛しているし、離縁したくない旨を熱く語った。
けれども誰もアナスタシアの居場所を知らなかったし、知っていたとしても教えるつもりはないとまで言われてしまった。
最後に、学園時代にアナスタシアと一緒になって下位貴族達を虐めていたと噂されていたレベッカ・ストーン侯爵夫人に会いに行く。
私の学園時代からの友人──ギデオンと婚姻しており、ストーン侯爵家に婿入りしているので、なんとか取り次いでもらうことが出来た。
気の強い性格で私の苦手な相手だったが、もう彼女しか頼みの綱はいなかった。
扇子で口許を隠しているが、燃え上がるような真っ赤な瞳は怒りを孕ませている。
尻込みしそうになるが、アナスタシアのことを話すと、レベッカ夫人は鼻で笑った。
「ナーシャのことを蔑ろにしていたくせに、どの面下げて私に会いに来たんです?」
「っ、蔑ろになどしたことはない! 私と彼女は愛し合っていた!」
「あら、クルーズ伯爵が真顔で嘘を吐くなんて。あの女狐が贅沢をしているから、金銭的な余裕がないのですね? 必死ですこと」
ふふっ、と笑い声を上げているが、彼女は何か誤解をしている。
私はアナスタシアのことを心から愛しているし、金の為ではない。
そう語っているのに、一切信用されなかった。
そして、驚きの事実を知ることになる。
アナスタシアとクララは、学園時代の同級ではあったものの、友人ではなかったのだ。
私はクララから、アナスタシアとは親友だと聞いていた。
逆に、アナスタシアも否定はしていなかったが、肯定もしていなかったことを今更思い出す。
「想像してみて下さい。愛する方の恋人が子を宿し、娶りたいと言われて……。更には相手が自分の学園時代の同級の下位貴族。しかも人前では言えないような噂もありましてよ?」
「っ、それは義兄のことだろうか?」
「ふふ、いえ。クラウス様は、クララとは顔を合わせたことすらないかと」
「…………なんだって?」
レベッカ夫人の話が真実かはわからないが、彼女が嘘をついているようには見えなかった。
クララからは、義兄のクラウスから度々暴行をされていたと聞いていたが、嘘だったのか?
当時のクララの様子を思い出し、それはありえないと考え直す。
「ハミルトン男爵令息。ユバル子爵令息。ノーバード伯爵令息」
急に彼女が令息達の名を上げ出し、怪訝な顔をする私を嘲笑い始める。
「まだお気づきになりませんの? 最後は、クルーズ伯爵令息」
「っ、私のことか?」
「ええ。クララが手篭めにしたお相手ですわ? うまくやりましたわよね? より良い嫁ぎ先をと、婚約者のいるお相手に色目を使っていたことをご存じなかったのかしら」
「…………まさか」
「有名な話ですよ? ですから、貴方がクララの悪行を知りながらも愛しているのだと思っておりましたわ? それに……ナーシャには口止めされていましたので」
ひゅっと息を呑む私に、レベッカ夫人は悲しげに目を伏せる。
「ナーシャは貴方のことを心から愛しておりました。ですから、貴方が傷つかないようにと手を回していたのですよ? ……貴方に裏切られても」
唸るように告げられて、彼女の話していることが真実であると肌で感じた。
「裏切るなんて……」
「あら。ナーシャとのたった一つの約束すら守れなかったくせに」
「っ、私は二人を平等に愛していた! むしろ、ここ最近はナーシャを……」
それ以上は聞きたくないとばかりに、扇子をぴしゃりと音を立てて閉じる。
「ではなぜ約束を守られなかったのです? その約束の内容もどうかと思いましたけど……。ナーシャは貴方を愛していましたので、彼女がそうしたいならと私は何も言いませんでしたけど……。三年目に第二夫人を迎え入れると約束していたのに、なぜ一年目で迎え入れたのです?」
予期せぬ質問に呆気に取られる。
それはクララが身篭ったからだと言おうとしたが、ようやく自分が何をしたのかに気付いた。
あれほどまでにアナスタシアに「約束をお忘れですか?」と何度も聞かれていたのは、このことだったのか。
てっきりアナスタシアがやきもちを妬いていると思っていたが、そうではなかった。
私が約束を破ったから聞いていたのだ。
アナスタシアと婚姻して一年後にクララが身篭り、クルーズ伯爵家に迎え入れることになった。
当初は難色を示していたアナスタシアを、何度も説得した。
最後は、約束を忘れたのか! と、二人で交わした約束を自ら破った私が、アナスタシアを怒鳴りつけたのだ。
「クララと、クルーズ伯爵家の跡継ぎのことを見捨てるのか。と仰ったそうですね?」
「…………ああ」
「どうしてそのようなお考えになったのか、私には理解出来ません。なぜ第二夫人にもなっていない段階で、愛人であるクララの子がクルーズ家の跡継ぎになるのでしょう?」
──ナーシャは、健康体なのに。
「ナーシャが子を産むことの出来る身体であることは、マーヴィン医師が証明していますわ」
その後。
彼女が話し続けていたが、私は上の空だった。
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