9 / 28
9 落胆
しおりを挟む離縁することとなったアナスタシアに関わる人物達に話を聞き終えたが、全てはクララが絡んでいるいうことが分かった。
だが、クララ本人が何かをしたわけではないのだ。
アナスタシアと親友だと嘘をついたことも、クララの中ではアナスタシアとは友人で、親友だと思っていたと言われれば、それで終わりだ。
ジェイクに会いに行かずにどこに行っていたのだと聞いて、遊びに行っていたと言われれば、それで終わりなのだ。
私とクララのことを思って、使用人たちが暴走したという結果だけが突き付けられた。
そして、彼らだけではない。
アナスタシアの為と言い、配慮に欠ける行動を取った私こそが主犯だった。
私にそんなつもりは微塵もなかったのだが、アナスタシアの立場に立って考えてみると、実に酷な事をしていたとようやく理解出来た。
使用人から話を聞いた時に、なぜそんなことをしたんだ、と問い詰めるのではなく、まずはアナスタシアの話を聞くべきだった。
もう、アナスタシアとの離縁は受け入れるしかないだろう。
全ては私が招いた結果なのだ。
アナスタシアがどこにいるかもわからないが、謝罪だけはしたいと願っていた。
日中は彼女の部屋で反省する日々を送っていた私の元に、兄のジェラルドが訪ねて来た。
使用人に呼ばれて本邸に行けば、兄の腕に恋人のように纏わり付くクララ。
私が来たことにも気付かずに、空色の瞳を輝かせていた。
頭を抱えたくなりつつ兄に声をかけると、困ったように肩を竦めながら軽く手を上げる。
直様クララの無礼を謝罪すると、兄は「可愛い嫁だな」と笑って許してくれた。
相手が私の兄だったから良かったものの、他所の旦那に同じような事をしていれば、大変なことになっていただろう。
人との距離感が近いクララに悪気はないのだが、もう注意することも面倒だ。
五年ぶりに再会した兄は、以前よりも逞しくなっており、魅惑的な男前だ。
私と同じ金髪碧眼だが、系統の違った凛々しい顔立ち。
気取らない性格の為、友人も多い。
だが、女性関係はさっぱりだ。
なぜなら、十年前に相思相愛だった婚約者を病で亡くしているからだ。
亡くなった婚約者のことを忘れることが出来ず、以降は独り身を貫いていた。
兄の隣に座ろうとするクララを無理矢理引き剥がして、私の隣に座らせる。
その間も、ひたすら兄に熱視線を送っているクララは、自分が人妻であることを忘れているのだろうか。
まぁ、もうどうでも良いが。
本邸が以前よりも豪華になっていることに驚いていた様子の兄には、笑って誤魔化した。
公爵家のご令嬢と結婚したおかげだということも、白い結婚で離縁されたことも話せなかった。
暫し歓談して一息ついた時に、兄が心の底から嬉しそうに笑った。
「ようやく結婚したい相手と出会えたんだ」
兄の言葉に目を丸くする私に対して、クララは「えぇ」と不貞腐れたような声を出した。
喜ばしいことなのに、なぜか膨れ面をしている。
なぜこんな無礼な女を、第二夫人にと望んだのだろうか。
アナスタシアを失う羽目になったのは自分のせいなのだが、どうしても憎らしく思ってしまう。
溜息を堪えながら、笑顔で兄を祝福した。
私とは違い、色気のある美形のジェラルドを落とした女性はどんな人物なのだろう。
兄の心の傷を癒してくれた方に、感謝の言葉を述べたいと思う。
兄は軍人になり、隣国での特別任務を見事に遂行して、今では国の英雄とまで呼ばれている。
私の自慢の兄だ。
表彰式も兼ねての婚約発表になる為、盛大な式になるだろうと予想出来る。
またクララにドレスを強請られそうだな、と落胆しながらも楽しみにしていると兄を見送った。
アナスタシアが居なくなってから、クララともギクシャクしている。
援助が無くなったというのに、昔のように贅沢をし続けるのだ。
夜会に出席したがるクララだが、第二夫人を伴うことは出来ないため、我慢させていたことを不憫に思い、よく外出していた。
その際にあれこれ買ってあげて、物で満足させていた私にも非があるのだが。
それもこれも全てキンバリー公爵家のおかげだったと言うのに。
何度話しても理解してくれないクララに、ほとほと愛想が尽きている。
それに理由はわからないが、近所でも白い目で見られるようになっている。
予想するに、礼儀のなっていないクララに非があるのだろうが、アナスタシアのような淑女になれと言っても無理な話である。
他にあるとすれば、私はクララとばかり出かけて、なんでも買い与えていた姿に、私がクララだけを寵愛し、アナスタシアを蔑ろにしていたと勘違いしている可能性もあるだろう。
もう無駄遣いは出来ないのだが、兄の晴れ舞台だからとクララにドレスを仕立てることにした。
いつもの仕立て屋に来てもらうように連絡を取ったが、断られてしまった。
アナスタシアがいたからこそ多忙な時でも訪れていただけで、離縁したのであれば予約を取って、自ら足を運べと告げられた。
それに、予約は十年先まで埋まっているそうだ。
要は、二度と利用するなと言うことだろう。
仕方なく他の仕立て屋にも連絡を取ったのだが、どこも予約で埋まっていると告げられた。
キンバリー公爵家が手を回しているのかはわからないが、厄介事に関わりたくないのだろう。
新しいドレスを購入する余裕もないので、事実をクララに伝えると駄々を捏ね続けていた。
彼女のクローゼットの中には、溢れんばかりのドレスが用意されている。
逆に、アナスタシアの部屋に残されていたドレスは三着だけだった。
それも時代遅れのものだ。
なぜ気付かなかったのかと聞かれれば、アナスタシアはいつも寝巻きのような服を着て、ベッドで寝ていたからだ。
そもそも、どうして私は最初からアナスタシアを病弱だと思っていたのだろうか。
過去を振り返ってみても、誰に言われたのかは全く覚えていないのだ。
433
あなたにおすすめの小説
『恋心を凍らせる薬を飲みました』 - 残りの学園生活、どうぞご自由にお遊びください、婚約者様
恋せよ恋
恋愛
愛されることを諦めた。だから、私は心を凍らせた。
不誠実な婚約者・ユリアンの冷遇に耐えかねたヤスミンは、
伝説の魔女の元を訪れ、恋心を消し去る「氷の薬」を飲む。
感情を捨て、完璧な「人形」となった彼女を前に、
ユリアンは初めて己の罪と執着に狂い始める。
「お願いだ、前のように僕を愛して泣いてくれ!」
足元に跪き、涙を流して乞う男に、ヤスミンは冷酷に微笑む。
「愛?……あいにく、そのような無駄な感情は捨てましたわ」
一度凍りついた心は、二度と溶けない。
後悔にのたうち回る男と、心を凍らせた冷徹な公爵夫人の、
終わりのない贖罪の記録。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
本日、私の妹のことが好きな婚約者と結婚いたしました
音芽 心
恋愛
私は今日、幼い頃から大好きだった人と結婚式を挙げる。
____私の妹のことが昔から好きな婚約者と、だ。
だから私は決めている。
この白い結婚を一年で終わらせて、彼を解放してあげることを。
彼の気持ちを直接聞いたことはないけれど……きっとその方が、彼も喜ぶだろうから。
……これは、恋を諦めていた令嬢が、本当の幸せを掴むまでの物語。
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?
綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。
相手はとある貴族のご令嬢。
確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。
別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。
何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?
白い結婚をめぐる二年の攻防
藍田ひびき
恋愛
「白い結婚で離縁されたなど、貴族夫人にとってはこの上ない恥だろう。だから俺のいう事を聞け」
「分かりました。二年間閨事がなければ離縁ということですね」
「え、いやその」
父が遺した伯爵位を継いだシルヴィア。叔父の勧めで結婚した夫エグモントは彼女を貶めるばかりか、爵位を寄越さなければ閨事を拒否すると言う。
だがそれはシルヴィアにとってむしろ願っても無いことだった。
妻を思い通りにしようとする夫と、それを拒否する妻の攻防戦が幕を開ける。
※ なろうにも投稿しています。
その結婚は、白紙にしましょう
香月まと
恋愛
リュミエール王国が姫、ミレナシア。
彼女はずっとずっと、王国騎士団の若き団長、カインのことを想っていた。
念願叶って結婚の話が決定した、その夕方のこと。
浮かれる姫を前にして、カインの口から出た言葉は「白い結婚にとさせて頂きたい」
身分とか立場とか何とか話しているが、姫は急速にその声が遠くなっていくのを感じる。
けれど、他でもない憧れの人からの嘆願だ。姫はにっこりと笑った。
「分かりました。その提案を、受け入れ──」
全然受け入れられませんけど!?
形だけの結婚を了承しつつも、心で号泣してる姫。
武骨で不器用な王国騎士団長。
二人を中心に巻き起こった、割と短い期間のお話。
訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果
柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。
彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。
しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。
「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」
逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。
あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。
しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。
気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……?
虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。
※小説家になろうに重複投稿しています。
白い結婚の行方
宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」
そう告げられたのは、まだ十二歳だった。
名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。
愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。
この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。
冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。
誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。
結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。
これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。
偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。
交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。
真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。
──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?
完結 愛のない結婚ですが、何も問題ありません旦那様!
音爽(ネソウ)
恋愛
「私と契約しないか」そう言われた幼い貧乏令嬢14歳は頷く他なかった。
愛人を秘匿してきた公爵は世間を欺くための結婚だと言う、白い結婚を望むのならばそれも由と言われた。
「優遇された契約婚になにを躊躇うことがあるでしょう」令嬢は快く承諾したのである。
ところがいざ結婚してみると令嬢は勤勉で朗らかに笑い、たちまち屋敷の者たちを魅了してしまう。
「奥様はとても素晴らしい、誰彼隔てなく優しくして下さる」
従者たちの噂を耳にした公爵は奥方に興味を持ち始め……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる