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6 使用人
しおりを挟む一年前。
アナスタシアが毒を盛られて倒れていた。
それも、私の信頼する我がクルーズ伯爵家の使用人の手によって。
真相を知った私は、誰を信じたら良いのかわからなくなってしまった。
アナスタシアに仕えていた使用人に話を聞けば一発なのだが、皆退職してしまっている。
自室で項垂れているところに、私語の多い使用人のケイティが紅茶を持ってやって来た。
そして、嬉しそうに言ったのだ。
──やっと邪魔者はいなくなりましたね。
「何を言っているんだ?」
「ですから、これでクララ様が第一夫人になりますでしょう? 良かったではありませんか」
もう、私はアナスタシアを愛していると、叫ぶことが出来なくなっていた。
黙り込む私を他所に、ケイティはぺちゃくちゃと楽しそうに話し続ける。
婚姻前に私とクララが秘密の恋人同士だったことを、使用人達は皆知っていたのだ。
初夜を共にしなかったのは、私がアナスタシアを愛しておらず、クララを想っていたからだと判断した。
政略結婚をさせられた私を不憫に思っていたときに、身篭ったクララが伯爵邸に来た。
アナスタシアの言い分を無視して、クララを住まわせた私の態度を見て、私とクララの真実の愛が実ったことに、皆が歓喜したのだ。
アナスタシアによって引き裂かれた運命の恋人達が、悪役の前で幸せそうに過ごす様子に、私がアナスタシアを追い出そうとしていると判断した。
碌に会話もせず、皆一丸となってアナスタシアにとって居心地の悪い場所を作り上げた。
そして別邸に移ってからは、アナスタシアをいないものとして扱っていた。
まるで自分達が正しいことをしたと、誇らしげな表情をするケイティ。
以前の私も、クララを守る為だと、アナスタシアの前でこんな間抜けな顔をしていたのだろうか。
そして私は使用人達を集め、皆がアナスタシアに対して何をしたのかを聞いた。
私がアナスタシアを愛していないと思い込んでいる使用人達は、我先にと話始める。
「食事は使用人以下の物を出していました。あの方は食いしん坊でしたからね~。かなり、堪えていたと思いますよ?」
「自由にできるお金も、ケビンがクララ様に回していましたからね」
「安物のドレスを着回して。ふふっ、公爵家ではありえないことなのに、ジェフリー様のことが好きだからって醜いわ」
「そうそう、別邸に追い出されたっていうのに」
笑いながら話す使用人達に、深く溜息を吐いた。
「私はナーシャを愛していた。なぜ、皆がそのようなことをしたのかは……。全ては私の態度が原因だな」
「何を仰っているんです? アナスタシア様を別邸に追い出したのに」
「追い出したのではない。彼女は病気だったからだ」
「アナスタシア様が病気?」
顔を見合わせて笑い出す使用人達は、ありえないと繰り返す。
「いずれはわかることなので話しますけど。ジェフリー様に好かれたいからって、領地まで出向いて対策を練っていたんですよ? 領民の心を掴んで、ジェフリー様に自分の価値を知らしめたかったんでしょうね? まぁ、全てはクララ様がしたことにしましたけど」
「…………は?」
「ですから、アナスタシア様は病気なんかじゃありません。むしろ元気が有り余っていました」
「ジェフリー様もわかっていたんじゃないんですか? クララ様が領地に関わるアドバイスを出来るような方ではないと。だから表向きはアナスタシア様を病気だと言って、別邸に追い出した。アナスタシア様を愛していたのなら、毎日顔を見に行っているはずですもの」
「そうそう。週に一度の顔見せを全うされていたことに、私達は感心していましたよ?」
使用人達の醜い笑い顔を見ていられなくて、両手で顔を覆った私は力なく崩れ落ちる。
アナスタシアの待遇を想像しただけで、苦しくて胸が締めつれられた。
私を愛していたから、三年も耐えていたのか。
それも一人で。
逆にクララは、使用人達に守られ、私と睦み合って贅沢をしていたということか。
涙を流す私を前に、使用人達は体調が悪くなったのかとあたふたし始める。
その態度は、私がアナスタシアを愛していると未だに気付いていないようだ。
止めどなく流れる涙を拭うことも面倒で、ゆっくりと立ち上がる。
「私は、心の底からナーシャを愛していた。わかっているとは思うが、皆が笑って暮らせるのは全てナーシャの実家であるキンバリー公爵家のおかげだ。皆の給料は、全てナーシャが支払っていたようなものだ。それなのに、どうして……そんな酷いことが、出来たんだっ……」
ようやく事の重大さに気付いたのか、皆一様に顔色が悪くなる。
「私はナーシャが本当に病気だと思っていた。だから療養の為に、別邸で穏やかに過ごして欲しかった。あまり顔を見せに行くと、ナーシャの体調が悪くなるかもしれないからと遠慮していただけだ。本来なら抱きしめたかったが、彼女の身体のことを思って肌に触れないように我慢していたんだ」
真剣な表情で伝えれば、皆が息を呑む。
「ナーシャには、婚姻前にクララを第二夫人にしたいとお願いしていたんだ。本当ならば嫌だっただろうに、二人とも平等に愛することを条件に快諾してくれたんだ。そのときから、私はずっとナーシャを愛している」
「そんなっ……」
「クララのことを好いてはいるが、私が妻だと思っていたのはナーシャだけだ。でも平等に愛すると約束していたし、自ら願い出たことだ。それにジェイクもいる。今更クララを追い出すことなど到底出来なかった……」
言葉を失う使用人達に、力なく笑った。
「クララを助けたいからと、第二夫人として迎え入れるべきではなかった。ナーシャだけを大切にすべきだった……。もう、何もかも遅いが……」
──クルーズ伯爵家は終わりだな。
緩やかに衰退していく未来を想像出来た。
だが、どうしてもアナスタシアに会いたい。
儚げに笑う彼女を忘れることが出来ない。
だって、この世で一番愛しているから……。
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